第16話 聖女認定試験までにすることは?
「マリ~~~~。今日は聖女認定試験用の衣装を新調しておいたから、お着替えしようねぇ~~~」
おじい様は今日もノックなしで部屋に来て予定を入れてしまう。
「おじい様! 着替え??」
「否紳士」
「淑女に対して礼節がないのでは?」
「四六時中一緒にいる君らに言われたくない!」
「「契約精霊の特権」」
「ぐぬぬ……!」
今日も賑やかだ。
この部屋は、ここに来てすぐにおじい様が用意してくれたもので、とても広くて、部屋の中にトイレや浴槽付きのお風呂まで揃っている。ベッドも藁とかじゃなくてふかふかのベッドで、シーツも毎日替えて、食事なんかは一日三食オヤツ付きという贅沢三昧。
「マリー、好きなだけ選んでね〜〜〜」
「はう」
口喧嘩に飽きたのか、おじい様は私を抱き上げてニッコニコだ。表情も中身も現実世界とは全くの別人のよう。
それにしても次々と洋服が運ばれてくる。しかもどう見ても私用に作られたサイズばかり。
「おじい様、もしかしてわざわざ新調してくれたの?」
「うん。可愛いマリーのためにも可愛い洋服はいっぱいあるからね。それに機能性はもちろん、防御力もしっかりしている優れ物だよ。そう簡単に剣も貫けない」
「(チョイスが安全第一なのは、怪我のせい……よね)……ハッ、ここはもしかして天国なのでは?」
「違うよ。というかマリーは本当に今までどんな生活を送ってきたのか。心配だなぁ~~~~」
自給自足。なんて言ったらおじい様の笑顔が凍るのは目に見えて分かったので、私は話を逸らすことにした。
「と……ところでおじい様、いい加減、私の婚約者のことを教えてほしいのです」
「んん~~~~~~~☆あ、この服も似合うね」
おじい様は私の婚約者のことになると、話をすり替えてくる。なんで!?
しかもふくれっ面で、なぜかふてくされているのだ。それに対抗するように袖を引っ張るのが、あのインディゴの瞳の男の子だ。
「繝槭Μ繝シ縲∝□◆夂エ????遘√□?」
すでに涙目だわ。
こんな感じで何か訴えているのだけれど、もしかしてこの子の兄が婚約者だと言いたいのかしら?
「もしかして君は、私の婚約者を知っているって教えてくれているの?」
「!」
そう男の子と同じ目線になるように座り込んで尋ねたら、何度も頷いていた。可愛い。
「縺ゅ≠縲√→縺?≧縺狗ァ√′蜷帙?蟀夂エ???□?」
「ふふっ、君が知り合いのなら、きっと私の婚約者様は素敵な人なのでしょうね」
「繝槭Μ繝シ◆□!!」
ぶわ、と涙が溢れてボロボロと泣き始めた。
「まあ、また泣いちゃうのね。本当に君はいつも泣いて」
「繝槭□繝◆!」
「…………マリー。君の婚約者は……いろいろと面倒くさい。拗らせ具合と執着も酷いし、色々すっ飛ばしてちょっと怖いかな。うん」
おじい様はなんだか憐れんだ目で男の子を見つつ、意味深な言葉を言い出した。
「繝槭◇繝シ縺ォ螟峨↑□◇〒縺上□縺輔>?√◆逾也宛讒」
「君にそう呼ばれる筋合いはないぞ~~~☆」
「おじい様……」
子供と張り合っている。しかも結構本気で……。私の婚約者ってどんな風に面倒くさいのかしら? でもおじい様視点で考える「面倒くさい」だから一般的な認識と合っているか少し不安だわ。
「ええっと……。おじい様。私この屋敷に来てから食事、散歩、お喋り、読書、それからよく寝るぐらいしかしてないのですが……聖女認定試験はいつ頃始める予定なのです?」
「マリーの怪我は完治してないだろう~~~?」
「は、はい。でも……」
「今までちゃんと食べていなかったから体も細いし痩せすぎだからね~。生活リズムを整えるためにも、栄養バランスのいい食事、適度な運動、充分な睡眠を習慣化していかないとね」
おじい様は私の頭に手を置いて、ぐしゃぐしゃに撫でる。なんだか撫でられる嬉しい。なんだか心がポカポカする。
「焦らなくても聖女認定試験の筆記問題は、すでにローランが出した課題をクリアしているから問題ないし、精霊契約も仮契約はすでに済んでいるからマリーが十五歳になったら儀式をしようね~~~。あと数日で誕生日だったから、盛大にお祝いするよ~~」
「え」
「ん?」
おじい様の言葉に胸がホッコリするのだが、とんでもない勘違いをしていることに気付く。後に控えているローラン様を見る限り気付いてなさそうだ。男の子は何か言いたそうな顔をしてこちらを見ている。気づいているのかしら?
