知覧編 第13話 鍵のかかったひきだし
台所シリーズ第4部「台所の世界をかえる」知覧
第13話 鍵のかかった引き出し
◇
だれが、この国の“開かずの引き出し”を埋めこんだのだろう。
父の開かずの引き出しも、海の一粒のようだ。
──あの特攻隊記念館だけで、太平洋を一粒分。
◇
悲しみが怒りに変わり、さらにその怒りが膨れ上がったら、
どうにかなってしまいそうな気がする。
自宅のリビングのテーブルに置き忘れたSwitchの白シャツ。
今を生き、今を歌う君が言った「当事者意識」という言葉が、
まるでブーメランのように、私の五十七年をまっぷたつに引き裂いていく。
◇
戦争を知らないというわけではない。
私は、育ててもらったのだ。
血と汗と、見せない涙で。
この国は、引き出しどころか、
いくつものもの──すべてを奪ってきたのだから。
なんで、もっと早く気づかなかったのだろう。
気づいたからって、変われる? 変われない?
◇
飛行機が降りる準備を始める。
鳥のように、ライト兄弟が孵したグライダーが、
たった二百年でクジラのような燕に進化した。
バラコさんが言う「品種改良」という技術革新のおかげで、
“みんなで飛びたい”という夢が、たった百年で実現した。
◇
私は五十七歳で、
この羽田にいったい何度、降り立ったのだろう。
羽田に降り立ったのは、三十七年前の大学一年の夏。
鳥と同じこの風景に、涙を流していた。
迎えに来た家族は、満面の笑みで私を迎えてくれた。
お月様のように、ふっくらとした顔で。
◇
羽田を見上げると、いつでも思い出す。
成人式さえしていなかった私に、
この羽田が「あなたはもう大人なのよ」と教えてくれた。
◇
飛行機が下りる。
その重力のバランスを崩さぬような息遣いとともに、
モナ・リザの微笑みのように、
知覧の盆踊り大会が、七歳の夏の夜に浮かんでくる。
いつでも、父の手に引かれながら歩いた距離の横で、
あの忘れられない光景。
思い出しては、やっぱり忘れようと、
幻だと言い聞かせていた──幼い私が見た光景。
◇
花火大会。
何千の火の玉に囲まれていた。
「おとうさん、白い魂みたいなものがたくさん見える」
そう言った私に、父は静かに前を見つめながら言った。
「それは、いきたかった人たちの魂なんだよ。
こんなにたくさんいるんだよ」って。
──確かに、言った。
◇
何日も眠れなくなった。
怖いけれど、ずいぶん後になって、お母さんに聞いた。
「知覧で、火の玉みたいなものを見た。
すごい数だった」と。
お母さんは言った。
「昔はよくあったのよ。火の玉が。
土葬だったからね。骨に“リン”という成分が含まれていて、
それが反応すると火の玉になるのよ」
◇
高校の化学の教科書で習った“リン”という言葉が、
ポンと出てくるのが不思議だった。
もしかして、お父さんは──
まっすぐ前を見ながら、考えてくれていたのかもしれない。
どちらにしても、もうお母さんに聞くのは、やめようと思う。




