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第4理科室 「先生!!この学校は化物でも入学できるんですか!?たしか進学校でしたよね!?」

夏樹「おう、クズ」

美春「あら、地味子」

英語の田中先生はこめかみに青筋を立てて怒っていらっしゃった。


「おい、赤城」


田中先生は只今、絶賛英語の授業の真っ最中である。


「おいこら、起きろ赤城!」


彼の目の前には、巨大な黒い塊がゆるやかに上下している。


「こら!お前まさか本気で寝とるのか!?起きろ!!起きろ虎継!!!


しかしそれはよく見れば黒い塊などではなく。


「赤城虎継!聞いてんのか!?虎継!とーらーつーぐー!!」


黒い塊が、猛然と立ち上がった。


「じゃかましぃわぁぁああああああああ!!!!!!!!!!!」


私立青陵学園の番長


「寝てたんかコラアアアアアアアアアアアア!!?」


「寝て何が悪いんじゃぁぁぁあああああああ!!」


赤城虎継その人であった。


「悪いに決まってるだろうが!!!」


「先生!!!ワイはちっさい頃からよく寝てたからここまで大きく育ったんじゃ!!!寝るのだけが取り柄じゃ!!!!寝る子は育つんじゃ!!!邪魔せんどいてくれ!!!!」


「まだ育つ気かお前!?2m超えるぞ!?あと寝るのが取り柄って悲しいこと言うもんじゃないぞ!!」


「それ以外ワイになんの取り柄があるんじゃ!!」


「知らんわそんなもの!自分で探せ!!教育者に甘えんじゃない!!」


「誰が甘えとるんじゃ誰がぁぁあああ!!ワイはなぁ!!!漢として―――」


その時


「赤城くん」


彼に微笑みかける一輪の花があった。


「うるさいわ」


山中美春、ミス青陵にして、青陵学園新聞部の部長その人である。


「み、美春どん・・・」


「授業中よ?」


「そうだぞ赤城!!!お前もちっとは山中の事を―――」


「先生はだまっとれぇぇえええ!!!」


「お前なぁ!!!!教師に向かって黙れとはなんだ黙れとは!!!私らは喋るのも仕事の内なん―――」


「先生」


「なんだ山中」


田中先生は今までの青筋を一瞬にして沈め、山中美春に微笑みかけた。


その表情はまるで聖人のようである。


美しささえ感じる、教育者のえこひいきであった。


「私、授業をすすめていただきたいです」


「わかった、そうしよう。おい、赤城、寝てていいぞ。おやすみ、いい夢みろよ」


「き、きさん・・・」


「はーい、次のページいきまーす。48ページでーす」


唖然とする赤城虎継を尻目に、バラバラと教科書をめくる音が教室に響く。


今までの食いつきっぷりが嘘のように、田中先生は鼻歌を歌いながら教壇へと向けスキップしていった。


非常に、楽しそうであった。


「おいこら待―――」


「赤城くん」


「はい!?」


「座りましょ?」


「はい!」


美春に天使のような笑顔でほほ笑みかけられた虎継は、もはや猫継も同然の素直さでもってその言葉に従った。


虎継の


「赤城くん、いい子にしててね」


「は・・・はい!」


お嫁さんにしたい女の子NO1は、山中美春こと、みーちゃんその人であった。


片や絹のような美しい髪を長く伸ばし、切れ長の目でもって大勢の男どもを虜にする絶世の美少女。


片や今時どこで手に入れたのか聞きたくてたまらなくなる長ランに身を包み、足元には下駄を履き、ご丁寧に2枚の葉を切っ先に携えた細長い枝を口にくわえ込む、どうみてもタイムスリップしてきたとしか、いや、そもそもこんな格好してたやつ実際にはいなかっただろうと思わせる汗臭そうな番長スタイルの大男。特技は悪球打ちに違いない。


