19話 〈八和田は後悔する〉
阪上 許鹿。
自らが会ってきた中で特段、霊感が強い女性であり、鏡による霊能力を有していた。そうして自身、八和田 真流の相方であり、二人で様々な交霊や除霊をしていた。
許鹿は底抜けに明るい笑顔で、後先を考えない女性だった。気が強いわけではないが変に自信家で…。
ある夏の日。ファミリーレストランで、アイスコーヒーを飲みながらボソッと彼女は言った。
「しんりゅー。あたしね、依頼で幽霊の世界を閉じ込めたみたいなマンションに行くんだ」
「幽霊の世界を閉じ込めたマンション?何よそれ」
幽霊は人と違う世界に住んでいるようで、同じだった。ただ彼らが透明で触れられなくて最期の瞬間を繰り返し、感情や記憶に強く縛られているのは人とは異なっている。
人はどんなに記憶に縛られても先に進まなければならないからだ。
「マンションの所有者の遠い親戚から依頼が来たんだ。いわく付きで廃墟なんだけれど、まだ住人が住んでるみたいな気配がする。しかも未だに人が迷い込んで死ぬ。あの世の入口みたいな場所」
「許鹿。やめといたほうがいい。それはリスクがデカいわ」
「うん。断りたいけど、ねえ、しんりゅー。こんな事言ったら怒ると思うけど、死んだ人に、生きてるみたいに会えるんだったらさ。会ってみたい」
彼女の明るい表情に陰がさしているのを。八和田は否定できない。
「アタシ、後悔してないよ。それに許鹿のせいだと思ってない」
「うん。…知ってる」
幽霊の世界──幽世が本当に存在するのなら、会いたい人物はたくさんいた。祖母、飼い犬。
二人の大事だった親友。
「そのマンション、何ていうの?」
「ヒアアフター」
「聞いた事ないわね」
「違う名前では有名だよ。赤いエレベーターのマンション」
確かに有名であった。心霊スポットとしてマニアの間では知らぬ者はいまい。
赤で統一されたエレベーター。どういう意図でそうされたかは分からない。そうして管理人が行方不明のままであり、また、その前には児童誘拐殺人事件が起きている。
無理心中や自殺、他殺。どこまでが嘘か誠か。様々ないわくがついている建物であった。
「何でそんな依頼受けたの?」
「いやあ、名声を得てきたらかなぁ〜」
ヘラヘラと笑いながら彼女ははぐらかした。地道に除霊師や霊能力者だと宣伝しながら働いて居るのだから、報われたと言いたげだ。
(そんなの…厄介払いじゃない)
夢の中の『八和田』は涙を流す。あっけらかんとした彼女の長所は短所になってしまった。
ああ、あの時もっと強く止めていれば。
「アタシも幽霊の世界に行きたいよ…許鹿」
八和田さんは彼女へ友愛を向けていたんだとおもいます(?




