513.魂流の座標が揺らぎ始めるようです
-限界領域-
ミルセリアは静かに目を伏せ、アルテウスの苦々しい声を受け止めていた。
だが、彼女の瞳の奥には、主の野望とは別の色がわずかに揺れている。
「界神様。……ですが、“魂流”はただ奪えば済むものではありませんわ。
あれは異界そのものの循環。扱いを誤れば、異界が崩壊しますわ。」
「承知している。だが、目的を果たすためには、これしか選択肢が無いのだ。」
アルテウスは研究所の奥へと歩みを進める。
そこには、巨大な円環状の装置が鎮座していた。
中心部には淡い光が渦を巻き、まるで呼吸するように脈動している。
――“魂流観測機”
ミルセリアはこれを一人で構築したのだ。
「これが……魂流の流れにある、奴の魂の座標を示しているのだな?
あとは、私が魂流に接触し、奴の魂を流れから取り出せばいいのだな。」
アルテウスの声は、久しく忘れていた高揚を帯び、わずかに弾んでいた。
「ええ。ですが、界神様……」
ミルセリアは一歩踏み出し、アルテウスに告げる。
「魂流に触れる際、一歩間違えれば、界神様の魂もまた、流れに呑まれます。
不要な魂を削除するどころか、ご自身が“選別”される可能性も……」
アルテウスは振り返らない。
ただ、低く、押し殺した声で答えた。
「構わぬ。
私は……あの日、限界領域に落とされた瞬間に決めたのだ。
この世界を、私の望む形に作り替えると。
そのためなら、魂の一つや二つ……いや、すべてを賭けても惜しくはない。」
ミルセリアは小さく息を呑む。
その横顔には、忠誠と不安、そして言葉にできぬ別の感情が入り混じる。
「……では、準備を整えますわ。
魂流への“接続儀式”を開始するには、少し時間が必要です」
「任せる。私は――」
アルテウスが言いかけたその時、研究所全体が低く震えた。
警告灯が赤く点滅し、無機質なアラームが鳴り響く。
『警告。地上入口に侵入反応。識別不能。』
ミルセリアの表情が一変する。
「……誰かが来ましたわ。
界神様、どうやら私達の正体に気づいた者がいるようです。」
アルテウスはゆっくりと顔を上げ、薄く笑った。
「面白い。すんなりとことが運んでは面白くないからな。」
読んでいただき、ありがとうございます。
アルテウスは自分を限界領域に追いやった、ティアマトの魂を亡き者にしようと
しています。
しかし、アルテウスが信用しているミルセリアは、何やら別の企みも考えている
みたいです。




