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7階 ~呪われマンション『ヒアアフター』~  作者: 犬冠 雲映子
ユルカのゆるゆる夜勤勤務
31/32

30話 〈怪談とラジオ〉

 7月の熱帯夜。


 ノイズ混じりのラジオから夏の怪談が流れている。内容は一人暮らしなのに寝室に髪の毛がたくさん落ちていた、とか、死んだはずのご近所さんが挨拶してきたなど。

 どうやら夏は怪談の季節らしい。暑いから怖い話を募集して、寒くなろう!という企画だった。


(ここもへんな事はたくさん起きるから怖くないなあ)


 ぼんやりと古めかしいロビーを眺めていると、ラジオのゲストが口を開く。

「夏はあの世とこの世が曖昧になるんです。お盆があるでしょ?それも拍車をかける」

「なるほど、じゃあ、これから幽霊と出会う確率は高くなると?」

 司会の男性が茶化すように言う。信じていないのだろう。


「はい。水難事故や山の遭難には気をつけてくださいね。迷い込んでしまうんです」


 ハキハキとした芯のある声色だ。聴いていて不快感のない女性の声。


(アナウンサーみたい…)


「迷い込む?あの世に?」

「ええ、遠野物語に迷い家がありますでしょう?見知らぬ民家に入ったら誰もいない、とか。後は海だと──」


(迷い家、って何だろう)


 ユルカは遠野物語も迷い家も知らない。だが、迷い家の響きに不思議と好感が持てた。

 温かな響きがする。きっとフカフカのソファや可愛らしいカーテンがかかっているのかも。


「博識ですねえ、さすがです。八和田 真流さん」

「えっ!?」

 シンリュウ。3階のエレベーターの前で時折、ソナタは挙動不審に佇ずむ。監視カメラを壊す。

 ──シンリュウさんが。


 架空の人物だとばかり決めつけていた。存在しているのだ。

 八和田 真流は。


(嘘。そんな…でも、ソナタさんは引きこもりで。外出もしないし、私が知る限りでは八和田 真流さんなんて人も訪問していないし)


 ワタワタしながらも、ラジオのボリュームを上げようとした。


「ジジーーーーー」

 ラジオは途端にノイズに呑まれ、どの周波数も拾わなくなってしまった。と、同時に7階からのブザーがなる。

「そんなぁ…はいはい、っと」

 いつもの業務を行いながらも残念な気持ちになる。


(迷い家かあ…私のマンションには、()()()ならあるのにな)

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