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奪われた魔法遺物

 目の前にはグチャグチャに荒らされた玄関ホールと、次々に仲間の手で運び出される傷ついた錬金術師が居た。

 聞いた話によれば魔術師にやられたらしい。

 魔術師との戦闘は今まで何度もあったが、自分が知る中で一番、今回の被害が大きいだろう、と樹墨は思った。


「これは手酷くやられたね」


 呆然と立ち尽くしていると、横に立っていた初老の男性から深みのある声で話しかけられた。


「そうですね。最近、魔法遺物が騒がしかったので、それに乗じたのでしょう」


 隣に立つ初老男性――博物館の館長である久世(くぜ)一波(いっぱ)は樹墨愛の見解を、顎に少しだけ生えている白ひげを撫でながら聞いた。


「この襲撃の犯人は、魔術師と見て間違いないだろう。それに、奥に隠しておいた魔法遺物も盗まれているね」

「その様です。それに、展示品も数点盗まれているみたいです。部下の道具も一点ですが盗難にあっています」


 展示品は分かる。それだけ価値あるものだ。

 だが、魔術師たちにとって特別とまでは言えない仲間の道具を奪ってなにになるのか。

 手の内を調べるにしても、盗る物の選別は良くない。


「過去、次元接が発生した時に流れ着いた魔法異物。魔法使いの成れの果てや、血気盛んな魔術師たちが魔法使いを復活させないように極東のド田舎に持ってきたというのに、この国も安全では――いや、世界的にもまれに見ぬ危険な土地になったようだ」


 過去(・・)というのがどれほど昔か分からないが、博物館の使用から見て数十年は下らないだろう。

 久世は昔を思い懐かしむ目をしたあと、普段通りの強い芯の入った目で樹墨を見た。


「分かっているとは思うが、今回のこの襲撃の責任は、当時館長代理であった君に行くだろう」


 その言葉に樹墨は握りこぶしを更に強めた。


「しかし、私も何とかして君を追い詰めるようなことはしないよう、他の者に言っておこう」

「ご迷惑をおかけします」


 樹墨は亜樹に対して「アルバイトでこの博物館の管理を任せられている」と言っていたが、それは違う。

 樹墨は加工機関と呼ばれる錬金術師の集まりの中で上位に位置するエースだ。


 それもあって、博物館の管理も任されている。

 ただ、若くしてこの地位についていることを快く思わない人間も、加工機関に多く居る。


「魔法遺物は必ず取り返します。少しだけ時間をください」

「何か手がかりでもあるのですか?」

「いえ、手がかりと言うほどの物ではありませんが、気にかかる事があるので。そこから当たってみようかと」


 樹墨は予定帳を開き、今後の予定を確かめた。

 今日もテストなので()も学校に来ているハズだ。


「そうですか。ですが、心してください。今回、盗まれたものは錬金術師にとってだけではなく、世界的に見ても厄災の類いです。魔術師の手に渡るなどもってのほか。あなたの処分が決まる前に取り戻せる事を期待していますよ」


 静かに頷いた樹墨は、いつもよりやや遅く学園へ登校した。



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