507.魂の流れには逆らえないようです
-生と死の境界を越えた領域-
博士の言葉を反芻していると、青白い粒子の滝が、ふとこちらへ“寄ってくる”
ように見えた。
いや、寄ってくるのではない。こちらの認識が、あちら側へ滑り出している。
「……博士、なんだか、触れられそうな気がします」
思わず手を伸ばすと、博士が軽く制した。
「触れることはできる。だが、“触れたつもりになる”だけだよ。
あれは物質ではない。方向も位置も、そもそも定義されていない。
ただ――君が触れたいと思えば、触れたという“結果”だけが先に現れる。」
博士は手すりに寄りかかりながら、粒子の滝を見上げた。
「魂の直線は、世界ごとに傾きが違うと言ったね。
だが、もう一つ重要なことがある。
直線の“長さ”は、本人には決められないということだ。」
「長さ……?」
「そう。魂がどれだけの世界を渡り歩くか、どれだけの瞬間を積み重ねるか。
それは本人の意思ではなく、世界が生まれる前から流れている魂の潮流、”魂潮”
が決める。君が今見ているのは、その魂潮が魂を“編み直している”瞬間だ。」
青白い粒子が、まるで糸のように絡まり、ほどけ、また別の形へと組み替わっ
ていく。その動きは規則的でありながら、どこか生き物めいていた。
「博士……あれは、誰かの魂なんですか?」
「誰か、というより、“誰でもあり、誰でもない”。
魂は世界を移るたびに、少しずつ形を変える。
だから、ここにあるのは“個人”ではなく、“可能性”だ。」
博士は静かに笑った。
「君も、あそこに触れれば分かる。
自分がどれだけ多くの世界を歩いてきたか。
そして――これからどれだけ歩くことになるのか。」
青白い光が、主人公の指先にふわりと触れた。
触れた瞬間、胸の奥がざわりと震えた。
懐かしさとも、恐怖ともつかない感覚が波のように押し寄せる。
「……これ、僕の……?」
「さぁ、どうだろうね。
魂潮は、君に“思い出す準備ができた”と判断したのかもしれない。」
博士の声が、どこか遠くに聞こえ、目の前の視界が変化し始めた。
読んでいただき、ありがとうございます。
魂潮という新しい概念を入れてみました。
この魂潮が今後の展開のカギとなります。




