最終話
「いいいい、いらっしゃいませカナエさん!! ち、ちちちいさくてごちゃごちゃした店ですが、ごごごご、ごゆるりとおくつろぎいただけたら嬉しいです光栄です恐縮ですっ!!」
もしも動物園に白鷲を迎え入れたら、パンダはこんな反応をするのかもしれない。がちがちに固まったゴンタと、彼の熱烈な歓迎を受けて嬉しそうに微笑むカナエを見ながら、マコトは笑う。
ライブ翌日のクリスマス。マコトたちは、忙しい合間を縫って合流したカナエとともに、ささやかなパーティーを開催することにした。見事に予約分のケーキを裁き切る算段がついたゴンタの厚意で、イートインコーナーは貸し切りになっている。
恩人のカナエが来ると聞いたゴンタは、いつも以上に気合いを入れて、おもてなしスイーツを用意してくれた。ゼリーやクッキーなど、ふだんはショーケースの中にいないメンバーまでが隙間なく並んだテーブルは、様々な形と色にあふれていて目が楽しい。
結局、セッテイングを担当したのはいつも通りの三人で、座ったまま口だけを出すタイシとエリヤは、そのたびにミサキとユウに怒られていた。自分も手伝うと言い張り続けた結果、ミサキによって主賓席に押し込められたカナエは、そんな仲間たちの様子を見ながら嬉しそうに笑っている。
かけがえのない懐かしい情景を、ようやく取り戻せた。この優しい日々を、今度は危険と隣り合わせの異世界ではなく、穏やかな現実世界で送ることができる。
人数分のコーヒーを用意しながら思わず涙ぐんだマコトの脇から「お待たせしました!!」と元気な声を上げて、ゴンタが顔を覗かせる。そうして、ぽっかり空いていたテーブルの中央へ、満を持して大きなケーキをはめ込んだ。
「うわぁ……!」
それぞれの歓声とともに、全員の視線が集中する。真っ白いベーシックなショートケーキの中央で勢揃いした、六体の人形。マコトたち六人の特徴を正確に表現した彼らが、雪の上で可愛らしく笑い合っていた。
「デザインの考案は、ユウさんです! びっくりするほど絵がお上手なので、私もはりきって作らせていただきました!」
まるで自分のことのように誇らしげに語るゴンタの正面で、ユウが恥ずかしそうに顔を伏せている。「そ、そんなことはないです、本当に」という小さな否定が、かろうじて聞き取れた。
「ユウは昔からイラストを描くのが得意だったわよね」
「あのライブパネルの絵も、すっごくよかったよ!」
「ありがとう……! でももういいから、本当にもういいからっ」ミサキとマコトの賛辞に耐え切れず、わっとユウが両手で顔を覆う。
「さり気なく、あのペンギンまで加えてんじゃねぇよ。オマエ、もう二度とアレに関わんな」
「え、駄目だよ。今度あの子の行動パターンを分析したいから協力してほしいって言われて、アニマルロンドのラボに行くことになってるし」
「は? 聞いてねぇぞ」
ユウ人形の足元にちょっこりと居座るペンギン人形を、まるで親の仇のようにエリヤが睨む。真っ先に食べられてしまうのではと危惧したマコトは、今のうちに完全な姿を収めておこうとデバイスを取り出した。
ふと、カナエが声も出さずに一点を凝視している姿が目に入る。視線の先にあるものは、半円を描いた六体の人形に見守られている、透明度の高い砂糖菓子。
――氷の女王と、幼いカナエの姿をした少女。
「氷の女王の真意などわからん。縁者のお前にも、わからなくていい。ただ――」
タイシの言葉を引き継いで、マコトが笑う。
「こんな気持ちでいてくれてたら、嬉しいね」
氷の女王の人形と、幼い少女の人形に浮かんだ、柔らかな笑顔。涙を滲ませた瞳で、それを見つめながら「……うん、うんっ」と、カナエが何度も頷く。
「ほらほら! アタシたち、大事なことを忘れてるわよっ」
ぽんっと大きく両手を打ち鳴らして、ミサキが声を張り上げた。「帰ってきた人には、なんて言うのかしら?」
謎かけのような言葉を受けて、仲間たちが一瞬、顔を見合わせる。きょとんと目を瞬くカナエ以外の全員で目配せし、ちょっとだけ笑ってから、いつものようにマコトが「せーのっ」と音頭を取った。
「おかえりなさい、カナエちゃん!」
それぞれの言葉で、それぞれの声量で、それぞれの温度で、同じことを心から喜び合う。
まるで春の日差しを受けた花のように、カナエが泣き出しそうに微笑んだ。
「ただいま…っ!」
三年前の小学生の冬。六人の少年少女は、異世界を救った英雄になった。
きっと、この先も乗り越えていける。マコトは、そう確信している。
どんなときも、何が起きても。絶対に大丈夫。
――この六人が、一緒なら。




