25話 〈ある幼なじみの記憶〉
海夜。
気の強い娘と脳天気な娘に2人に囲まれた、気弱な子。変哲もない秀でた所のない可哀想な女の子。
──ただ一つ他人と異なるのは、彼女は俗に言う『幽霊』が見えたのだ。
常に口をつぐみ、見えないふりをして周りから怪訝がられないよう気をつけている。しかし霊はこちらが気づいているのを存じていて、話しかけてくる。
「ここはどこ?」
「僕は死んでいるんですか?」
「足が痛い、助けて、びょういんに…」
幽霊たちは様々な要求を投げかけてくる。海夜は何もできやしない。彼らは繰り返している。最期の瞬間を、または心残りにしている記憶を。
仲がいい2人、真流と許鹿はオドオドしている自分自身を必死になり周りから守ってくれた。だが、幽霊は例外であり、隙をついてくる。
だって2人には見えていないから。
「ねえ、海夜ぉ〜。今度、流星を見に行くんだけど行く?」
常に底抜けに明るい許鹿が目を煌めかせながら言う。
夏休みにさしかかり、夜空に流星群が舞うらしい。2人は何やら計画を立て、話し合っている。
「ごめん、わたし田舎に帰らなくちゃいけなくて…」
「じゃあさあ!私たち、お母さんたちに無理言って1日そこまで行くよ!」
「え?」
「あたしの家、お兄さんがキャンピングカー持ってるから」
真流はとてつもなく良い家系に住む、お嬢様だった。だが大人の事情は理解できない。彼女は孤独なようであった。
「お兄さんはあたしと仲がいいし」
「じゃあ決まり〜」
「で、でも2人とも…」
(あの街は呪われてるの…)
海夜は祖父母の田舎にある8階建ての廃墟となったマンションが嫌いだった。真夜中になると決まって炎に包まれ、悲鳴や雄叫びをあげる──夢を見る。
住民たちもいわく付きのマンションをどこか怖がり、腫れ物扱いしている。それに迷い込む部外者が多くて悲惨な結末になる。
嫌いだった。あそこは幽霊たちの巣窟。
(2人が興味を持ったらどうしよう)
そんな気も知らず、夏休みのある日。2人が田舎の街へやってくる。
山間のキャンプ場からやってきたと、許鹿は楽しかった出来事を矢継ぎ早に報告してくれた。
「あ、ねえ。あのマンションさー」
「ユルカちゃん。あのマンションはね」
「さっき手招きしてる人が窓にいたんだけど。見間違えかな」
不思議がる彼女を他所に、腕を引っ張り真流のお兄さんの元へ走った。流星が見える山へ向かう。これならあの廃墟へ遊ぶ危険性は減った。
ホッとして、夜はゆったりと過ごした。なかなか流れ星が見えないね、なんて3人で空ばかり見て愚痴を言う。
その時だった。悲鳴が聞こえた。
悪夢で何度も耳にした霊たちの断末魔である。きっと自身にしか届いていない…。背筋が寒くなり、咄嗟に耳を塞ごうとした──
「な、何?!」
星空を観察していた真流がブランケットを放り出して、街を見下ろす。すると例のマンションが赤く光っているではないか。
「シンリュウちゃん!見ちゃダメ!」
「え!何で光ってるの?」
許鹿も悲鳴や雄叫びを耳にして、後ずさりキャンピングカーへ逃げ込もうとした。
「ぎゃあ!」
光が目を焼く。2人が落雷にあったようにしゃがみ、おずおずと顔を上げた。
「な、何もなって…あ、ユルカ、目が」
「え?しんりゅーも」
涙ではなく血を流し、お互いに絶句している。(ああ、わたしのせいだ…わたしが、)
「ごめんなさい…ああ、わたしが田舎に来ていいよっていうから…」
マンション夜勤勤務の霊圧が消えた…?!
霊感がある人の近くにいると自分も霊感がつく、とか昔聞きました。




