523.不通区間は迂回すれば良いようです
-第1世界の核心へアクセスするための観測層-
オトンは拳を握りしめたまま、悔しさを噛みしめるように言葉を続けた。
「……俺たちの鍵としての力は、もうすぐ底をついてしまう。
本来、鍵の管理者は“回廊の外側”に存在するだけでよかった。
だが崩壊が始まってからは、鍵として回廊を補強するために、念を送り続けなけ
ればならなくなってしまった。
そして、念を送るには専用の能力が必要で、送れる量には限りがある。
本来なら、鍵として殆ど使うことなく生を全うするはずなのだが、崩壊があちら
こちらで発生しているから、ものすごい勢いで残量が減っていっている。
あと、2週間も続ければ、俺たちは鍵としての力を使い果たしてしまうんだ。」
オトンの言葉に、オカンが静かに頷く。
「私たちは、もう長くは支えられない。だから――あなたに託すしかないの」
「オイラに……?」
「ええ。あなたは“鍵の継承者”として生まれた。
本来なら、もっとずっと先に伝えるつもりだった。
でも、回廊の崩壊が早すぎたのよ。
あなたの魂は、私たちよりも回廊に適応している。だからこそ、まだ間に合う。」
ちょっと待てよ。
さっき博士が回廊の内側から崩壊の修復を試みているって言ってたな。
「他に方法は無いの?博士の修復を強化する方法でも対応できるんじゃない?」
オトンがゆっくりと顔を上げ、まっすぐにオイラを見つめた。
「善行。お前何か考えがあるのか?」
「新しい回廊を作るってできないの?
例えば、崩壊が始まったところを迂回するように新しい回廊を作って、崩壊の
影響を受けないようにするとか。」
オトンとオカンは、一瞬だけ言葉を失った。
最初に反応したのはオカンだった。
「……新しい回廊を、作る……?」
その声には驚きと、ほんのわずかな希望が混じっていた。
オトンは腕を組み直し、深く息を吐いた。
「善行。お前の言っていることは、理屈としては正しい。
崩壊部分を避けて新しい流路を作れば、魂の流出は止められる。
だが――それは“理論上は”だ」
「理論上?」
「ああ。回廊は自然に形成されたものじゃない。
異界そのものの“根源構造”に組み込まれた、魂のための唯一の通路だ。
つまり、回廊を作るというのは……異界の根幹を書き換えるのと同じなんだ」
読んでいただき、ありがとうございます。
”魂流”が通る回廊は、地下鉄のトンネルのようなものです。
崩壊に対応するのが難しいなら、そこを通らない新しい回廊を作り
そちらを通してしまえばというものです。
果たして上手く行くのか・・・次回に続きます。