教室の真ん中付近で席を横に並べる二人は、位置関係だけであれば、美女と野獣を地で行く二人だった。







「たのもぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!」


「ぎゃぁぁああああああああああ!!」


僕は放課後の新聞部で惰眠を貪っていた。


今日はみーちゃんがバイオリンを習う日なので、あの悪魔がこの部室に降臨することはない。


なっちゃんにしても、普段はソフト部の方へ普通に顔を出しているのでそうそうここに現れることなんてない。


しかし、それにしてもバイオリンとは。


それを弾いているみーちゃんの姿を想像すると、なんとも唾を吐きたくなる気分である。


ひょっとしてみーちゃんは、いつかバイオリンを楽器としてではなく鈍器として僕に用いるつもりなのではないだろうか。


気のせいであってほしいが、その想像は異様な現実感を伴って僕を恐怖させた。



悪魔どもがいない天国のような空間。


そこでまさに夢のような時間を満喫していた僕のもとへ、化物が乗り込んできたのである。


大げさな音をたてて開いたドアに、僕の心臓は冗談ではなく数秒間停止した。


「たのもぉぉおおおおおおおおお!!!!!!」


化物が再び咆哮を上げた。


「うるせぇ!!なんだアンタ!!」


「むぅ!?」


化物がなにやら赤くしていた頬の色を沈め、その眼光を鋭いものに変化させる。


「ちょっと落ち着いてください。あなたはどなたですか?」


僕は瞬時に身の危険を悟り、前言を撤回した。


丁寧な対応こそ、人が人と付き合う上での大切なアクセントだ。


相手にそれをもとめるならば、まずは自分から。これが鉄則。


「虎継という!!!!」


「そうですか、虎継さん。猛々しい名前ですね。じゃぁ、さようなら」


カラカラカラ・・・タン。


僕は扉をしめた。


「たのもぉぉおおおおおおおお!!!!!」


グワラァガッシャーーーン!!と、虎継が扉を開けた。


「あんた、へこたれない人ですね」


「強く生きるのが信条じゃ!!」


一体なんなのだ、この化物。


いや、化け物じみた大男か。


一応人間のような外見に見えないこともない。


さらに言えば、もしかしたら日本人なのかなぁと思わせるような顔つきをしている。


少なくとも、僕と彼が理解し合う時は永遠に訪れないであろう。


「ここは新聞部です。看板が欲しいのなら柔道部にどうぞ。どうしてもというなら教室表示の札がありますのでそちらを利用すると便利です」


「誰がこんなご時世に道場破りなどするんじゃ!!入部希望者じゃ!!」


「あんたがご時世なんて言葉を使うのは、初対面にして大きな驚きだ」


ん?


まて、今


「入部希望者?」


ご時世から音速を遥かに超える速度でもって離脱して行ってるであろう化物の言葉に気を取られてしまったが。



こいつ


「そうじゃ!よろしく頼む!!」


入部希望?


「お断りします」


冗談ではない。


なんで、僕の新聞部には人外ばかり集まるのだ。


現代の日本にあって既に異世界として確立しつつあるこの空間を、これ以上わけのわからない異次元にする訳にもいくまい。


僕は、普通の高校生活を送りたいのだ。


全力で阻止せねばならない。


「なんでじゃ!!!?」


「僕は普通に生きたいんです」


「何言っとるんじゃお前?」


「理解できる者などいるはずもありません。良いんです。僕は一人で生きていきますから」


「おい・・・おま―――」


カラカラカラ・・・タン。


ガッシャァァァァァアアアアン!!!!!


「たのもぉぉぉおおおおおおお!!!!!」


「うるせえ!!!!いちいち叫ばないでくれ!!!!!ドア壊れるだろ!!!僕が怒られるだろ!!!!」


「入部させい!!!!」


「断る!!!!この部の男子の定員は既に満たされている!!!女子枠しか空きがないんだ!!!諦めてくれ!!!!」


「訳のわからんことを言うな!!とにかく入部させてもらう!!!今日からお前はワイの心の友になるんじゃ!!!!」


「異議アリィィィイイイイイ!!!!!アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリィイイイイイイイイイイ!」


僕は、数ページに渡って敵を強打し続ける今世紀最高傑作の漫画に習って絶叫した。


僕のあまりの剣幕に怖気づいたのか、目の前の化物も一瞬言葉を詰まらせた。


ドン引きしたようにも見える。


別に構わない。


あの漫画は、理解できない者には理解できないであろう。


「なんでそこまで嫌がるんじゃ!!心を開け!!」


「心開いてどうする!!開くのは門戸までだ!!!僕は恋になんか落ちないぞ!!」


「誰が誰に恋するんじゃ!!」


「僕があんたにだ!!あぁ!!なんか訳のわからない方向に!!!!!」


「ちょっと落ち着け!!!」


「あんたに言われるのは悔しい!!!どれくらい悔しいかっていうと折角異世界にいったのに勇者じゃなくて歯ブラシに転生しちゃったくらい悔しい!!!・・・あ、でもそれも結構・・・うーんでもなぁ・・・おっさんのだったら嫌だしなぁ・・・美少女の確率はなぁ・・・できれば銀髪碧眼がいいなぁ・・・変身できなかったらどうしよう・・・本当に歯磨きだけしかシーンなくなりそうだよなぁ・・・世界救うっていってもなぁ・・・」


