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第6理科室 「先生!!なんとか一週間にまかりませんかね!?」

虎継「おのれら・・・いちゃついてんじゃ・・・ねぇぇぇぇぇぇえええぞぉおおおおおお!!!」

神様「あたしでよければ相手に・・・」

安藤龍二―――右の者に、夏季休業中2週間の補修を課す。


「・・・ふむ?」


「龍くん、日本語は読めるかしら?結構難解な言語だから、お姉ちゃんはちょっと心配なの」


「はっは~。みーちゃん、君は僕を見くびりすぎだ。僕は日本語はおろか、英語、それにドイツ語にだって造詣が深いんだ。この程度の文章に僕が手こずるとでも?」


「ドイツ語って、こんにちはって何ていうの?」


「基本中の基本だ。ハイルヒトラーだよ」


「すごいね龍くん!今にも粛清されちゃいそう!さようならは?」


「日独伊三国同盟さ」


「世界とさよならね!素敵!国連なんてクソクラエよ!」


「僕の賢さが伝わったようで嬉しいよ」


「そうね、相手が突っ込まなければ完成するのかどうか疑わしい、クソの役にも経たない不謹慎なボケが賢いと評される世界に生きる龍くんは最高にくればあーで、いろはすだわ」


「馬鹿にしてるかな?」


「いいえ? 馬と鹿に失礼ですもの」


「そうか、安心したよ」


「おかしな龍くんね」



僕とみーちゃんは、歩くのが嫌になるような長い廊下の一角にある掲示板の前に二人で立っていた。


その掲示板は学校側からの重要な用件が張り出される連絡掲示板であり、朝や昼ともなると大勢の人だかりが出来ていることも珍しくはない。


ただ、放課後に新しい情報が張り出されていることは殆どなかったので、当たり前のように完全下校時刻をぶっちぎって校内にいるのが日常と化している僕とみーちゃんは、只今掲示板の前で二人きりである。


そんな、傍目から見れば羨ましがられるような状況にいる僕ではあったが、舞い上がる気持ちなど微塵もなく、むしろ心は舞い下がっていた。


原因は二つだ。


一つは当たり前だが、みーちゃんと二人でいても毛の先程も嬉しくなどない。


それは別に、いつも一緒にいるから慣れているとかそう言った次元の話ではないのだ。


なるほど、たしかにみーちゃんは可愛いだろう。


雑誌の表紙を飾るグラビアアイドルなどでは到底かなわない美しい顔をほこり、どこがとは言わないが、主張しすぎない程度に出るとこがしっかり出ているスレンダーな体の曲線は、女の子らしさと女性らしさグラフの丁度ど真ん中に位置している。(当社比)


好みは当然あるだろうが、比較的万人受けしやすいといったところだろうか。


黙っているときは近寄りがたいほどの高貴な雰囲気を振りまくみーちゃんは、一方で笑顔が恐ろしく親しみやすい。


というか、この姑息なみーちゃんは笑顔を使い分けるのだ。


親しみやすい笑顔、息を呑むような儚げな笑顔、口さえ開けて、ともするとイメージを崩してしまいかねない快活な笑顔、男の心を鷲掴みにするような柔らかな笑顔。


みーちゃんは、悪魔以外の何者でもあるまい。


人心を掌握するすべを知っている。


それでいて運動も勉強もぶっちぎっているのだ。


僕と隼人、そしてなっちゃん以外の人間には基本的に常識的に接した上で言うべきことははっきりと言い、さらに利益を顧みず世話を焼くことも比較的多いらしいみーちゃんは、男子ばかりでなく女子からも、既に人気者の範疇をはるかに超えて女神扱いされている。


