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【完結】英雄小学生アフター~氷の女王と春の歌姫~  作者: 森原ヘキイ
第一章 目と目が合って、おひさしぶり
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1-6

「それじゃあ再会を祝して、これから屋台でスイーツでも食べながらマーケットを楽しみましょうよ。どうせ暇でしょ、アンタたち」

「誰が暇人だ。こっちでも甘いもんばっか食ってんのかよ、モモ。いい加減、太るぞ」

「それ女の子に言ったら絶対駄目なやつだからね、エリヤ。でも確かに、ここで五人グループが陣取っていると邪魔になるかな。僕も移動には賛成」

「では、そんな暇を持て余している残念なお前たちに、俺から提案があるのだが」

「誰が暇人だ」

「残念なのはアンタもよ」


 エリヤがいることで、タイシへの突っ込みが二倍になった。にぎやかな光景に懐かしさを覚えながら笑うマコトだったが、ふと周囲の様子が気になって首を巡らせる。エリヤの登場で、まるで時間が止まったかのように静まりかえっていた空間が、いつの間にかすっかり元通りになっていた。未だにエリヤに対して遠くから熱い視線を送っている老若男女はいるものの、さっきまでの異常な空気は完全に消えている。ホッとひとつ安堵の息をはいてから、マコトはタイシの話に耳を傾けた。


「そう警戒するな。俺たちなりの旧交の温め方というものを考えてみただけだ。お茶をしながら思い出話に花を咲かせることか? いいや、もっと楽しいものがある。ここはどこだ。そう、クリスマスマーケットだ。東京において、最大規模のな」

「だから、回りくどいのよ。さっさと結論を言いなさいよ」

「お前たちには、それぞれ俺の指定するイベントに参加してもらう」

「はあ?」


 ミサキとエリヤの二人による低い声の合わせ技は、マコトでさえびっくりしてしまうほどの迫力だ。けれど、そこはタイシ。まったく気にすることなく、淡々とデバイスを操作している。やがて、円陣を組むように集まった五人の中央で、会場案内図の立体映像が浮かび上がった。


「このクリスマスマーケット内で、様々なイベントが行われていることは、情報に疎いお前だちでも知っているだろう。一般人の参加は自由。個人が基本だが、中にはペアやグループで挑戦できるイベントもある」


 タイシの説明に合わせて、案内図のとある区画が自動的に点滅した。公園のほぼ北側一帯を占めているイベントブースは、現在マコトたちがいる氷の城付近からも近い。


「イベントの勝者には、ギザギザした葉っぱのような形をしたオーナメントが配布される。いわば、景品との引換券だな。一つからでも交換できるが、六つとなると話は変わってくる」そこで言葉を区切ると、タイシは眼鏡のブリッジを指で押し上げた。


「――聞いて驚け。ギザギザした葉っぱのような形をしたオーナメントを六つ集めた者は、超豪華景品が当たるかもしれない特別ゲームに挑戦することができるのだ」


「超豪華!」と、思わず飛びついてしまったのはマコトだけだ。ほかの三人はといえば、不安そうに、あるいはどうでもよさそうに、あるいは飼育員の言うことをまるできかないイルカショーを見物するように、黙ってタイシを眺めている。


「俺たちの目的は、それだ。超豪華景品が当たるかもしれない特別ゲームに参加する。そのために、まずは六つのギザギザした葉っぱのような形をしたオーナメントを勝ち取る」


 会場の案内図が消えると、代わりに透明な細工物の映像が浮かび上がった。これがタイシの言う、ギザギザした葉っぱのような形をしたオーナメントなのだろう。それを見たマコトは、思わず「あ」と声を上げた。


「これ、ボクもう二つ持ってるかも」ズボンのポケットをあさって、指に触れた硬いものを取り出す。「さっきもらったんだ。えっと……デコレージョンの蒸気機関車の、あの件でお世話になったファントムの司会のおじさんと、男の子に……」


