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第1話 守られなかった約束

「マリー、愛している」

「……私も愛していますわ。ミシェル様」

「嬉しいよ。ようやく、ようやく……夢が叶う」


 そう言って抱きしめるミシェル様の温もりは温かい。白銀の神樹の前で、私とミシェル様はコツンと額を合わせた。ミッドナイトブルーの長い髪、仮面を付けているもののインディゴの瞳が印象的な美しい人。顔立ちが整っていて成長する度に格好よくなっていく。凛々しくて、昔泣き虫だったのが嘘みたい。


『いつかミシェル様の呪いを解けるようにたくさん勉強をしますわ』と、ずっと昔の約束を思い出す。今は邪竜の呪いで黒ずんでいた顔の痣も薄れつつあった。もう仮面も必要ないわ。

 これまで色んなことがあったけれど、私たちは明日、結婚式を迎える。


(やっと……元の生活ができる。ううん、ミシェル様と新しい家庭を築いていくのね)


 二年前にエグマリーヌ国で伯爵家女当主である母が行方不明になってから、不幸の連続だった。私は聖女公認試験を途中で投げ出して、聖国から飛び出すように戻ったため、精霊術師見習いに降格。

 エグマリーヌ国では土地柄なのか精霊の力を借りようにも、力が弱まってしまったのか契約した精霊の姿を見ることもできなくなってしまった。


 そんな時、父が急にラヴァル子爵邸に継母と義妹を連れて再婚してしまう。父はずっと当主の座を狙っていたらしく、私は納屋での生活を強制させられた。その上、屋敷内の神樹の育成と管理を押し付けられ──と思い返しても、かなり酷い生活だったと思う。それを救ってくれたのは幼馴染で、婚約者のミシェル様だ。私からの手紙が減ったことに違和感を覚えて多忙な仕事の合間を縫って、駆けつけてくれた。


「本当はもっと早く迎えに行くつもりだったのだけれど、邪竜教の行動が活発化したことと、各地で魔物が大量発生したせいで教会側の人員が不足していてね……。でももっと早くくるべきだった。マリーがあんな酷い目に遭っていたなんて……!」

「ミシェル様。仕方ありませんわ、他国であるエグマリーヌ国に両親と一緒に仕事で派遣されていたのですから、グルナ聖国(国内)とは違って、介入も難しかったでしょうに、私を助けにきてくださって……それだけで嬉しいです」

「マリー……! 愛している。君が生きていて、無事で本当に良かった」


 白銀色の神樹が、夕闇を幻想的に照らす。いろんなことがあった一日が終わりを迎えようとしている。月が薄らと見えかける空は、どこかでも美しく見えた。


「マリー、もう……どこにも行かないでほしい」

「ミシェル様」


 肩に顔を埋めながら力なく呟く。私よりもずっと背丈が高くて、大人っぽくなったのに時々甘える彼がとても愛おしく思えた。

 ミシェル様は教会本部の聖騎士であり、公爵当主でもある有能かつ、グルナ聖国になくてはならない人だわ。いつでも私が困った時に助けてくれた、私の大切な人。ずっとこの人の隣で、少しでも恩を返せるようにありたいと、この時までは――そう思っていた。


「愛しているよ」

「ミシ──」


 何かにぶつかったような、違和感。

 熱い、と感じたのは数秒後だっただろうか。

 熱いと感じる部分に視線を落とすと、私の腹部に銀色のナイフが突き刺さっていた。


「え」

「愛している、マリー。君じゃないとダメなんだ」

「な、……にが」


 立っていることもできず、私はその場に座り込んでしまう。

 上手く呼吸が出来ず、流れ落ちる血を止めようと刺された傷口を掴む。


「この特別な場所で、君が贄になってこそ――が喜ぶ。狂喜乱舞して、きっと私の求める世界を作り上げるだろう。ああ――マリー、君がここに一人で来てくれて助かったよ。本当に、ありがとう」

「どうして……ミシェル様……」

「愛している、マリー」


 遠のいてゆく声。

 深い絶望が、心を病み色に染め上げる。

 彼は愛していると口にしながら、彼は薄鈍色の刃を振り下ろす。

 キィン。

 金属音の激しい音が刃を払い除ける。


「!」


 刹那、白亜の落雷が世界を白く染め上げた。


(どう……して? ……ミシェ……ル様)

「マリー!!」


 遠くで私の名を呼ぶ声が聞こえてくる。


「ダメだ……マリー、──、──!」

(貴方が私を手にかけたのに……どうして……そんな……声を……)


 私の意識は、そこで途絶えた。

 彼が私にプロポーズした、あの日からこの顛末は決まっていたのだろうか。


(こんな風に、裏切られるくらいなら────)


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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