表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/85

第十五話 激震

 朝食を終えて出かける。七宮さんと一緒に玄関から出ると、秋月さんが自転車に跨っていた。


「帰りの登りをなんとかできるなら、自転車で行くとあっという間なのよねー」

「秋月さん、その格好なら車の方がいいんじゃ……」

「自転車の方が小回りが利いていいのよね、この辺りで過ごすなら。車ももちろん運転できるわよ、まだペーパーだけど」


 疑っているわけではないのだが、秋月さんはわざわざ免許証を出して見せてくれた。


「そうなんですか……免許の写真、物凄く写りがいいですね」

「っ……あ、あのねえ、大人をからかわないの。それはちょっとは気合いを入れて撮ったけどね? 自分でも自信はあったりするけど?」


 照れながらも喜んでいる秋月さん――しかし俺が見ていることに気づくとじっとり睨んでくる。表情が豊かな人だ。


「……自転車が手に入ったら、改造とかはしてもいいの?」

「学園の敷地内なら大丈夫だと思うわ。白ちゃんの場合、エンジンをつけたりとかじゃないんでしょうし」


 エンジンつきの自転車というのもあるが、あれは原付の扱いになるんだろうか。七宮さんの改造はそういったアプローチではなさそうだ――『魔工師』のスキルはそういったことにも使えるのだろう。


「それじゃ、気をつけて行ってきてね。自転車もそうだけど、買いたいものがあるときは購買部で聞いてみるか、帰りに街の方に寄ってみるとか、方法は色々あるから。もちろん私もある程度は融通してあげられるし」

「ありがとうございます、ちょっと考えてみます」

「……行ってきます」


 静波荘からしばらく歩くと、学校に向かう長い下り坂に入る。ついその辺りの草を見ても納品できそうかと考えてしまうようになったが、やはりそういったものはどこにでもあるわけではない。


「……今日は、ダンジョン実習が半日ある」

「最初に授業の説明が少しあって、昼前から夕方までずっと実習みたいだな」

「……お昼ご飯、一緒に食べる?」

「っ……や、ヤバい、めちゃくちゃ嬉しい……」

「……泣いちゃった?」

「いや、俺の職業ってランクEだし、クラスの扱いもだいぶ厳しいものがあるしさ。基本ソロプレイヤーとしてやっていくしかないのかと思ってて……」

「……そんなことない。昨日、会ってばかりなのに、二人でちゃんとできてた」


 七宮さんの言葉の一つ一つが心に染み込むようで、泣いたりはしないが、さっきから感動しすぎて声が震えそうになる。


(一人の人間として見てもらえるって、こんなに嬉しいんだな……)


「……私の職業は……ランクが高いから、もしかしたら他の人に誘われるかもしれない。それでも、私は……」


 彼女が何を言おうとしてくれているのかは分かる。それでも、俺は無条件にそれに甘えるわけにはいかなかった。


「良いパーティメンバーが揃ってるなら、ダンジョンの中でも比較的安全だと思うから。俺のことは心配しなくて大丈夫、何とかやってみるよ」

「……分かった、藤原くんがそう言うなら」


 七宮さんと胸を張って組むには、自分の評価を相応に上げてからにしたい。あの二人が組むのは不自然じゃないと、皆がそう思うくらいに。


   ◆◇◆


 だが、しかし。


 ただ七宮さんと一緒に登校してくるだけでも、俺の想像を遥かに超えるほど、男子生徒たちには動揺が走っていた。


「お、おい……新入生美少女ランキングで現在一位を争ってる七宮白の隣に、男がいるぞ……!」

「誰だあいつは……ラ、ランクEの雑魚だと!?」

「お、(おな)(ちゅう)か……それとも全人類の大敵(アークエネミー)幼馴染(おさななじ)みか!?」

「俺が推すつもりだったのに入学二日目に奪いやがって……憎しみで右手の疼きが抑えきれない……!」

「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」


(男子生徒の方が魔物より怖いんだが……というか、今日無事に帰れるのか?)


「……私も……」

「……え?」

「藤原くんに助けてもらうだけじゃなくて、私も助ける」


 七宮さんがそこまで思ってくれている――そうなると俺も、情けないことは言っていられない。


 できるだけ最短で周囲に認めてもらう。そのためには、今日の実習で結果を出すことだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電撃の新文芸様から5月17日より書籍版が発売になります。
イラスト担当は「オウカ」先生です!
i847087/
書籍版も応援のほど、何卒よろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