 ――ヒーローみたいで、ちょっとだけかっこよかったよ。


 そう言って笑った子どもが「お礼にいいものあげる」と言って渡してくれたもの。さらに、スパンコールスーツの男性が「おめでとう! ありがとう!」と、なぜかマイクで叫びながら渡してくれたもの。手のひらで転がせるほど小さな二つの飾りが、まさかイベントで貰える勝利アイテムだったとは。


「マコトの一生懸命さが、二人にちゃんと伝わってたってことだね」


 マコトがタイシに差し出したオーナメントを見ながら、ユウが自分のことのように笑ってくれるのが、くすぐったい。


「なるほど、受け取ろう。では、マコトは待機。そのほかの四人で、残り四つのオーナメントを確保する」

「ちょっと、なに勝手に決めてるのよ」

「まだ、やるとは一言も言ってねぇぞ」


 ミサキとエリヤから当然のクレームを受けながらも、タイシは余裕の表情で眼鏡を直した。


「お前たちなら朝飯前だろう。なんといっても、異世界を救った英雄殿ご一行だ。たかが現実世界のイベントの、生死すら問われない子ども騙しのゲームがクリアできないなんてことがあるのか? まさかとは思うが、臆したのか? たった三年で、そこまでお前たちは腑抜けてしまったのか?」


 あからさまなタイシの挑発に、マコトとユウは思わず顔を見合わせる。困ったように眉を下げて笑うユウに「こういうのも懐かしいね」とマコトは小声でささやいた。


「腑抜けかどうか、オマエの目で確認してみやがれ」

「余裕の大勝利をかまして、吠え面かかせてやるわ」


 予想通り、エリヤとミサキは、まんまとタイシの思惑に乗った。二人とも嫌々ながら承諾したように見えるが、内心ではちゃんと面白がっているということを、マコトは知っている。その証拠に、声と表情が少し楽しそうだ。この三人のやり取りは、素直になれない犬猫のじゃれ合いみたいなものなので、マコトとユウの二人も安心して見守っていられる。


「そうと決まれば場所を移動しよう。だいぶ暗くなってきたから、イベントに参加するつもりなら早めに動いたほうがいい」


 優しいチャイムのような声。まるで引率の先生のように、ユウが全員を次の目的へと促してくれる。異世界で迷ったときも、この包容力に何度も助けられたことを思い出して、マコトは懐かしさに目を細めた。


「ほら。オカンもそう言ってるから、さっさと行くわよ」

「オカンはやめてくれっていつも言ってるだろ、ミサキ」

「了解、ママ」


 呼び方を変えるだけで、結局は『お母さん』と呼び続けるミサキに対して、ユウは短いため息をついた。けれど、すぐに顔を見合わせて笑顔になる。この二人も昔から、兄妹か姉弟のように仲が良かった。

 先導するタイシとエリヤ。少し遅れてミサキとユウ。四人の後ろ姿を、マコトはぼんやりと眺める。ようやく思い出した、ようやく出会えた、かけがえのない大事な仲間たち。


 ふと何気なく、自分の隣を見る。当然、そこには誰もいない。マコトたちは全員で五人なのだから、二人組をつくれば一人だけ余ってしまうのは当たり前だ。もちろん仲間外れにされたわけではないので、さみしさなんて感じる必要はない。けれど、ぽっかりと空いた空間は、なぜかそのままマコトの心の中を表しているように思えた。


「――マコト?」


 ユウの声で我に返り、慌てて視線を前方へ戻すと、四人が足を止めてマコトを振り返っている。不思議そうな顔の仲間たちを心配させないよう、できるだけ明るい声で「いま行くよ」と答えた。


 ドーナツの穴だって、最初から空いている。マコトの中に埋まらない部分があったとしても、きっとなんの問題もない。そう自分に言い聞かせながら、マコトは四人の仲間の後を追いかけた。

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