いわば、完璧な人間というやつだろうか。


凡も凡の凡凡の僕から見れば「大嫌いだこんな人間!カーーーッペ!!」といいたくなる人種である。


何人の男女がみーちゃんに特攻を仕掛け、撃沈していったことだろう。


普通なら色々と面倒が起こりそうなものだが、しかし、それでもみーちゃんの人気が落ちることはない。


中には逆恨みする阿呆もいるようだが、大方の人間は撃沈してもみーちゃんに対して好意を継続する場合が多いのだ。


それもこれも、みーちゃんの態度が一貫しているところが大きい。


運良く撃沈した人物に直撃インタビューが成功した時に聞いた話を要約すると、なんでも「私には夢があって今はそれに向かって精一杯努力をしたいの。だから、今は恋をするつもりにはなれない」だそうだ。


唾をはきかけてやりたい。


しかし、そんなこと言っておいて僕と四六時中一緒にいるのはどうなんだ?と思われるかもしれないが、どっこい、僕の存在はみーちゃんのおもちゃ程度にしか周りに認識されていない。


クラスメイトからその評価を聞いたとき僕は問答無用でそいつをぶん殴った。


5秒後には何故か僕がボコボコにされていた。


悔しい。


どれほどの辛酸を舐めてきたことか。


みーちゃんによる暴力という直接的な被害を除いても、新しくできた友人がみーちゃんを知った途端に僕を虫けらを見る目つきで見てきたり、女子からは美春様に迷惑かけるんじゃないわよと暴言を浴びせかけられたり、中学からつけ始めた僕の「被害レポート・みーちゃん関係」は既にキャンパスノート40冊を越えた。


あのなっちゃんですら「被害レポート・なっちゃん関係」は、たったの15冊だ。


そんなみーちゃんと一緒にいたからといって、一体全体何が嬉しいというのだ。


クソクラエである。


人間、恋が長続きするのは結局のところ相手の内面に対して惚れ込んだ時だ。


内面破綻バッチコイのみーちゃんと一緒にいて嬉しいことなどあるはずがない、否、あってはいけないのである。


外見はあくまでも外見なのである。


声を大にして言いたい。


騙されるなと。


正気にカエレと。


人生を棒に振るなと。


でなければ、僕のようになるぞ、と。



だいぶ熱くなってしまった。


みーちゃんの事を言うとき、マイナスのベクトル方向に興奮しすぎるのが悪い癖だと僕は常々反省している。


せめて僕はダークサイドに落ちずに清く正しく生きねば。


2ツ目の原因にいこう。


この張り紙だ。


そしてさらに言えば、この張り紙を見に来る前に別の掲示板で見た、この間のテストの成績貼りだしだ。


なぜ、赤点が4つもあるのか。


僕には理解ができない。


僕は頑張った。


自慢じゃないが、授業中に寝たことなんか一度たりともないし、ノートだって超頑張った。


宿題を忘れたことだって一度もないし、トイレで大をする時には参考書を読むのが僕の日課だ。


勉強が好きなわけじゃない。


頑張らないと追いつけないのだ。


何か今、やりたい事があるわけじゃないんだけど、もしもやりたい事が出来た時を思うと、今のうちに頑張らねばと思うのだ。


しかし、だ。


第1学年412人中378位。


何故だ。


なぜなのだ?


不思議でしょうがない。


努力は報われないのか?


頭上に目を向けたら、神すら目をそらしやがった。


あのオカマ野郎、僕が死んだらただじゃおかないぞ。


ちなみになっちゃんは400位ぴったりだった。


悔しい。


どんぐりの背ぇ比べとはまさにこのこと。


どうせ僕らはどんぐりなのだ。


なるほど、たしかになっちゃんは、言われてみれば髪型がどことなくどんぐりの帽子っぽい。


どんぐり・・・。


あまりにも地味ではないか。


片や女神、そして僕らはどんぐり。


比較対象として成り立つのか?


