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第五十七話 分岐点

「えっ……その小さな粒みたいなものを使ったら、空を飛べるんですか?」

「さっき七宮さんと一緒に実験してたんですが、実際に飛べましたね」

「二人で秘密の実験を……いえ、あまりそういうことを言うと苦手意識を持たれそうだから、控えめにするわね」


 さっきまで奔放な発言が多かった陽香先輩だが、微妙にしおらしくなってしまった。これで『夢を見ていただけです』と言われたらどうなるのか――俺に対する感情が敵意に傾かなければいいが。


「……あれはさっきのイカの子供なのかしら。司くんを見てるみたいね」

「周りの魔物を大人しくさせてくれてるんです。エアフィッシュが飛ばなくなってるでしょう」

「あっ、そういえば……まだ子供に見えますけど、やっぱりそれなりに強いんでしょうか」


 それはどうなのだろう――魔物のステータスを判別する方法は今のところないが、俺が知らないだけなのだろうか。


「サイファー、魔物のことを調べる方法ってあるのかな」

「『アナライズ』プログラムガゴザイマス。今回搭載シテイルカメラデハ利用不能デスノデ、チューンアップガ必要デス」

「『魔物使い』や『学者』のような職業なら、スキルで魔物の情報を得られるみたいね。『魔物鑑定のスクロール』なんてものもあるけど、コストパフォーマンスがあまり良くないのよ」

「なるほど。スクロールってどうやって作ってるのかな」

「『魔工師』も作れるけど、本業は『写本師』っていう職業。スクロールに込める魔法を使う人も必要だから、一つ一つに価値がある。『離脱のスクロール』は、学園の生徒のために優先して作ってると思う」


 工業的に『スクロール』のようなものが大量生産できないので、そういったものを作れる職には希少性があり、需要が大きいということか。


 俺も『オーブ』に関しては自分で生産しているようなものなので、もし俺から供給があると外部に知れると面倒なことになるかもしれない――ショップの蒼木先生は信頼できると思うが、他にも内密に販売できるルートを模索すべきだろうか。なんて発想は、闇の商人的な感じがしなくもないが。


「じゃあ、そろそろ向こう岸に渡りますが……俺は安定して飛べると思うので、みんなを一人ずつ運ぼうと思います」

「そうですよね、飛ぶのは初めてだと難しそうですもんね……私は藤原さんに全てを委ねます」

「……言い方」

「あっ、いえ、藤原さんに連れていってもらえるのなら、信じてお任せします」

「あまりニュアンスが変わっていないのだけど……司くん、妹のことをお願いね」

「順番ヲオ待チシテイマス、マスター」


 『飛翔』のオーブの効果時間は15分ほどなので、時間的には問題ない。双葉さんから運ぶことになったが――彼女はこちらを見るばかりで、どうすればいいか指示待ちをしている。


