この翻訳について
本書は、トマス・クロフトン・クローカー (Thomas Crofton Croker 1798年1月15日–1854年8月8日)による Fairy Legends and Traditions of the South of Ireland に収められたデュラハンの項を邦訳したものである。時間が許せば、デュラハンに関する他の文献も追加する。
翻訳には当初、グーテンベルク・プロジェクトにあるEPUBを元に、その元の本(1828年第2版)の影印らしきものを Internet Archive から探して参照した。ジョン・マレイとトマス・ステッグ父子の共同出版、表紙下に MDCCCXXXVIII. とあるのがローマ数字で 1828 を示す。
グーテンベルク・プロジェクトの本は Philadelphia: LEA AND BLANCHARD. 1844.とか書いてあるけれど、見比べた限り、内容は同一。
Note on the Section が一節の最後に来るところ、翻訳では「覚書」として冒頭に置いた。
ところが、デュラハンの Wikipedia を見ると、何だか勝手が違う。そこで、リンクされた Google books を開くと、同じ1828年版ながらジョン・マレイ単独になる3分冊の第2部だった。
目次を見ても、dullahan の節で1話多い。
理由は、先の本の前書きにあった。3分冊を1冊にまとめるため、収録した説話50話を40話まで削り、注釈は短くし、概要は省略したという。
つまり先に見た共同出版になる本は、簡略版であった。そうと解った以上は、省略分を追加する。省略された概要及び注釈は、各話の後書きとされているので、全て復原すると冒頭「覚書」は不要となる。
ほぼ同じ意匠の中表紙も引用句前半は違い、3巻本ではシェイクスピア『オセロ』の台詞。
肩の下に首がある、
そんな連中。
" Men whose heads
Do grow beneath their shoulders. "
SHAKSPEARE .
これは人食い人種の一種Anthropophagiに言及した台詞
And of the Cannibals that each other eat,
The Anthropophagi, and men whose heads
Do grow beneath their shoulders.
の一部。Anthropophagiとは、頭のない食人族と考えられた想像上の人種。
これは16世紀の地図挿画で、似たようなものが複数ある。デュラハン文献よりずっと古いから、あるいはこのようなものがデュラハンの発想源かもしれない。
Fairy は「妖精」と訳してきたが、この存在については外見からも役割からも、「妖怪」と訳した方がより適切かもしれない。