表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

未来創造社シリーズ

マグカップに出会う

 普段コーヒー紅茶を飲んでいる年季が入って変色し始めたマグカップ。ある朝ふとそれを見たときに新しいものに買い替えようと思い立つ。そうなると悩ましいのは「デザイン」である。有名な洋楽のタイトルである「LET IT BE」という文字がプリントされた結構お気に入りだった品の代わりとなるデザインだったら欲しいのは『猫』だろうか。そんなことを思いながら何はともあれという感じで『マグカップ』と打ち込んで検索してみる。


「うわ…」


自宅で思わず声が出てしまったのは、その種類の膨大さ。猫で限定してみても数限りなく似たような品が存在するのがマグカップという食器である。値段もマチマチで、限定品とか、高級ブランドの品とかこだわり始めたらどれがいいのか分からなくなってしまう。



<一旦保留だな>



 用事もあったのでその日はそれ以上考えないことにして、数日後にとりあえず近場の雑貨店に立ち寄ってみたりした。こじんまりとした店なのであまり期待はしていなかったが、イメージしていたようなシックな色合いの猫のシルエットがパッと目に飛び込んできた。少し細長い形ではあるが取手の部分も黒い、黒猫のシルエットが施されているマグカップだ。



「あ、あった!」



値段も手頃であったことから即決。見本とは別の箱に入った商品を手に取って会計に持ってゆこうとすると背後に誰かの「存在」を感じた。振り向くと長い黒髪の女性の姿。その場で熱視線を送って同じ商品の品定めをしていたらしい。



「あ、邪魔になってましたね、ごめんなさい」



「大丈夫です。その商品、購入なされるんですね」



女性の耳馴染みの良いとても柔らかな声とその思わぬ質問にちょっとドギマギしてしまったが、「そうです」と答えるとなぜか女性は微笑んで、



「わたしも買おうかな…」



と一言。やはり他の人から見ても良い品だったのだと思う。棚に色違いの同じ商品がもう一品置いてあったので何となく安心した。会計を済ませ、その日以来マグカップは愛用の品となった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 その日から一週間ほどが過ぎた頃、マグカップでコーヒーを飲んでから自宅付近のコンビニに出掛けたところ不思議な偶然に出くわした。



「「あっ」」



視線が合ってしまったので『彼女』の方も同じタイミングで声を出した。雑貨店でマグカップを見つめていた黒髪の女性がコンビニの正面の横断歩道の前で信号待ちをしていたのだ。



「偶然ですね。あのマグカップご購入されたんですか?」



「はい!とても気に入ったのであの場で。愛用してますよ」



 やっぱり声が素敵だなと思ったのだがコンビニに入店したからも何となく親近感が湧いて彼女の姿を目で追ってしまう自分がいた。ただ『偶然』はこの一回にとどまらなかった。趣味に関するちょっとした記事を書いてみようと考えて夜中にファミレスに入ってみた時に、案内された席のほど近くで彼女が既に食事をしていたりという。誰かが同席している様子もなく一人で食事していたことなどを考えて、何となく話し掛けてみてもいいのかなと思い、「どうも」と声を掛けると彼女はとてもびっくりした様子。



「せっかくですし、ちょっとお話しませんか?」



 我ながらよく勇気を出したものだと思う。本能的に『彼女の声を聞きたい』という欲求があったのかも知れない。幸いにも彼女は応じてくれて、趣味の話をしたり、彼女が飼っているという猫の話を聞いているうちに自然に意気投合できた。



「そういえばあのマグカップの箱に『未来創造社』って書いてあったんですけど、調べてみたら結構猫のグッズ作ってるところなんですよね。猫好きがいるのかも知れないですよね、ふふ」



何となくではあるけれど『猫好きは惹かれ合う』という運命にあるのかも知れないなと感じた。



☆☆☆☆☆☆☆☆



 『未来創造社』の営業『角律雄』は随一の『猫好き』で通っている。それが嵩じて会社の猫グッズに頻繁に要望を出す。



「マグカップ、デザインはかなり良いのに今のところ置いてくれるところが少ないんだよなぁ」



 以前、かつての部下である現『MIRAIクリエイティブ』の『堂紫陽』から「やっぱりネットで販売した方がいいと思いますよ」とアドバイスを受けてはいたが、『昔ながらの営業のスタイル』をまだ捨てきれていないベテラン世代の感覚があった。同じくベテラン社員の『小松タヨ』氏に協力を仰いで小口での売れ行きは増えているようではあるが、目指す『バズり』には程遠いのが現状。



『必要とする人達の元に商品が届けばいいのよ』



という哲学のある『小松タヨ』の元にとある雑貨店から商品の補充についての連絡が入った。



「角さん、若手の意見もしっかり取り入れなきゃダメよ」



 『角律雄』が扱う商品としては珍しく『特殊な効力』のある商品ではないので売り上げはやはり小松氏の『腕力』次第といったところか。

『小松タヨ』さんの活躍は未来創造社シリーズの「安眠枕」、「ねこつんでーれ」、「めらねったー」でご覧になれます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
未来創造者シリーズというのはあるのですね。 それにしても、ちゃんと効力ありましたね。じわりじわりと。 前半の二人の穏やかに距離を近づける様子が、ステキじゃないですか! 二つのカップが並んでテーブルに…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