ラ王 妻の笑顔編
「西島、今晩どうだ、一杯」
同僚の滝藤がそう飲む動作を見せながら聞いてきた。
俺は首を横に振る。
「妻が家で待ってるから。今日、誕生日なんだ」
仕事鞄には誕生日プレゼントとして買っておいたネックレスの箱が入っている。
俺の返事を聞いて滝藤は、がっかりした様子を見せた。
「ラ王も、あるぞ」
ラ王。
その言葉を聞いて俺の心がざわつく。
いまだに家では食べたことがない。
食べたいラ王。
日清のラ王。
「来いよ、西島。ラ王を出してくれる個人の居酒屋なんだ」
滝藤が言う。
俺は口をぎゅっと嚙みしめ、仕事鞄を持つ手に力を込めた。
「いや、ダメだ」
「西島!」
「妻が帰りを待っている。それに、初めてのラ王は妻のラ王。そう、決めているんだ」
俺は滝藤に背中を向けたままに歩き出す。
「西島!」
滝藤の声が、オフィスの廊下に虚しく響いた。