第1理科室 「先生!校内暴力ってどこに電話すれば解決して貰えますか!?」
美春「で?」
作者「え・・・?(;´д`)」
私立青陵学園高等部、小高い丘の上にたち、その周囲を桜の木に囲まれた美しい校舎を誇りとして文武両道をモットーに掲げる僕の母校だ。
平和、といったら聞こえが良いけれど、まぁようするに特に面白味が無いと言ってしまえばそれまでかもしれないこの母校は、一応地域の進学校という事になっているらしい。
鬼のような両親の叱咤激励に半ば無理やり、といった感じで青陵学園に押し込まれた僕は,
正直落ちぶれていく自分の未来が目に映るようで日々戦々恐々として震え、毎晩枕を涙でぬらしている。のは、まぁ冗談だけど、正直今まで地域の中学校ではなんとか上位をキープしていた成績が霞んでしまうほどの周りのレベルの高さに、辟易しているのは事実だ。
僕と共に青陵学園へと入学した山中隼人は幼稚園の頃に僕が引っ越して来て依頼の幼馴染であり、親友。
これがまた腹立つほどのイケメンで、正直いつかはグーで顔面を陥没させてやろうと思っているんだけど、空手の段位もちのヤツに死角は無い。早く原付の免許でもとりたいもんだ、金属の塊にはさすがに適うまい。
そんで、まぁ、問題はヤツにもあるんだけれど、それ以上に・・・
「あら龍くん、昨日は失敗しちゃったのねぇ?」
と部室にニコヤカに入ってきた隼人の姉さんが一番の問題な訳でして、ええ。
「みーちゃん・・・、やっぱ計画に無理があったんじゃないかとおも――グゥッ!?」
メリメリ、と良い音を僕のこめかみが奏でる。オヤおかしいな、いつからコメカミってのは音が出るようになったんだ、と冗談が口をつかない程の威力のみーちゃん伝家の宝刀アイアンクローが炸裂した。
「み、みーちゃ・・・、ミ、ミス青陵がアイアンクローなんかしちゃ、い、いけな、グォァア!」
「あら、龍くんって本当にお世辞が上手いんだから。お姉ちゃん照れちゃうな。」
「て、照れてるようには思えな、ピギィィイイ!」
い、いたいよ!マジデイタイヨ!
「やだな、龍くん。そんな豚の真似なんかしてお姉ちゃんを喜ばせようとしてくれなくたって、お姉ちゃんは龍くんと一緒に居られるだけでとっても幸せだよ?」
「ウ、ウソダ、ギャアアアアア!」
頭蓋骨まで砕けてしまえと言わんばかりの恐ろしい握力を惜しみなく披露してくれる山中美春こと「みーちゃん」。昨年、僕らが入学する前の学園祭で行われる『ミス青陵』において一年生ながらも堂々の一位を勝ち取り、成績においてもトップを独走する才色兼備の2年生。
噂では一日につきみーちゃんにアタックをかける男の数は5人を下回った事が無いとされ、おいそれもう全校生徒足しても足りてねぇよみたいなツッコミも信憑性を揺るがせない程の人気を誇る、いわゆる全校生徒の憧れの的だ。
確かにまぁその見てくれやステータスだけを見れば、僕だってみーちゃんがモテルのも頷ける。
少し切れ長な目に見つめられると思わず見惚れてしまうのは、まぁ否定できないし、時々長い髪をかき上げる仕草なんかは異常に色っぽい。どこが、と明確に言及するのは避けるとしても破壊力のある体つきも直視に耐えない(誤用)。
およそ美人としての条件をほぼ完璧に網羅しているんじゃないかと思われるみーちゃんであったが、外面と反比例するように隼人や僕に対しては傲岸不遜、天上天下唯一独尊、お前の物は私の物私の物は言わずもがな私の物、ワンと鳴いて三回回って私の靴をおなめなさい、という傍若無人な態度に終始している。
それで、なにを考えたのか分からないけど、全校生徒の注目の的であるみーちゃんは今年、隼人や僕が入学すると同時に、今までのありとあらゆる部活の勧誘を断り続けていた態度を一変させ、青陵学園では数年前から存在を消していた新聞部を復活させた挙句、隼人と僕を強制的に入部させた。
なんでいきなり新聞部なのかはよくしらないが、一度不思議に思って尋ねたときに悪魔のように唇を吊り上げて見つめてきたので一目散に逃げ出して以来謎に包まれている。
しかしまぁ取り立てて取り柄も無かった僕としては、心置きなく接する事ができる隼人やみーちゃんと部活動をすることに抵抗は無かったんだけれど、よりによって隼人が逃げやがった。くそうあの野郎。青陵学園では部活の掛け持ちも特に禁止はされていないのをいい事に、空手部へ浮気していっこうに新聞部へ顔を出さないのだ。僕らの友情はそんなもんだったのかい!?と詰め寄ったものの「俺はあの姉貴と1時間以上同じ空間で過ごすと犬に変身してしまう呪いに掛かっているのだ。あいつは悪魔なんだ。サタンだ、サキュバスだ、ベルゼバブだ。気をつけろ龍二。お前も、死ぬぞ。」と真面目な顔をしてのたまうものだから、しっかりみーちゃんに情報をながしてやった。翌日隼人が入院したというニュースがまことしやかにクラスを駆け巡ったのは何でだろう、不思議でしょうがないぜ。