「どんな運び方がいいですか?」

「あっ……え、ええと。どんな形が一番安定するんでしょう」

「これは例えですけど、後ろから抱きかかえるのと、こうやって持ち上げるのと、背負うのと……あまりおすすめはしませんが、肩に担ぐっていうのもありますね」

「じゃ、じゃあ……お姉様はどれにしますか?」

「そうね……持ち上げてもらうのがいいんじゃないかしら。『荷物持ち』の司くんが得意とするスタイルでしょうし」

「……でも、それって……ううん、何でもない」

「……ピピッ」


 七宮さんとサイファーの反応は微妙だが、陽香先輩の言う通り、持ち上げるのは俺の得意とするところだ。『重量挙げ』の効果がなくても普通にいける。


「早速行きますか。よっ……」

「っ……も、持ち上げるってそういう……ひゃぁぁっ……!」


《一時付与スキル:飛翔》


 双葉さんを担ぎ上げてふわりと浮き上がり、そのまま向こう岸まで飛ぶ――そして双葉さんを降ろす。


「ま、まだドキドキしてます……藤原さん、本当にヒーローみたいでした」

「すぐに全員運ぶので大丈夫だと思いますが、周囲には気をつけておいてください」


 もう一度河を渡る――すると、次は陽香先輩が前に出てくる。


「……妹を運んだ後で言うのもなんだけど、今の運び方を一般的に何ていうか知っている?」

「え? 普通に担いだだけ……って……」


 今になってピンと来てしまった――自覚なく『お姫様抱っこ』をしていたということに。


「……それを言ったら、私たちがしてもらう時に……困る……」

「……ミクリヤ先輩ハ意地悪デス」

「ごめんなさい、どうしても指摘しておきたくて……そう、司くんは分かっていてやったわけじゃなかったのね。本当に純朴な人……」


 俺は陽香先輩の小声を聞き逃さなかった――『さっきはあんなに大胆だったのに』と聞こえたが、誤解を訂正するまでは耐えるほかはない。


「じゃあ、先輩は他の運び方の方が……」

「背負ってもらうのもいいし、後ろからハグしてもらうのもドキドキしそうなのだけど、ここは公平にした方がいいでしょうね。差をつけるとパーティに不和が生まれるわ」


 そういうところはしっかりしているんですね、とは言わずに先輩を担ぎ上げ、再び河を渡る。


「……思ったよりもロマンチックね……司くんが王子様みたい」

「っ……だ、駄目ですよ、飛んでるときにじゃれるのは」


 俺の首に腕を回そうとする先輩だが、なんとか我慢してくれる――距離感が近すぎるというか恋人に対するものに感じられるのだが。


「……お姉様、どうでした?」

「最高ね……東京湾をヘリコプターで遊覧するのに匹敵すると言えるわ」

「はは……俺はヘリコプターじゃないですよ」

「そうやって可愛い反応をするからからかいたくなるのよね……双葉もそう思わない?」

「はぁ……お姉様が一番楽しんでいますよね、今日の探索を。それは私も楽しいですけどね」

「ここからは気を引き締めて行かないと……って気がしてるので、心構えはしておいてください。探索を楽しむのは良いことだと俺も思ってますが」

「はい、気をつけます。ご忠告いたみいります、藤原さん」


 どこまでも真面目な双葉さんだが、『楽しい』という言葉が出てきたのは俺にとっても嬉しいものがある。


 最後はサイファーを抱え、七宮さんには背中におぶさってもらう形になったが――一人だけ残すことをしたくなかったとはいえ、背中に当たる二つの弾力は暴力的すぎた。


「……藤原くんに背負ってもらうと、すいすい飛べて気持ちいい」

「そ、それは良かった……うっ……」

「マスター、大丈夫デスカ? 心拍数ガ上昇シテオリマスガ」


 サイファーにバレていないのは幸いだった――背中に七宮さんの胸が当たって危険な状態だとはとても言えない。


 無事に着陸し、俺は二人を下ろしたあと、ひとり先に進んで深呼吸をする。


「二人だけ運ぶのなら、司くんの腕に捕まるのがいいんじゃないかしら」

「……その方法もあった。でも、すごく安定してた」

「藤原さん、大丈夫ですか? 少し休憩したほうが……」

「ああいえ、俺は大丈夫です。それよりもこの先が気になるので、探索を再開しましょう」


 思った通り、この先には何かある――風が流れてきている。


 上の階に移動する経路、あるいは転移の魔法陣。そのどちらかを期待したが、見えてきたのは少しずつ下っていく道だった。


「――コノママ進行スルト深度10ニ到達シマス」

「まだ深く潜れるっていうの……? 2号ダンジョンは長い間存在していたのに、それだけの学生がいても中層までしか潜れていなかったのね……」

「この9階層で脱出の魔法陣を探すか、10階層に行くかですね。それとも……」

「『離脱のスクロール』ですね。使えばここで手に入ったものは全て無くなりますが、それも考えないといけない状況だと思います」

「……もう少しだけ進む。深度10が危ないなら、ここに戻ってくる」


 七宮さんの提案に皆が頷く。ダンジョン探索における永遠の命題、それは引き際を見極めること。


 今は進むことを選ぶ――だが、収穫を優先して脱出の機会を逃すことがあってはならない。無事に帰るまでがダンジョン探索なのだから。



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