506.魂の存在は微分で説明できるようです
-アークライト博士の研究所列車?-
「彼らが現れたということは無事に境界を突破したようだな。
さぁ、観測デッキへ行こうじゃないか!」
そう言って、博士は制御装置を操作して列車のスピードを緩めた。
見覚えがあると思っていたが、リニアモーターカーL01系に似ているのだ。
「博士、この車両って第1世界のリニアモーターカーと言う乗り物に似ているので
すが、ひょっとして第1世界と何か関係があるのですか?」
博士は首を横に傾けただけで、何も言わなかった。
関係があるのか、無いのかはっきりしない。
観測デッキは最後尾の車両に場違いが車両が連結されていた。
「これって、新幹線用高所作業車じゃないか!」
リニアモーターカーの最後部に、新幹線用の高所作業車が連結されていて、なん
とも言えない絵面になっている。
「さぁ、こっちの車両に乗り移ってくれ。
乗り移りたいって念じてくれれば大丈夫だ。」
連結されてはいるが、そもそも貫通路などは無いのだから、どうやって乗り移る
のかと思ったら、念じれば行けてしまうと・・・本当だった・・・。
「言っただろ。ここでは物理法則はあまり重要ではないんだ。」
「ようこそ、観測デッキへ!」
アークライト博士が胸を張る。
だが、そこに広がっていたのは“観測デッキ”というより、まるで作業台だ。
ただ、手すりだけが最低限の安全を主張している
「空気はあるし、落ちることもない。
落ちようとしても、ここでは落ちる”方向”が存在しないのだから。」
落ちる方向が存在しない?どういうことだ?
その向こうには――青白い光の粒子が、滝のように流れ落ちていた。
「あれが君に見て欲しかった“境界層の外縁”だ。
異界の始まる場所でもあり、終わりの場所でもある。
あの、青白い光の粒子一つ一つが、生でもあり、死でもある。
いや、こう言った方が君には伝わるかな。”永久不滅の魂”って。」
ダメだ、博士は当たり前のように言うが、理解が追いつかない。
「君は第1世界で数学を学んだのだろう?微分を思い出してくれればいい。」
博士は青白い粒子の滝を指さしながら説明を続ける。
「曲線グラフを極限まで拡大すると、直線に近づく。
細かな直線を膨大な数だけ積み重ね、ほんの少しずつ傾きを変えることで、曲線
は”曲線らしく”見えている。ここも同じことさ。」
博士は滑らかに説明を続ける。
「先ほど”永久不滅の魂”と説明したが、あれを曲線だと思ってくれたまえ。
曲線である以上、それは微小な直線で構成されている。
では、その直線一本一本が何を意味するか?」
博士は一拍置いて、オイラを見る。
「それが”異界の各世界での存在時間”だよ。
魂は一本の線ではなく、無数の瞬間の集合体だ。
世界を渡り歩きながら、少しずつ傾きを変え、やがて一つの大きな曲線・・・
つまり”生”を形作るわけだ。」
青白い粒子が、まるで博士の言葉に呼応するように揺らめいた。
読んでいただき、ありがとうございます。
不滅の魂や生と死を、微分という身近な概念で捉えてみました。
人生の傾きが変わるたび、遠くから見れば私たちも一つの曲線にすぎない
のかもしれません。
その小さな直線の積み重ねが、どんな“生”を描くのか――それを観測する
旅はこの後も続きます。