「意味がわからん!!!日本語を喋れ!!!!」


「あんたが日本人だったのが驚きだ!!!長ランどこで買ったんだ!!?」


「これは自作じゃ!!!!」


「マメだな!?」


「5着ある!!!!」


「きっちり一週間分だ!!素晴らしい!!!朝出して夕方バッチリのクリーニングなら土日に出せば毎日がフレッシュな人生だ!!」


「お前にも作ってやる!!!」


「いらねぇよ!!!僕は可愛い女の子のマフラーの方が良い!!!贅沢は言わない!!セーターは涙をのんで諦めるさ!!」


―――――――――その時



ガラッ




「・・・」



「・・・」



「・・・」



三人が顔を見合わせた。


今までの喧騒が嘘のように、瞬間、静寂が部室を支配した。


「あら、赤城くんじゃない。こんにちは」


その人物は、一瞬キョトンとした表情を浮かべたあと、しかしすぐさまそれを引っ込めて可憐な微笑みを浮かべた。


「み、みみみみみみみみみみみみみみみみ美春どん!!!!!?」


「美春丼?」


「龍くん、お姉ちゃんを軽々しくどんぶり呼ばわりしちゃだめよ?」


「お、おねえちゃん!!?弟君であらせられたか!!!!?」


「あんたどういうキャラづけなんだ?」


「血は繋がってないの」


「義姉弟!!!?」


「みーちゃん、顔に憂いを浮かべながらそういうややこしい事言うのやめてくれ」


「事実よ?」


「そうだね。みーちゃんと血が繋がっていなくて本当によかったと思うよ」


「結婚できるわよ?」


「け、けけけけけけけけけけけっこん!!!!?」


「うーん、そう言われると血が繋がっていたほうがマシだったのかなぁと思ってしまうね。みーちゃんとそうなる可能性が毛ほどでもあるなら、これほどの悲劇はないよ」


「お前ら、つ、つつつつ、付き合っとるんか!!!!?」


「えぇ、そうよね、ダーリン」


「ぎゃぁぁぁぁぁああああああああああああああああぁぁぁぁああぁぁぁぁあ!!」


「みーちゃん、息を吐くように嘘をついちゃいけない。ご覧?頭上で神様が錯乱状態に陥るほど怒っている姿がみえるだろ?」


「私には龍くんしか見えないわ」


「僕は今とても怒っているよみーちゃん。そのセリフだけは、君となっちゃん以外の女の子から聞くんだって昨日神に誓ったばっかりだったんだ」


「私は龍くん以外には見えないわ」


「君は幽霊として僕の目の前に現れた白髪の可憐な少女だったのかい?あの日見た花の名前は弟切草さ。花言葉は恨み、敵意。君にぴったりの素敵な花だねみーちゃん」


「ところで、赤城君が泣きながら走り去っていってしまったけど?」


「知らないよ、なんだったんだあの人」


「番長よ」


「あ、そう。ところで」


「なに?龍くん」


「どうしてみーちゃんここに来たんだ?習い事は?」


「バイオリンの先生が借金にまみれて蒸発してたわ。日本ダービーって罪ね。人生を狂わせるんですもの。」


「あ、そう。大分ひどいところでバイオリン習ってたんだね。それで、ひとつ気になるんだけどさ」


「なんでも聞いて?おねえちゃん張り切って答えちゃうわ」


「みーちゃんがさ、右手に握り締めてる、半壊して血糊がついたそのバイオリン、なんだい?」


「さっきね、そこでなっちゃんに会ったの」


「へぇ?殺し合いでもしたのかい?」


「いいえ、今日は珍しく穏やかなマグマのようななっちゃんだったわ」


「色々つっこみたいけど我慢するよ」


「それで、聞いたのよ」


「美しい人殺しの方法についてかい?」


「違うわ、隼人がね」


僕の頭上で、神が顔を真っ青にして立ち上がった。


「中学の頃に、なっちゃんのパンツかぶって遊んだんですって」


神は、慌てて立ち上がったので、そろそろしまうべきだった炬燵に足を取られて激しく転倒した。


「それでね、よくよく話しを聞いてみれば」


弁慶の泣き所を強打し、苦しそうに呻く神の姿が見える。


「どうもね、私の下着にも悪ふざけしたらしいのよ」


「隼人って最低だね。じゃぁ、僕はこれからチェロを習いに―――――――――」


みーちゃんが僕の眼前に立ちふさがる。


シャンプーのいい香りがした。


これが、死の香りというものなのだろうか。


「私の下着を、頭にかぶって踊り狂ったらしいわ」


「クズだ、僕も一発隼人にお見舞いしてやらなくちゃね」


「龍くんと、一緒に」


「そいつもクズだ。僕が懲らしめておいてやる。なに、心配することはないさ。僕とみーちゃんの仲だろう?」


「しかも、龍くん、その下着、持ち帰ったんですって」


神が絶叫した。


お願いだ、彼を、許してやってくれと。


バツなら、私が受けるから、と。


「・・・」


「・・・」


「きちんと」


「・・・」


「たたんでしまってあるよ」


ユラ、と、みーちゃんが動いた気がした。


「みーちゃんの、うさぎさんパンツ」


その言葉を最後に、最早落ちぐせのついた僕の意識は、闇へと吸い込まれていった。


神のすすり泣く声が、消えていく僕の意識の中で最後まで響いていた。








隼人「パンツ返したか?」

龍二「一度履いてからな」

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