第11話 タカマガハラの庭
この屋敷にいくつもの庭があり、今日は藤の花が見頃らしい。
手を引いて案内するおじい様は、紳士的というか過保護だ。起き上がる時に節々に痛みが走ったものの、おじい様の治癒で歩けるぐらいには回復した。一気に完治させると肉体と魔力、そして魂を摩耗させてしまう可能性があるらしい。
「石畳に気をつけるんだよ。何なら抱き上げようかぁ~~~?」
「ううん、自分で歩けるわ。それにリハビリは必要でしょう?」
「マリーは良い子で頑張り屋さんだねぇ。あ~、ボクの孫かわいい世界一かわいいぁ~~。ああ、でもまだ病み上がりだから、やっぱり抱き上げてしまおうね」
「きゃ」
おじい様は私を赤ちゃん抱きにして、片手の腕でお尻を支えて、肩を支える。これはお姫様抱っことはまた違った恥ずかしさが!?
「一度やってみたかったんだよねぇ。カサンドラもこうやって小さい頃は抱っこしたんだよぉ~~」
「お母様も?」
「そうだよぉ。とっても我慢強い子で、優しくて自分に厳しい子だったからねぇ~」
「お母様……」
お母様の小さい頃の話は新鮮で、話を聞く度にこの人は私のおじい様なのだと実感する。お母様もいつまでも若々しい上に、おじい様の外見が若すぎるもの。目鼻立ちも彫刻のようだし、陽射しを浴びた若草色の髪は白銀のように煌めいて、とても綺麗だ。
そう考えると、おばあ様は、普通に年をとって普通のおばあ様だったわ。
***
「わあ!」
「ここはタカマガハラの庭と言って、特別な所なんだよぉ」
「すごい。万華鏡のように藤がキラキラしている!」
「マリーの瞳がキラキラして可愛いねぇ」
薄色と竜胆色の美しい藤棚が、カーテンのように揺らいでいる。それだけも圧巻なのだが、近くに池があり水面が鈍色の煌めく。
奧に行くと八角形のあずまやが見えて、丸いテーブルに椅子が用意されていた。白いテーブルクロスの上にはケーキにスコーン、サンドイッチが並べられており、紅茶のティーカップも揃っていた。なんて豪華な!
「マリーの好物が分からなかったから、色々用意させてみたのだけれど、好きなだけ食べてねぇ~」
「おじい様、ありがとう。これだけあれば数日は飢えないし、日持ちしそうな物もたくさんだわ!」
「え」
「は」
私の言葉におじい様は固まり、ローラン様は装着していた眼鏡が内側から割れた。
ショックで眼鏡が割れた!? ……ってあれ? 眼鏡の形が崩れて消えたわ。普通の眼鏡じゃないのかも? 不思議眼鏡?
不安でローラン様を見ていたら、新しい眼鏡をかけ直した。
「失礼。私の契約していた精霊が驚くと、いつもこうなるのです」
「え」
「この眼鏡は契約時に精霊から貰ったものなので、感情の起伏によって……割れます」
「割れるんだ……」
「ローランところの精霊はツンデレ? というらしいよぉ」
「ツンデレ……」
反応に困っていると、おじい様の雰囲気が変わったのが分かった。さきほどまでの、ほわほわした感じはゼロだ。
「……マリー」
「は、はい!(もしかして何か失言を!?)」
ゴゴゴゴッ、と効果音が聞こえそうなほど、今のおじい様は怒っている。何がトリガーだったのか思考を巡らせる。ハッ、数日分じゃなくて、一週間分の食料だったとか?
「ラヴァル子爵邸では、毎日三食オヤツ付きの生活を送っていなかったのかい?」
ゾッとするほど低い声。
笑顔なのに目が全く笑っていない。
「う、うん。その、お母様が行方不明になってからは……自給自足が殆どだったわ。それで月に一度王子が神樹の管理報告をする時に、豪華な食事やお菓子が出るのだけれど、一緒に出されたハーブが思考を鈍らせるようなものだったの。それもあって、そう、ヴァイスやリュイと意思疎通が難しくて、教会に助けを求めるのが遅れたんだったわ」
こんな大事なことをどうして忘れていて──ううん、失念していたのかしら。もうすでに誰かに話していたから、わざわざ報告することじゃないって思っていた?
でも誰に?
何か思い出しそうな、でもまったく何も浮かばな──。
途端に周囲の温度がぐっと下がったかのような感覚に陥る。
「そうかぁ~。うん、うん、うん、教えてくれてありがとう。……じゃあ、ちょっとエグマリーヌ国滅ぼしてくるねぇ☆」
「うん……へ?」
途端に真顔になるおじい様の情緒!
最初と最後の言葉の温度差が可笑しいし、ぞぞぞっと背筋が凍った。
ローラン様に助けを目で助けを求めたものの、ブンブンと物凄い速度で首を横に振っている。おじい様は席を立って何処かに行きそうなので、思わず脇腹にしがみついた。
「お、おじい様、どこに行くつもりですか!?」
「ん〜? だって孫に酷いことをする国なんて、滅んじゃえばいいと思わないかな?」
「ユウエナリス様、ダメですよ」
ローラン様がすかさず諫めてくれたので私も大きく頷く。
「(ローラン様、もっと言ってやってください!)そうです、おじい様!」
「やるなら計画的にやらないと」
「そうで──え!?(そっち!? 滅ぼすことには同意なの!?)」
「じゃあ、その辺は緻密に計算を立てないとねぇ」
「ええ!?」
残念ながらローラン様も過激派でした。止められるのは自分しかいないと奮起して口を出す。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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