とりあえず、おじい様の間違いを訂正しておかなきゃ。
「おじい様」
「なんだい、マリ~~~~?」
にっこにっこのおじいちゃんは整った顔で甘い笑顔を見せる。愛情たっぷりの声音と言動は端から見たらラブラブなカップルに見えるかもしれない。だからなのか男の子は、不機嫌そうな顔で私の腰にしがみつく。片や美丈夫だけれど身内、片や婚約者の弟……。
「えっと、その……私、もう十六歳なのだけれど……」
「へ」
おじいちゃんは石像のように硬直。傍にいたローラン様の眼鏡がパリンと景気よく割れた。粉々に粉砕しているではないか。これは精霊がビックリした──ってことよね。
「えええええええええええええええええええええええ~~~~じ、十六!? 十六歳!? こんなに背丈が小さいのに!?」
「お、落ち着いて下さい。ユウエナリス様」
ローラン様は眼鏡が割れてよく見えていないのか、明後日の方向に向かって声をかけている。おじい様は石像になったまま亀裂が入って粉々に砕けて大惨事に。
「おじい様ぁああ!??」
「槭Μ繝シ?√◇■」
「ひゃう!? え、君もどうしたの?」
「◇■隱慕函譌・縺顔・◇◆>縺励※縺◆■」
この子もこの子で何かショックを受けているみたいね。私のお腹に引っ付いて可愛いけど。
そんなに十六歳に見えないだろうか。確かに一般的な令嬢よりは背がすこーし低い。胸はまあ、そこそこ……でも幼いとか子供っぽいのはちょっと凹むかも。
30分後──。
全員、ちょっと疲れ切っている。主に精神的に。
「十二、三歳ぐらいだと思っていました。姪っ子と同じぐらいだったのでつい……」
「(ぐはっ、悪意なく言われるから余計に凹む)……そ、そうですか」
「キアラは出会った時から高長身だったから、全然分からなかったな~。迂闊だった~~くっ……」
おじい様の発言に耳を疑った。
「おばあ様が!? 腰が曲がってからそこまで背丈が高くなかったような……。そういえばお母様は私ぐらいの時にはもっと背丈は高かったのですか?」
「そうだよ。カサンドラは、ぐいぐい伸びてね~~~」
私の背丈はぎりぎり154センチと平均的に考えても低いし、顔も童顔だったりするので幼さが増すのはしょうがない。その辺りもよく従妹に馬鹿にされていた。「年上のくせに」と、思い出したら、なんだか余計に凹んだ。大人の魅力が欲しい。
「――ってそれよりも、十六歳なら精霊との契約ができるじゃないか~~」
「(あ、おじい様が復活したわ)そうなのです!」
「いえ、ユウエナリス様。それよりもマリー様の誕生日会をしなければいけないのでは?」
「それだ!!」
「はう?」
ローラン様、眼鏡が壊れている時の発言って、ちょっとズレているような? おじい様も男の子もここぞとばかりに頷いて意見が一致している。
「マリーのお誕生日か~~~、盛大に三日間ぐらいやっちゃう!?」
「み、三日!?」
「承知しました」
「ええええ!?」
ローラン様は胸元からスペアの眼鏡を取り出して掛けた後、すぐさま出て行ってしまった。
「お、おじい様、そんな生誕祭みたいなお祝いはしません! ローラン様も承知しないで!!」
「大丈夫だよ、マリー」
「(しっかりしているローラン様だから心配無用なのかしら?)おじい様……!」
「予算はボクのポケットマネーから出すからね」
「心配しているのは予算ではないです!」
こうしてお誕生日会を身内だけで行うよう、おじい様にこんこんと諭すことに。これ普通は逆では?
ちなみにこの時、私と手を繋いでいた男の子は真剣に何かを考えていたのだけれど、それを知るのは私の誕生日会当日だった。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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