4話 〈ピザ屋のバイトさんの恐怖体験〉
『ハッピーハッピートキメキピザ』はこのご時世に24時営業である。深夜バイトは時給も高い。
新たに街へ引っ越してきた女子高生の有香はお金欲しさにバイトをしている。といってもほどほどに田舎の街において、深夜にピザ配達はあまりなかった。
ぼうっとしていると、草木も眠る丑三つ時。電話が鳴り、あるマンションからピザ配達を頼まれた。
今は自分しかいないので仕方なく、かのマンションに向かう。
8階建てのごく普通のマンション。にしてはどこかくらったるい。お盆の時期だろうか──部屋の明かりもすくない。
(2時だもん。起きてる人もすくないし)
意を決してマンションに入ると管理人室は暗闇が蟠りしまっており、レトロなロビーの照明もかなり薄暗い。何だか悪寒が走り注文してきた号室を確かめた。
5階。
古めかしいエレベーターに乗ると、5階のボタンを押し、異変に気づいた。7階にあたるボタンが取り外され、押せないようになっている。
ガゴン、と音を立ててドアが開き、有香は戸惑う。マンションというよりは昭和のホテルを思わせる構造をしていた。
503号室。もう一度確認して、呼び鈴を鳴らすとおばさんが出てくる。
「夜遅くにごめんなさいね。夕方までに買い物しなきゃいけない決まりなんだけど寝ちゃって」
「あ、ああ、そうなんですか」
「いつもの人じゃないのねえ。はい、お金」
ピザを渡し、お金を精算すると有香は慌てて店に帰った。
「有香さん、どこの配達行ってたの?」
ベテランの店員さんが怪訝そうに尋ねてくる。
「え、六丁目のマンションです」
「あー…次からは無視していいから、それとしばらく休みなね。こっちで調整しとく」
「え!?」
「六丁目のマンションから、2時から3時までの間は注文受けちゃダメなんだよ。知らないの?あのエレベーターの事件」
「ええっ」
彼は電話機の履歴を見てため息をついた。覗いてみると必ず2時くらいに注文がかかってきている。
「女の人がエレベーターで変な動きして、最後は貯水槽で見つかった事件。外国でも似たような事件があったから騒がれたけど、有香さんの世代は知らないかあ…」
「は、はあ…」
「今日は事件の日だからね…。お盆だし、繋がったのかもしれないね」
怖くなり、どうしていいか分からずその日はバイト終わりという名目で帰宅する。
(いや…でもおばさん、どう見ても生きてたよね?あと…いつもの人、って)
2時にピザ配達をしている人がいるかのような口ぶりに、違和感を覚えた。それに深夜になっても普通に入れるマンションも、不思議な気がしてくる。セキリティ面で危なっかしい。
スマホで何気なく地名と事件を検索すると、すぐにヒットし、ニュースを読む。
使用できるはずのない7階に止まったエレベーターで、怪しい動きをする女性。数週間後、警察が貯水槽から行方不明になっていた女性の死体を見つけた。生前の写真まで公開され、明るそうな笑顔の女性だった。
「仕方ないよ」
フッと耳のそばで女の人の声がして、反射的に振り返る。が、道路には人っ子ひとり居らず──有香は全力疾走で家に逃げるのだった。
ピザ屋さん、今は深夜配達していないのでしょうか。
久しく頼んでないので忘れました。