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8.ツンデレ文化はいいぞもっと流行れ

「勝負あったわね」




 私は勝利の余韻を噛み締めてから後ろを振り向く。アルリアは心配そうな目でこちらを見ていた。




「お、お、お怪我は……ありませんか……? ど、何処か、身体が痛むところとかは……?」


「ぶつかってみたときに、甲冑がなかなか痛かったけど、私は平気よ」




 私はガッツポーズをして、自分が無事であることをアピールする。

 一癖も二癖もある相手だったが、なんとか見張り役を倒すことができた。これで、漸く、この一本道を通ることができるだろうか。

 時間を掛けてしまった。警備がゼロなんて甘い話はさすがにないのだから仕方がないのだけれど、突破するのに時間を掛けてしまったのは致命傷といえる。

 これだけ激しい戦いを繰り広げていたのだから、敵の一人や二人、また新たに湧いてきていても通常だったらおかしくはないはずだ。通常だったら。

 そのため、通常だったらここまで時間を掛けてしまうことは、相当な痛手だと言えよう。

 だが、スレアと相対したときから、気掛かりなことがあった。

 これだけ激しい音を立てていたのにもかかわらず、新しい敵の気配が感じられなかったこと。偶然にも気づかれなかったとすればそこまでの話なのだが、でも、やはり、変に思ってしまう。

 だいたい、敵のアジトの入口に配置する警備が一人だけというのは、守りが薄すぎる。人員の少ない組織、なのなら理解できなくもない話だが、アルリアの話によれば、このクソダサネーミング集団は勢力を伸ばしてきている集団だという。そのように考えれば、守りをこれほどまでに手薄にするような規模の組織ではないはずだ。

 スレア、から得られた情報曰く、ここは間違いなく『正義の教団』の本部らしい。この情報から、ここが実は敵の総本山ではないという説は否定される。

 その説が否定されるとなると……何故、ここはこんなにも警備が手薄なのだろう。

 敵があまり賢くないだけなのだろうか?

 それとも、勢力を拡大することに重きを置いていて、守備面がやわやわな火力重視の組織とか?

 理由はどうであれ、警戒するに越したことはないか。こんなクソダサネーミングを付けてしまうような親玉とその下で働いてしまうような敵さんなわけだ。常識では考えることが難しい集団。そんな非常識集団を『どんな理由があって』と考察することは不可能に近いと思う。何も考えていないかもしれないし、自分の予想の斜め上の理由があってしたことなのかもしれない。

 考えることをやめよう。どのみち、現状は理由なんてわからないし、予想することしかできないのだから。

 私は一旦、自分の脳のモードを思考モードから通常モードに切り替えた。




「お、お、お前は……頭のおかしい女!」


「うん? ねえ、それって誰のことを言っているの? 貴方自身のこと? それとも私以外の他の誰かさん?」


「お前のことだよ!」




 私は一瞬、「この人何て変なことを言ってしまっているのだろうか」と疑問に思ってしまった。

 私はよく考える。そういえば、このチンピラ女はスレアとの戦いで取り巻きの一人を失っていた。

 仲間を失うことは悲しいことだ。とても引き摺ってしまう出来事だろう。引き摺ってしまった結果、思考する領域の大半がそれに占められてしまっていて、考えることが難しくなってしまったというか、少々、他人のことを変な風に見てしまうような思考状態に陥ってしまっているのだろう。

 でも、私は心根がとても優しい人間だ。海よりも心が広い人間だ。

 だから、私のことを変に思っていても許してあげましょう。人間、誰しもがそのようになるときがあるものだ。私には、理解がある。何故なら、私は賢くてスーパー素敵な完璧ウーマンなのだから。ええ。許してあげましょう。

 と瞬間的には思うものの、やはり、言われたことに腹が立ってきてしまったので、私の脳内上でこのチンピラ女に七万七千七百七十七回くらいビンタをしてしまっていた。

 おっと、いけない。私は根に持つタイプではたぶんないと信じているのだが、今だけ私は根に持ってしまっていた。私は心の広い人間だ。それなのに言われたことに根を持ってしまうような性格なのでは、これに矛盾してしまう。ふふ。危ないところだったわ。




「ねえ、ところで、チンピラ女さん。貴方は何故こんなところにいるのかしら?」


「ああ?」


「あっ、それと、こんなところで話し込んでいると危険よね。場所を変えましょうか」




 私は森の方を指差す。が、チンピラ女とその取り巻き四人だか五人だかのグループはそれを無視して、ズンズンと敵の総本山の方へ向かっていってしまった。




「ちょ、ちょ、ちょっとお待ちなさい!」


「……あん? マジで、なんだこの女は……」


「チンピラ女さん。話を聞かせていただけないかしら?」




 私は、私の中では相当へりくだった言い方でチンピラ女に訊ねてみる。チンピラ女は舌打ちをしてから、嫌そうに溜め息を吐いた。




「まず、一つ言ってやる。ウチの名前はチンピラ女なんかじゃねえ。リティナ、ってちゃんとした名前がある。んで、もう一つ。『チンピラ女』と呼称してくるヤツにフレンドリーに応対するヤツがいたら、そいつはよっぽどの聖人か頭がお花畑かのどっちかだ。お前はウチを馬鹿にしているのか?」


「いいえ。馬鹿になどしていないわ。呼び方がわからなかったから、そうね、貴方っぽい感じで呼ばさせていただいたまでよ?」


「ダーメだこいつ、話にならねぇ」




 呆れたような顔を見せて、またズンズンと行ってしまう。

 え、この私が呆れられてしまっている!? この私が!?

