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7階 ~呪われマンション『ヒアアフター』~  作者: 犬冠 雲映子
ユルカのゆるゆる夜勤勤務
26/32

25話 〈ある幼なじみの記憶〉

 海夜(みよ)

 気の強い娘と脳天気な娘に2人に囲まれた、気弱な子。変哲もない秀でた所のない可哀想な女の子。


 ──ただ一つ他人と異なるのは、彼女は俗に言う『幽霊』が見えたのだ。


 常に口をつぐみ、見えないふりをして周りから怪訝がられないよう気をつけている。しかし霊はこちらが気づいているのを存じていて、話しかけてくる。


「ここはどこ?」

「僕は死んでいるんですか?」

「足が痛い、助けて、びょういんに…」


 幽霊たちは様々な要求を投げかけてくる。海夜は何もできやしない。彼らは繰り返している。最期の瞬間を、または心残りにしている記憶を。


 仲がいい2人、真流(しんりゅう)許鹿(ゆるか)はオドオドしている自分自身を必死になり周りから守ってくれた。だが、幽霊は例外であり、隙をついてくる。

 だって2人には見えていないから。


「ねえ、海夜ぉ〜。今度、流星を見に行くんだけど行く?」

 常に底抜けに明るい許鹿が目を煌めかせながら言う。

 夏休みにさしかかり、夜空に流星群が舞うらしい。2人は何やら計画を立て、話し合っている。


「ごめん、わたし田舎に帰らなくちゃいけなくて…」

「じゃあさあ!私たち、お母さんたちに無理言って1日そこまで行くよ!」

「え?」

「あたしの家、お兄さんがキャンピングカー持ってるから」

 真流はとてつもなく良い家系に住む、お嬢様だった。だが大人の事情は理解できない。彼女は孤独なようであった。


「お兄さんはあたしと仲がいいし」

「じゃあ決まり〜」

「で、でも2人とも…」


(あの街は呪われてるの…)





 海夜は祖父母の田舎にある8階建ての廃墟となったマンションが嫌いだった。真夜中になると決まって炎に包まれ、悲鳴や雄叫びをあげる──夢を見る。

 住民たちもいわく付きのマンションをどこか怖がり、腫れ物扱いしている。それに迷い込む部外者が多くて悲惨な結末になる。

 嫌いだった。あそこは幽霊たちの巣窟。


(2人が興味を持ったらどうしよう)


 そんな気も知らず、夏休みのある日。2人が田舎の街へやってくる。

 山間のキャンプ場からやってきたと、許鹿は楽しかった出来事を矢継ぎ早に報告してくれた。


「あ、ねえ。あのマンションさー」

「ユルカちゃん。あのマンションはね」

「さっき手招きしてる人が窓にいたんだけど。見間違えかな」

 不思議がる彼女を他所に、腕を引っ張り真流のお兄さんの元へ走った。流星が見える山へ向かう。これならあの廃墟へ遊ぶ危険性は減った。


 ホッとして、夜はゆったりと過ごした。なかなか流れ星が見えないね、なんて3人で空ばかり見て愚痴を言う。

 その時だった。悲鳴が聞こえた。

 悪夢で何度も耳にした霊たちの断末魔である。きっと自身にしか届いていない…。背筋が寒くなり、咄嗟に耳を塞ごうとした──


「な、何?!」

 星空を観察していた真流がブランケットを放り出して、街を見下ろす。すると例のマンションが赤く光っているではないか。


「シンリュウちゃん!見ちゃダメ!」

「え!何で光ってるの?」

 許鹿も悲鳴や雄叫びを耳にして、後ずさりキャンピングカーへ逃げ込もうとした。


「ぎゃあ!」

 光が目を焼く。2人が落雷にあったようにしゃがみ、おずおずと顔を上げた。


「な、何もなって…あ、ユルカ、目が」

「え?しんりゅーも」


 涙ではなく血を流し、お互いに絶句している。(ああ、わたしのせいだ…わたしが、)


「ごめんなさい…ああ、わたしが田舎に来ていいよっていうから…」

マンション夜勤勤務の霊圧が消えた…?!

霊感がある人の近くにいると自分も霊感がつく、とか昔聞きました。

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