525.歴史が全て真実だとは限らないようです
-第1世界の核心へアクセスするための観測層-
博士の言葉が空気を震わせたまま、しばらく沈黙が落ちた。
その沈黙を破ったのは博士のノートPCもどきから発せられた、かすかな電子音
だった。
ピッ……ピッ……ピッ……
博士が眉を上げる。
「やっと繋がったか。第9世界の私から返信が来たようだ」
博士は軽く指を動かし、画面を開いた。
そこには、文字化けしたような奇妙な記号列が並んでいたが、博士は慣れた様
子でスクロールしていく。
「・・・ふむ。やはり“揺らぎ”が大きくなっているらしい」
「揺らぎ・・・?」
「次元の壁の密度と言ったら伝わるかな?
タキオン通信は、壁の“薄い部分”を通すことで成立している。
だが最近、その薄い部分が不規則に動いていてね。
まるで・・・誰かが外側から壁を押しているみたいだ。」
博士は画面を閉じ、こちらをまっすぐ見た。
「回廊の崩壊と何か関係があると考えてる。
以前は薄い場所が定まっていたので、これほど返信が遅いことは無かったんだ。
だが、最近の崩壊の広がりと同時に返信が遅くなったんだ。」
その言葉に、胸の奥がざわついた。
「博士、一つ聞いても良いですか?
僕に第1世界の核心にって話してたじゃないですか?
そもそも、第1世界の核心って何なんですか?」
博士がオイラに背を向けてから言う。
「君は第1世界出身者だったね。
ということは東海道って知ってるかい?」
「もちろん知ってます。
東京から大阪までの街道ですよね。」
「その通り!
だが、なぜ東京から大阪だったか知っているかい?」
「東京に江戸幕府が開かれ、大阪は天下の台所として商業都市として発展していた
から、この2都を結ぶ街道として設置されたんですよね?」
「なるほど、確かにその認識で半分は正解だ。」
半分?学校の歴史ではそれしか習ってないぞ。
それ以外に理由なんて・・・あるのか?
「第1世界において、東京・・・当時の江戸は”魂の集積地”。
大阪は”魂の還流点”。そして東海道は”魂を流す道”なんだ。
時代と共にその形は街道から鉄道へと変化したが、本質は変わっていない。」
博士は続ける。
「大阪で回廊に接続することで、魂は異界の”魂流”へ戻り、再びどこかの世界に
届けられる仕組みになっているんだ。」
なんてことだ・・・歴史上の話ではそんなことは伝えられてない・・・。
いや、まてよ。
それを隠すために、江戸幕府という”表向きの歴史”が作られていたとしたら?
「君は機転が利くね。その通りだよ。
第1世界は、君も知っての通り”実験世界”なんだ。
だから、江戸の街、大阪の街も、閻魔庁が”そうなるように”仕向けたんだ。」
「エマ、そうなのか?」
「善君。あのね、そう仕向けたのは父なの。当時の将軍になりきってね・・・。」
マジか。
そう言えば長官って誰かに似てると思ったら、あの有名な将軍だ!
「それから、もう一つ、善君に伝えておくことがあるの。
第1世界では生を全うした魂を回廊に戻すまでの時間に制限があるの。」
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
身内に不幸があり、更新を1週間ほどお休みさせていただきます。
今書いている作品のテーマとも重なる部分があり、
旅立った者が穏やかな道を進めることを静かに祈っております。
再開までしばらくお待ちいただければ幸いです。




