20話 〈マンション探索・ソナタさんと合流〉
2階には鏡はなかった。想定内であったので気にはとめてはいないが──ホテルのような内装の中で異質な絵画が飾られ、ユルカはふいに足を止めた。
掃除や点検作業では通り過ぎていた小さな額縁に収まる絵。
縄で縛られた女性が薔薇に埋もれた不気味な絵画。美しいその容姿と相まって官能的なものと死を連想させる。
(管理人さんの趣味なのかなぁ…)
「ああ、これ。マンションに住んでる絵描きさんが描いたらしいよ」
「へ、へえ…や、やっぱりアーティストの考えは難しいですね…」
「私は水に浸かって寝てる女の人の絵のオマージュだと思う」
「はあ」
藍田さんは博識だ。ユルカは関心して、水に浸かって寝てる女の人の絵画を想像した。
「アーティストさんは想像力が豊かですねえ…」
「そうだねえ。じゃないと絵を描かないよ〜」
だっはっはっ、と彼女は笑う。
「はー」
「2階には鏡はなし。次は3階だ!」
(3階かぁ…また一波乱ありそう)
3階には例の困った住人がいる。藍田さんが乗り気な時に彼女も探索に加わるとなると、苦労が増えそうだ。
3階は──全ての階は構造が似たり寄ったりで、見知らぬ人が迷い込んだら昭和のビジネスホテルだと勘違いするだろう。
絨毯を踏みながらも、辺りをキョロキョロして鏡を探す。窓も小さいため廊下は間接照明めいた明かりしかなく、出会い頭にぶつかっても不思議は無い。常識的に防止策として鏡を設置したりするが、そういうものさえなかった。
「あっ、ソナタさぁん!何してんの?」
「わ!2人とも、な、な」
「ソナタさん。監視カメラを破壊しようとするのはやめてくださいね?」
今にも監視カメラへ手出ししようとしていた、ソナタという女性はしどろもどろに言い訳をのべようとした。
「ソナタさん。3階に鏡ってある?」
「え?か、鏡…?無いはずですが…?2人とも何をしているんですか」
2人をおずおずと眺め、彼女は不思議そうにしている。
「マンションに鏡がないか調べてるんだー。ま、遊びみたいなもん」
「は、はあ?!遊び?!貴方たち正気ですか?!」
「わ、声でかいですよ。真夜中なんですから」
気迫ある形相で詰め寄ってきた住人にユルカは、シーッと注意した。
「ユルカさんが頑張って封印したマンションを無下にするおつもりですか?」
「え、わ、私が?何言ってるんで」
「早く思い出してください。じゃないと、ずっとこのままなんですよ」
藍田さんと顔を見合せていると、ソナタさんはションボリとした。
「7階以外に鏡は一つだけあります。4階の角です」
遠回りして有名な絵画を表現する能力が欲しい。




