プロローグ
冬の日、寒い街を、私は一人で歩く。一人だとは思っていない。歩いているのかどうかも、分からない。
〈0 冬、街中〉
これは何の音楽だっけ。ベルの音……、あぁどうでもいい、分からない。うるさいな、雑音ならそれらしくもっと汚くしてろよ。
今夜は、変な日だ。何か起こるのか、それとも起こっているのか。誰にも知らされていないし、今更教えてくれるような人もいない。国民に参加する義務はないということか。それなら、どうして公共の場を使っているんだ。うるさいな……。
目がチカチカする。どうして木が光っている? 無機物が生命のフリして光るなよ、生命よりも強く光るなよ。光りもせずに生きているのが、馬鹿馬鹿しくなってくる。彩度を落とせ、落ちろ、モノクロになれ。視界がうるさくてまともに歩けないんだ。
まるで冬のように外気が冷たい。理由が分からない。ただ、凍え死ななければどうでもいい。大丈夫、温かいコートを着てきたから。これはいつ買ったんだっけ。知らない、知らないけど気に入って買ったんだ。今見ても素敵だとは思えないが。
帰りたい。今、帰っている最中だ。そもそもなんでここに来たんだろう。ああ知らない、知らない。帰りたい。
大きな箱が積んである。嘘つき。いくら飾っても、中は空だろ。何だよ、それ、フィクションを現実に出してくるな。そんなことをするから、みんな馬鹿になるんだ。実際にはいない、いないのに、大人が騙す。それに則って、大人になった子供も子供を騙す。あぁ、私は騙されなかった。だから私は騙さない。
なんだっけ……何が。何か……、何だっけ。何を考えていたっけ。騙す……ああ、分からない、もういい。わからない。
続きます。
この世界を、あなたにだけお見せします。きっと、読んでくれる人はあなたしかいないでしょうから。