31話 〈過去の痕跡〉
──7階に可燃物は持ち込まない。また火元になるような物は絶対に持ち込んではならない。
火の取り扱いの厳重さは管理人からきつく言われていた。夜中に火災警報器が鳴ったら何がなんでもかけつけろ。
このマンションはなぜだか火に対して敏感だ。
(絨毯とかロビーは赤色で統一されてるのにな…)
先日、5階で火災警報器が鳴った。慌てて駆けつけたが何事もなくすんだ。
ホッとした矢先、5階の角部屋──コの字型の角にあたる部屋のドアが僅かに空いているのを見つけた。あの部屋は確か無人だ。
管理人は気を引き締めて勤務しよう、と自分に言い聞かせるように命じてきた。なのでユルカは焦げ付きがないか次の日、調べていた。
「ここ…長年誰も住んでないみたいだし…開いてたっけ…」
ドアを開けてみると内側に『staff only』の看板が貼られていた。どうやら倉庫として使われていたらしい。
(管理人さん、知ってるのかな?)
中は真っ暗で、ユルカは懐中電灯をつけた。棚があり、書類やらがそのままになっている。
(これ…)
──昭和49年7月15日。管理者によるお願い。
そう書かれた貼り紙がある棚に置かれていた。
「マンション・ヒアフターにお住いの皆さま。最近、7階にてスプリンクラーの誤作動が発生しています。設置したてなので、不慣れかもしれませんが何かありましたら管理者にお知らせください…昭和って、すごい昔なんじゃ…」
7階。あの7階に人が普通に住んでいた時代があったのか。
──マンション関係者各位。7階に可燃物は持ち込まない。またマンションには火元になるような物は絶対に持ち込んではならない。スプリンクラーの電源は切り、あの水たまりは即座に処理する事。
(水たまり?)
──管理者各位。住民からの騒音苦情は適当な理由をつけてください。またスプリンクラーの電源は切ってあるか、必ず確認してください。
どうやらスプリンクラーが度々誤作動を起こしては、廊下を水浸しにしていたようだ。
──オーナーにあの水たまりが直らないのを、強くお願いして欲しい。住民が怖がっている。水浸しの女が歩き回ってあると、変な噂がたっているせいで、あの水たまりに苦情がたくさんくる。
(えっ…何それ)
ユルカでも聞いた事のない噂だった。日付は皆、昭和であり、この人たちは辞めてしまったのだろう。
(これ、見ちゃいけないヤツだったん──)
背後に気配がして、咄嗟に振り返った。
そうして誰もいないのを確認し、早々と部屋を飛び出す。
(水たまりなんて、あったのかな。どこなんだろう…)




