503.忘れられた物語を動かすようです
-第9世界 ラジオ会館 ゲーム階層-
「ところで善行、他の階層は行かなくていいのか?」
確かに、ホログラムに映っていた階層はもっとたくさんあった。
裏を返すと、第1階層で使命を全うできなかったモノ達がそれだけの種類に別れ
て存在しているということだ。
オイラが他の階層に行く・・・つまりは少しでも使命を全うできなかったモノ達
の救済を行うということにつながる。
「オイラが行ったところで、全部を救えるわけじゃないんだよな・・・」
「兄ちゃん、お前が全部を救う必要はない。
ただ――お前が向き合える“ひとつ”を選べばいいだけだ」
店のおっちゃんのその言葉が、妙に胸に刺さった。
使命を全うできなかったモノ達は、確かにたくさんいる。
だけど、オイラが向き合えるのは、きっとその中のほんの一握りだ。
それでも、誰かの“最後の一歩”を支えられるなら。
そのためにオイラがここにいるのなら。
「……行ってみるよ。他の階層も」
そう口にした瞬間、目の前にホログラムが現れた。
-第9世界 ラジオ会館 アニメ階層-
「ここはアニメに特化した階層みたいね。見たことが無いアニメばかりだわ。」
それもそのはず。オイラもここにある大半のアニメを見たことが無い。
ん?見たことが無いアニメがここにある・・・つまりは、第1世界で視聴され
なかったアニメたちが、ビデオソフトのケースのようなものに封入されている。
それが所狭しと置かれていて、背表紙のタイトルしかわからない状態だ。
このタイトルから話を想像して、興味を持ったものを抜き出すしかない。
「”ガジェット博士のからくり道中”だって。なんか興味を引くタイトルね。」
エマはそう言って、ケースを抜き出した。
無名の発明家と、壊れかけの機械たちによる旅物語とあらすじが書いてある。
エマがケースを開けると、中のビデオテープが光を放つ。
「どうやら、アンタがそいつの使命を受け止めてあげられるようじゃ。
大切にしておくれ。」
いつの間にか現れた白髭の老人がエマに伝えてきた。
「善君、私このテープを見届けてあげたい!」
そう言って、綾香の”持ち運びケース”に入れてあった、テレビデオを元の大き
さに戻し、早速テープを再生した。
すると、画面が光り出し、画面から黒ぶち丸眼鏡に白衣を着た博士っぽい女性
が出てきた。
「いやー君がこの物語を動かしてくれたんだね。ありがとう感謝するよ!」
突然の光景に、オイラ達は全員言葉を失った。
エマは驚きながらも、そっと博士に手を差し伸べた。
博士はその手を握り返し、柔らかく微笑む。
「ありがとう。君たちが再生してくれなかったら、私はずっと“未視聴”のままだ
った。物語はね、誰かに見届けてもらって初めて“存在”になるんだよ」
その言葉に、オイラの胸がじんわりと熱くなる。
第1世界で見られなかった作品たち。使命を果たせなかったモノたち。
ここにいるのは、ただのデータじゃない。
“誰かに届きたかった物語”そのものだ。
博士は白衣のポケットから、小さな歯車のペンダントを取り出した。
「これは、私の世界へ入るための鍵。
君たちが望むなら、物語の続きを見せてあげる。」
光がペンダントから溢れ、足元に再び転送陣が浮かび上がる。
エマは目を輝かせ、オイラは静かにうなずいた。
――救えるのは、ほんのひとつかもしれない。
それでも、その“ひとつ”が確かに誰かの物語を動かすのなら。
オイラたちは光に包まれ、博士の世界へと踏み出した。
読んでいただき、ありがとうございます。
アニメ階層は他の階層とは別の内容にしようと考えていたのですが、
アニメの中に入るようになるのは、書いていて自分でも驚きです。
どんな冒険になるのか、次回に続きます。




