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第9話 身内の再会

 白銀の麦畑が風によって揺れ踊る中、おばあ様とお母様が小高い丘にいて、私に手を振っている。大好きな人たち。

 もう一人、私の隣に誰か居たような?


「お前たちが本当に困ったとき、その時にきっと《タカマガハラの庭》にいる、おじい様が助けてくださるわ」

「おじい様? おじい様は教会本部にいるのに?」


 おばあ様は私と同じ鮮やかな黄(ジョーヌ・ミモザ)色の双眸で見つめる。


「いつか分かるわ」

「ん」


 おばあ様の温かな手が好きだった。頭を撫でてほしいと強請ると「あの人も同じことを言っていたわ。私の手が好きだって」と微笑んだ。

 あの人、おじい様のことね。立場上、あまり一緒に居ることはできないらしい。子供ながらにどうしておじい様と一緒に暮らせないのか、分からなかった。


「そう。中々会えなくなってしまったけれど、ずっと私たちの子らを見守ると約束してくれたのよ。その人の名前はユウエナリス・ガブリエル・イグンリス。マリー、貴方の祖父の名」

「おじい様」


 風が吹き荒れ、世界が揺らいだ。

 おばあ様の姿が夕闇と共に消えていく。


「待って、お願い!」

「マリー、愛しているわ」


 夕闇はあっという間に闇へと変わり、漆黒に染めてしまう。

 白銀の美しかった世界も、傍で微笑んでいた母も、みんなみんな漆黒で塗り潰されてしまった。

 私、独りを置いていなくなる。

 そして約束した――()()――。


「……彼?」



 ***



 気付くと見知らぬ天井が見えた。

 星が見える荒屋でも、病院とも違う。ベッドはふかふかで上質な布が使われており、天蓋も見事なものだ。明らかに身分の高そうな屋敷の一部屋だというのが分かる。


「おばあ様の屋敷?」そう思ったけれど、国境を越えてグルナ聖国に戻ってきたのかしら? 国境周辺の街で──?

 ()()()()()()()()()()()()()……?


 私の傍に白銀の狼のヴァイスと蛇のリュイが寄り添って眠っていた。二人ともぐっすりと眠っているのは、よっぽど疲れたのだろう。無理をさせてしまったのね。


「ああ、目覚めたい。よかった~~~~! ずっと眠っているからこのまますっごく心配したんだよぉ~~~!」

「え」


 部屋に入ってきた男は二十代後半の美しい人で、長い若草色の髪にジェードグリーンの瞳、陶器のように艶のある肌、造形が整った彼は真っ白な法衣に身を包んでいる。見間違うわけがない。でも明らかに雰囲気とか口調が別人だった。

 ユウエナリス・ガブリエル・イグンリス。私の祖父はもっと無表情かつ感情の機微の無い人だった──はずだ。


「お、おじい様!?」

「そうだよ~~~~、マリー!!」


 おじい様の姿に驚いた訳ではない。元々おじい様は精霊と森人族(エルフ)の末裔なので長寿だと聞いている。だからお父様よりもずっと若い──ではなくて、そうそのテンションと表情だ。

 私の知っているおじい様は、無表情で彫刻のように笑みを浮かべることも、こんな間延びした声も、声を上げることもない。表情筋が死んでいると何度思ったことか。


「君の祖父だよ~~~☆ 覚えているよね〜?」


 とってもノリノリである。そのうち踊り出すんじゃ……あ、小躍り始めた。


「それは分かっているのですが……」

「んん~~?」

「おじい様はそんな口調ではなかったですよね。いつも無表情で口調も淡々として、世界の何もかも、つまらないといった顔をしていましたわ」


 幼い頃、両親と一緒におじい様に会いに言った時も終始仏頂面で、ニコリともしない姿が怖くて堪らなかった。

 私と──も?


『──がいるよ、マリー』


 懐かしい声が聞こえた瞬間、頭がズキンと痛んだ。

 今何か思い出そうとしたような気がしたが、あっという間に霧散して消えてしまう。私と両親……だけだったわよね? 

 なぜかもう一人、誰か居たようなそんな気がした。


「ああ、ボクの可愛い孫~~~」

「お、おじい様!?」


 おじい様は私を優しく抱きしめると、頬にキスをする。ちょっとくすぐったくて恥ずかしい。そして本当に誰。

 少なくとも私の知っているおじい様ではない。


「さっきの質問に答えてあげよう~~☆あれはね現世、マリーたちの住んでいる空間内だと、感情が抑制されて、あんまり表情が表に出ないんだよ~~☆ 本当はこんな風にたくさんハグして、キスやお喋りがしたいのだけれど、体が上手く動かないし、表情筋も死んでいてさあ~~~本当に厄介なんだよ~~~~」


 現世? 私の住んでいる空間?

 ということは、ここはどこなの?

 感情豊かなおじい様は、別人のようにテンションが高い。しかも終始笑顔だわ。常に眉間に皺を寄せて、面倒そうな冷ややかな目をしていたのに……。


「とにもくにも、マリーが無事で良かった~~~。今回は君の契約した精霊()のおかげで間に合ったんだよ~~~~☆」

「まにあった?」


 何にだろう?


「ぞうだよぉおお~~~。と言うか、みんなおじい様の存在価値分かっている? ボク一応、法王猊下で偉いんだからね~~~? もっとこう危機的状況な時に、助けを求めてくれても良くない? カサンドラなんて別次元に飛ばされる寸前も、ボクに助けなんて呼ばなかったんだからね! 泣いちゃう~~~☆」


 おじい様は思いのほかショックだったのか、はらはらと泣き出している。いつものムスッとした人とは同一人物には思えないわ。私が近づいてもニコリとしなかったから、幼い頃はとっても怖かったし、嫌われていると思っていた。


「それよりもマリー。君は今どれだけ過去、いや記憶が残っているんだい~~~?」

「え」


 おじい様の質問の意図が分からず、私は小首をかしげる。

 覚えていること。冷静になって考えれば、ここはどこなのかちゃんと聞いていなかったわ。ええっと……。


「マリーはフルネームを言えるかい~~~?」

「マリー・ラヴァル。子爵家の娘です」

「うんうん。君の今の住まいは~~~?」

「エグマリーヌ国のラヴァル子爵邸です。神樹の管理と精霊信仰を根付かせるため、私たち一家が一時的にグルナ聖国から派遣されました」


 おじい様が質問形式で聞いてくれるので、淡々と答えられた。今の所言い淀むようなことはない。


「今、カサンドラたちはどうしているかな~~~?」

「……二年前に魔法学院ごと消失して行方不明に。……あ、でも別次元に飛ばされただけだって……」

「それは誰に聞いたのだい?」

「え」


 誰?

 そう言われて困惑してしまう。エドワード様だったか、あるいはヴァイス? リュイ?

 ううん、もっと身近で?

 傍にいた──?


『──マリー』


 声が聞こえたかと思った直後、人影は輪郭を失って霧散してしまう。

 その姿を、髪の色や瞳、性別を思い出そうとすると途端に激痛が走って集中力を欠いてしまう。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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