7話 〈罪〉
三輪車がキコキコと音を立てる。ハッと管理人は振り返った。
あるはずのない、『あの』三輪車が自分の真後ろにある。悲鳴をあげそうになるが堪え、わざと薄笑いを浮かべると「誰だよ、こんな所に置いたのは」と自らの恐怖を正当化させた。
「わーた、し」
階段から、子供の声がした。暗がりから先は見えない。子供の足元すら見えない。
「ねー、おじちゃんと遊ぶって約束した」
「そ、そうだったね」
おじちゃんと。そう、管理人の男はあの子供と遊ぶ約束をした。しかし男は──
「今日は何して遊ぶ?」
「やめよう。おじちゃんが間違えていたんだ。だから、今日は」
「救急車ごっこしよー」
「や、やめてくれ!」
キャハハ、と笑い声をあげて子供はどこかへ走っていった。階段があるはずなのに、登る音もしなかった。
マンションの前で人が車に撥ねられた。見ず知らずの通行人が悲鳴をあげる。
「あ、ああ…!賀佐さん!」
住人が撥ねられた。頭を強く打ち、血を流している。ああ、また、マンションでの不慮の事故が起きた。
「おじちゃん、救急車、よばないの?」
女の子が問いかける。
「おじちゃん。あの人、最初から死んでるの知ってるんでしょ」
「救急車ごっこしよ、はやく、よんであげて」
──おじちゃん。あの日、どうして救急車、呼ばなかったの?
管理人さんが飛び起きたのを、ユルカは驚いた。彼は顔面蒼白でガタガタ震えている。
「だ、大丈夫ですか?」
「す、少し席を外すね。ごめんね、ユルカさん。頼んだよ」
慌てて部屋から出ていくのを眺めて首を傾げる。傾げても現実は変わらない。そう、いつもの事だ。
「また一人で夜勤かぁ…」
管理人さんは何かをしました。