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回り始める歯車

 その日は、突き刺すような寒さで目が覚めた。

 目に映るのはいつも通りの電灯と壁紙であり、生まれてからずっと暮らしてきた三塚家の亜樹(オレ)の部屋だった。


 夢の内容はよく思い出せないが、変な夢を見たせいで目覚ましが鳴る前に起きてしまった。


「時間……時間は……と」


 枕元に置いてある目覚まし時計は、朝の5時を少し過ぎたところを指していた。

 いつもより1時間くらい早いが、体が冷えたせいで完全に目が冴えて2度寝できそうになかった。。


 寝返りをうったときに落ちてしまった布団をベッドに戻して、服を着替えて一階にあるキッチンへ向かう。

 その途中、リビングへ続くドアにはめ込まれたガラスから、淡いオレンジ色の光が漏れていた。


「またか……」


 中の状況を察し、扉を開けて中に入っていた。

 リビングの中央に配置された足の短いテーブルには、妹の美優が作った魔力を使って動くランタン(・・・・)と呼ばれる灯りと暖房を兼ね備えた物が置いてあった。


 そのテーブルを囲うように配置されたソファの一つで美優が寝ていた。

 部屋の隅では、魔力の対流が悪くてできてしまう魔力溜まりで、ランタンから生み出された偽りの生命体である虚サラマンダーが、小さいながらもその姿を顕現させていた。


 高温の体を持つサラマンダーが家の中を歩きでもしたら、床も壁も焦げるどころか家が全焼してしまう。

 今この家でそれが起きないのは、美憂が虚サラマンダーから放出する熱を抑える技術を発見したからだそうだ。


 それは今までにない画期的な方法らしく、企業からの技術オファーが入るくらいだそうだ。


「おい、美優おきろ。ちゃんとベッドで寝ないと風邪をひくぞ」


 肩を揺すって起こそうとしたが、寝ている美優はだらしなく口の端から涎を流してムニャムニャするだけ。

 それどころか、肩を揺する亜樹の手を払った。


 毎度のことなので最近の俺は諦めモードに入っているが、この部屋で寝る癖がついてしまうと困るので、美優をお姫様抱っこで抱き上げて部屋に連れて行った。



「お風呂を上がってから観た番組が面白くて、それを見ながらサラマンダー(ランタン)ちゃんをいじってたらウトウト~って」


 美憂が起きてきたのはそれから2時間ほど経った頃で、起きてくるなりリビングで寝ていた弁明を始めた。


「なら、レコーダーに録画するか、見終わるまで起きていて、それからちゃんとベッドで寝ろ。あんなところで寝てたら風邪をひくぞ」


 弁明する美優を横目に、テーブルにトーストと少し甘めに作られたホットミルクを並べていく。


「だいじょうぶ、だいじょうぶ。ちゃーんと、ランタンをつけて寝たから」


 俺の心配をよそに、美憂は笑顔で答えた。

 魔工学という、工芸に特化した錬金術を使う学科の中東部に所属している美憂は今年で卒業だ。


 だがその前に、卒業試験と呼ばれるいわば3年間の総合演習みたいなものがある。

 美優の中で総合演習の価値は低いのか、あまり気負った様子はみられない。


 しかし、兄としてはこのような大切な時期に風邪をこじらせて実力が出せなかった、なんてことがあっては嫌なので少々お節介になってしまう。


「そうだとしても、ちゃんとベッドで寝ろ」

「はーい」


 すでに朝食に気を取られて、返ってくる返事は気の抜けた生返事だけだった。

 美優の横には、今問題の品となっているランタンが消火の為にフタを乗せられた状態で鎮座していた。


「――もう少し長く灯せられたら良いんだけど。博物館に行けば、何か良い資料があるかな?」


 俺がランタンを見ていることに気づいた美優は、現時点でランタンにある不満の改善策を聞いてきた。

 博物館といえば色々あるが、この町で博物館と言えば世界最大級の規模を誇る錬金術博物館だ。


「あそこの博物館は魔工学じゃなくて錬金だろ?」

「う~ん……。魔工学は、魔術と錬金術の合いの子だから何かあるともうんだけど、入館料が高いんだよね」

「暇を見て資料を探してきてやるよ。それより、卒業までもうすぐなんだ。体を壊すなよ」


 魔工学の研究に関しては『とことん』をモットーとしている美優に釘をさしておいた。

 釘を刺された美優は気にした様子もなく、デザートとして用意されたヨーグルトに大量のハチミツを入れて、スープを飲むようにヨーグルトを飲み干した。



多くの人に読んでいただきたいので、面白いと思っていただけたら評価していただけると幸いです。

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