しかし、同じどんぐりでもなっちゃんにはソフトがある。


僕は新聞部オンリーだ。


別に僕は新聞記者になりたいわけじゃない。


その点、夢のあるなっちゃんはさしずめ夢見るどんぐり。


夢の浮き輪に連れられて、どんぶらこどんぶらこと流れて行くことができるだろう。


いつか岸にたどり着き、なっちゃんは大きな木へと育つのだ。


一方夢もクソもない僕は、大きなお池にはまってそのまま沈んでいく宿命である。


せめて、大きなたいやき君に丸呑みにされて太平洋にでも繰り出すことはできないだろうか。


このままでは余りにも報われないだろう。


「龍くん」


そこまで考えていた僕に、みーちゃんが声をかけてきた。


「なんだい?女神さま」


「あら、上手ね、キスしてあげようか?」


「お魚の真似でもしてくれるのかい?」


「なになっちゃんみたいな事言ってるのよ。気をしっかり持ちなさい」


「いいのさ、どうせ僕らはどんぐりなんだ。親父ギャグでも言ってなきゃやってらんないんだよ」


「頭をやられたようね?そんなにショックだったの?」


「別に、いつものことさ。ちなみにみーちゃん」


「なぁに?」


「みーちゃんは何位だったのさ?」


「なんで?普通に一位だったわよ?」


みーちゃんは、キョトンとした表情を浮かべ、小首をかしげながらそう言い放つ。


豆腐を7芒星柱に削り出して投げつけてやりたい。


14個も角があれば、きっとどこかの角が頭にぶつかるだろう。


みーちゃんの事だから、飛んできた豆腐をそのまま鍋で受け止めて料理を始める危険性があるが、チャレンジしてみる価値はある。


「普通の定義ってさ、難しいよね。そもそもそれは相対的なものでしかないのかもしれないね」


「哲学ね?」


「いいや、古典物理学だよ」


「適当に言ってるわね?」


「アインシュタイン先生を馬鹿にするなよ?」


「龍くんは馬鹿だけどね」


「馬と鹿に失礼だったんじゃないのかよ」


「そうだったわ、龍くん、奈良まで行って鹿に謝ってきて。馬は京都競馬場で会えるわ。修学旅行先取りね。かっこいいわよ龍くん」


「一人で修学旅行に行きたくもないし、ウチの修学旅行はハワイだろう。ちなみに奈良競馬場は?」


「既に廃競馬場となって今は競輪場になっているわ」


「なんでそんなこと知ってるんだよ」


「なんでもは知らないわ、知っていることだけ」


「著作権については知らないんだなみーちゃんは」






「龍くん」






「なに?」


「龍くんは勉強してどうするの?」


「・・・どうって?」


「お金持ちになりたい?」


「別に?」


「何か研究したい?」


「暴力女の更生について研究した―――ガフッ!?」


「夢、ある?」


「・・・」


「なんでもいいよ?」


「ないよ」


「ふぅん」


「みーちゃんは?」


「んー?」


「みーちゃんの夢って何さ」


「なんで?」


「なんでって、みーちゃんが先に聞いてきたんだろ?」


「聞きたい?」


「いや別に聞きたくな―――ガァァァァァアアアアッ!?」


「聞きたい?」


「ぎ、ぎ、ぎぎ、ぎぎぎだ」


「ふぅん」


「―――っ!・・・ハァっハァっ」


「そこまで興奮しなくても」


「興奮してねぇよ!!痛えんだよ!!」


「私の夢はね」


「・・・?」



そう言うと、みーちゃんはちょっと笑って








「龍くんと、世界征服することよ」









「・・・はぁ」




「すごい?」




「うん、すごいすごい。秘密結社とか作っちゃおうね」




「いいわね、新聞部を改名しましょう」




「戦闘員は隼人となっちゃんにしよう」




「あら、だめよ」



「僕を戦闘員にするつもりか?弱いぞ?」




「だって」




「なにさ」






「私は――――――――――――――――ったのよ?」









そういうみーちゃんの笑顔は









まるで――のようだった。








その時の僕は、まぁ、ちょっと顔を赤らめるぐらいの反応しかできなかったわけで。











夏休みも近づいた、ある日の放課後のことであったわけで。











青陵大学附属小学校 卒業文集 飛翔 


クラスページ  「将来の夢」


6年1組 山中美春




龍くんと二人で、世界征服をします。

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