それでまぁ不本意ながら(周りの男どもには羨ましがられているが)みーちゃんと二人きりの部活動に従事する事になった僕は、日夜スクープを求めて校内を駆け回る事になった。
しかしまぁ平和がモットーなんじゃねぇの?と疑問に思うような学園内においておいそれと事件など起こりようがあるはずもなく、紙面が埋まらない事を嘆くデスクことみーちゃんに「龍二、スクープを作ってきなさい。」と犯罪命令を受け実行する事とあいなったのである。
「む、むりだよ、グギギ、や、やりすぎだと思うっていったじゃな、グゲゲゲゲ。」
「あら、計画は完璧だったわ。本当だったら今日の学園の話題は深夜に校舎内で花火を打ち上げたお馬鹿な犯人の事で盛り上がっていたはずだもの。それを一面記事として取材する新聞部。ミス青陵の発行する新聞として注目の的だった青陵学園新聞の評価は右肩上がりで皆が我先にと掲示板へ殺到するわ。」
「む、むちゃある・・・プギギギギギッ!」
「そして回を追う毎に真相へと迫っていく新聞記事、高まる緊張感、手に汗握る展開に皆は固唾を呑んで文字を追うの。」
「し、真相に迫ったらぼ、ぼくが・・・アガガガガガガ!」
「そして・・・遂に真犯人が浮かび上がるのよっ!」
「僕を売る気満々じゃないかっ!」
駄目だ!この人駄目な人だ!目が、目が陶酔している!
「私は謝罪会見を開くの。私が、私がしっかりとしていなかったのが悪かったんです。心の優しい子だと、・・・思っていたのに。こんな、こんな事になるなんて・・・。」
「それがやりたいだけだなっ!わかったぞ!あんた僕をダシにして遊びたいだけなんだなっ!絶対そうだなっ!」
「・・・今更?」
「何故そこで哀れむような目を!?」
くそう!!この人駄目だ!僕の事を完全におもちゃとしてしか認識してない!良いのか!良いのか安藤龍二!人として生まれ、龍のようにたくましく育って欲しいと親に願われて生きてきた龍二よ!このままみーちゃんのおもちゃ(飽きて捨てられるタイプ)として花の高校生活を終えてしまっても良いのか!?いや!よくない!打ち消し分的な感覚でもってして宜しくないぜ!なんとか・・・なんとかこの人をギャフンといわせ
「ギャフーン」
「僕の心を読むんじゃねぇ!」
みーちゃんがアイアンクローをやめて不敵に微笑む。グムゥ、ずきずきするぜ。正直脳に多大な影響を与えている可能性が高い。帰りにCTをとっていかなければいけない。今すぐにでも近場の脳外科に電話を
「林脳外科に6時から予約をとっておいたわ。」
「僕の行動を読むんじゃねぇ!」
フフン、とみーちゃんは鼻で笑って、安物のパイプ椅子に腰掛けている僕の背後に回りこんでくる。スカートの裾のひらめきに目がいってしまうのは生物としての本能だ。決して、この人を女として認識してはいけない。命に関わる。
「龍くんの考えている事ぐらい、なーんでもわかるけどね?」
「へ?」
フワリ、と音のしそうな柔らかな動きで、みーちゃんが僕に後ろから抱きついてきた。
・・・He?
「今回は、失敗しちゃったから。」
みーちゃんの、なんつーか柔らかいものが背中にあたる。
「た~っぷり。」
甘い香りが鼻腔に満ちて、なんかムズムズする。
「もう二度と。」
耳にあたる息がくすぐったい。
「忘れられないくらい。」
頭の中がみーちゃんで一杯になる。
「おしおきしてあげなくちゃね。」
絶望した。
「ぶがががががががががああああああ!!!!!!!」
みーちゃんの的確なチョークスリーパーが僕の首に炸裂した。
おしおきって、アイアンクローで十分じゃないの?と雲の上で神様がさめざめと涙を流す姿が見える。
神様がお節介を焼いて天使を派遣して僕をお迎えにこない事を切に望む。
まだ初チューすらしたことねぇ。
来るなよ!絶対に来るなよ!?
「・・・あんたたち、何してんの?」
そうして全校男子生徒と一部女子からも恨みをかいそうなシチュエーションでみーちゃんにもみくちゃにされていたまさにそのとき、ガラッと開いた部室の扉。
涙腺が崩壊してにじむ視界の隅に映ったのは、幸いな事に神様に派遣された僕を哀れみ涙する天使ではなく、不幸な事にもう一人の幼馴染、羽賀夏樹、その人でだった。
勘弁してくれ!!!!
神様!!!!