 驚きすぎて、おそらく第三者視点から見た私の顔は、少女漫画チックな驚き顔になってしまっていることだろう。それほど、驚いてしまったのだ。

 というか、私って、もしかして本当に変な人間なの……? 所謂、非常識な人間、ってやつなの……? え、この私がまさか……!?

 このチンピラ女、ええと、リティナね。聞いていると、このリティナの方が常識力があるのではないかと錯覚してしまう私も存在しているわ。

 もしかすると。もしかすると、だけど、私は非常識な存在で、リティナの方が常識が明らかにあるかもしれない、ってこと!?

 そ、そんなの認めないわ。そんなの、この私が認めないわよ! 認めてはいけないような気がするの。

 私はブンブンと頭を振る。

 私自身が常識に欠けた人間であるということ。それを否定したいがために、何度かブンブンと頭を振った。




「リティナ。お姉さんに、話を聞かせてもらえるかしら!」


「チッ、うぜぇ」


「で、話を聞かせてもらえるの?」


「わかったよ。何を話せば良いのかは知らんけど、話せば良いんだろ?」


「えっ、本当に話してくれるの?」


「話さないとお前がしつこく付きまとってくるから仕方なくだぞ」




 も、もう……! この、ツンデレさんめ!




「で、話ってなんだよ?」


「ええっと、さっきも言ったわよね。貴方は何故こんなところにいるの?」


「ティアってヤツを助け出すためだよ」


「うん?」




 私はそのとき思った。いったい、どういうことなのか、と。

 ティアを助け出すということはつまり、私たちの目的と同じということになる。




「ええーっと、ちょっと待って」


「なんだよ」


「貴方たちもティアのことを知っていたのね」


「知っていたも何も、ティアはウチの妹だ」




 なんという衝撃の事実。ティアという人間は、こんなパンクで危ないファッションセンスをした古き良きヤンキーみたいな見た目をした人の、妹さんだっただなんて。

 頭が混乱してきたから一回整理をしてみる。

 まず、アルリアにはティアというお友だちがいた。

 で、私はアルリアと出会い、ティア奪還のために動いた。

 そして、そのティアというお友だちはこの目の前にいるリティナの妹さんであるという。

 そのリティナは、というと、私がこの世界で初めて出会って、アルリアのことを蔑ろにしていた(と勝手に思っていた)人物だ。

 ふむふむ。なるほど? さっぱりわからない。

 さっぱりわからない私は、わかろうとするために脳内で人物相関図を作成する。

 ここの矢印はこうなって、ここの矢印はこうなる。うん。うん? つまり、どういうことなのかしら?




「まとめると、ティアはアルリアのお友だちであり、貴方の妹でもある……で、貴方は妹を助け出そうとしていて、アルリアはお友だちを助け出そうとしている……」


「ああ。それで合っているんじゃねぇか?」


「ということは、私たちって、利害が一致していることになるわよね」


「だから、どうした?」


「それならば、私たちと貴方たちは協力するべきでなくって?」




 まあ、これはあくまで理想的なお話であって、アルリアはこれにおそらく虐げられていたのだろうからアルリア的に気分が良くないだろうし、相手的にも乗りたくない話なのだろうけれど。




「必要ないね」


「いや、そんなことないわ。私たちの力は必ず貴方に役立つはずよ」




 私は即座に、自信満々になって言っていた。




「なんでだよ?」


「貴方ではあの甲冑を被っていた門番を倒すことができなかったでしょう」


「まあ、たしかに、その、さっきは助かったが……」


「ね。なら、目的も同じなのだし、協力するべきなのよ」


「強引じゃねぇか」


「強引でも構わないわ。戦力は、多いに越したことはないのよ」




 この先、何があるのかわからないわけだし。人が多い方が、いろいろなパターンの行動や案を考えられるし、実行もできるので、辿り着く目的が同じなのであれば、協力関係になるべきだ。

 それに、私一人の力では、アルリアを守ることができるか、些か不安なところがあった。いくら、私が完璧な存在であるといえども、千とか万とかの敵が現れてしまったとき、アルリアどころか、私自身の身を守ることすらも厳しいだろう。

 千とか万とかの軍勢が来たら、リティナたちと協力関係を結んでもまず厳しい話だが、それは兎も角として、味方が多い方が確実に生存可能性は上がるので、私たちにとって、これはメリットでしかない。

 メリットでしかないのだから、ここは強引でも、結ばせるしかない。協力関係を。




「協力関係を結んでもらえるかしら?」


「クソッ、仕方ねぇな……」




 こうして、私たちはリティナたちと協力関係を結ぶことになった。

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