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7.自分語りしたくなるときってあるよね

「ふ。あはは。ああ、そうか。このような気持ちになったのは、初めての気分だよ。実に、不愉快。ああ、私が貧弱で軟弱で弱者であることを突きつけてきた貴様という存在が実に、不愉快だ 」




 甲冑女は刺さったままの剣を気にすることもなく、冷ややかな声で言葉を吐く。

 え、マジでなんだこの女は。化け物か? 顔に剣が刺さったままの状態で、何故、平気で立っていられる? 顔から血がポタポタと垂れていて、剣を刺した張本人である私から見ても、めちゃくちゃ痛そうに見えるのだけれど。

 私は、甲冑女のタフさに恐怖した。




「貴様の名を覚えておいてやろう」


「いや、覚えなくて良いですけど」




 私は即、否定をする。

 やべ、この女、俗に言う変態とかいうやつだ、これ。まずいなぁ。

 私、自信満々に名乗りを上げてしまったけど、よくよく考えたら名乗り上げるメリットなんて双方共にないと思うのよね。

 というか、プライバシーの保護とか個人情報の保護的観点から考えれば、知らない人に個人情報を教えるのって、相当危険な行為に当たるわけだからね。

 やってしまったなぁ、私。変態相手に、名前を教えてしまった。それって、一番やってはいけないことだと思う。




「ならば、我が名を教えてやろう」


「知りたくないです、貴方のお名前なんて」




 あれ。もしかして、この甲冑女、仲間に引き入れることができそうか? 少々壊れてしまったのかもしれないけれど、仲間に引き入れることができれば、戦力が増えるので頼もしいことこの上ない。

 とは思うものの、この甲冑女が仲間になったとしたら、少し怖いので距離を置きたい。

 剣を顔に刺されて、クレイジーな笑いを浮かべている輩。それが、私から見たこの甲冑女の印象。

 いや、怖いでしょ。怖すぎでしょ。私の目には、この人、相当な狂人にしか映ってないよ。




「我が名はスレア。ここを守る番人だ」


「興味ないわ」




 これ、仲間にする? 怖くない? 仲間にして、平気? てか、これ仲間になる人物なの? 番人がただの侵入者に心を動かされて仲間になってしまったら、番人失格では? これを番人として配置させたやつ、完全にミスっているのでは? これで仲間にでもなったら、明らかな人選ミスだと思う。

 私はいろいろなことを思いながら、一歩ずつ後退していくことにする。

 何故、後退するか。それは、このスレアとかいう女が、恐ろしい存在に見えてきてしまったからだ。

 恐ろしいというか、イカれているというか。ただひたすらに、拒絶反応みたいなものが、私の身体に現れてしまっている。

 これを仲間にするのは、やめよう。仲間に引き入れることができたとしても、顔に剣を刺されて高笑いを浮かべている女を自分の近くに置いておきたいかとなると、私は置いておきたくないと答えることだろう。

 理由は単純明快。この女が怖いから。




「まあ、良い。ここまで我を虚仮にしてくれたやつは初めてだよ。だから、貴様は絶対に我が手によって葬って差し上げようではないか」




 あ、ダメだ、この人。仲間にならないパターンのやつだ。まあ、元から仲間にする気はなかったのだけれど。

 私は少しずつ後退していき、スレアから距離を取る。

 そのとき、私は厄介なことに気がついていた。

 時間を使いすぎだ。ということに。

 番人スレアに見つかってしまってから、だいぶ時間が経ってしまった。しかも、激しい音を立てて、戦闘を繰り広げている。

 今のところ、スレアのみだけれども、いつ応援が駆けつけに来てもおかしくはない。だって、ここは敵の根城の真ん前なわけなのだから。

 奇跡的にスレア一人に見つかってしまっただけで済んでいるけど、というか、本当だったら見つかってはいなかったわけだけど、敵の総本山の目の前にいるのだから、無数の敵に私たちの存在が見つかってしまっていてもおかしくはないはずで。

 なのに、現状、ヤツにしか見つかっていないというのならば、今、敵の総本山は手薄であっても構わない状態なのだろうか。

 おかしいとは思っていた。何故、監視役が一人しかいないのか。他にもいるのであれば、私の前方を塞ぐスレアがお仲間を呼んでいたことだろう。

 しかし、この女はその素振りを僅か足りとも見せていなかった。

 とすると、監視役はスレア一人のみだと考えられる。

 それは、明らかにおかしいことだ。

 ここが敵の総本山であり、攻め入れられてしまうと困る場所であるのならば、もっと守りを固めていたはず。監視役など、一人どころか、両手では足りないくらいの数の者を配置させておいても良かったはずだ。

 だというのに、警備に回させたのはこのスレアとかいう女、ただ一人。

 これが表すことは、つまり。




「スレア。貴方に訊ねたいことがあるのだけれど、ここって『正義の教団』とかいうクソダサネームをした組織の本部って認識で合っているのかしら?」


「部外者の貴様にそれは教えられん」


「なるほど。ここは貴方たちの組織の本部ではないのね。このクソダサい組織の本部ではない、と」


「クソダサくないし、ここは本部だ。……しまった!」


「……貴方、もしかしなくても、ポンコツ、ってやつなの?」




 私があえて言ってやると、スレアはショックそうに膝から地面に落ちていった。

 あれ。私、とても悪いことを思いついてしまったかもしれない。

 スレアとかいう人物。この人物はとても口が軽いし、少々残念な部分が見受けられる。

 だからこそ、このスレアを利用してやって、ペラペラと情報を吐かせていくというのはどうなのだろう。

 とても良い案のように思えるし、これならわざわざ敵の総本山にまで侵入して情報を聞き出すよりも手っ取り早く情報が手に入れられるかもしれない。

 ただし、これはスレアが情報を持っていることを前提とした考えなのだが。




「もう、情報は吐かんぞ。惑わされん。終いだ。ここで決着をつけさせてもらう」




 スレアは言い終えて、顔に突き刺さった剣を思い切り抜いて、その剣を左手に、大剣を右手のみで持ち、右手だけの力で大剣を大きく振り回す。突き刺さっていた剣のおかげで出血を抑えていたのだが、その剣を抜いてしまった影響で、スレアの顔から勢いよく血が流れ出てしまっていた。




「貴方、立っていられることが奇跡よ」


「ああ、そうだな。とてもラッキーだ」


「その状態で平気なわけ……?」


「もちろんだとも。こちらは平気だが、貴様はどうかな? 平気ではないだろう?」




 言われて、ハッとする。

 私は今、丸腰の状態だ。武器がない。私の腰に提げていた剣は相手に取られ、相手は二つの武器でこちらに襲い掛かろうとしてきている。

 おまけに、私の後方には守るべき者がいる。逃げられる状態ではない。

 絶望的状況。逃げることはできないのに、相手に武器を取られていて、丸腰の状態でタイマンをしなければならないこの状況。その上、パワーで考えたら相手に軍配が上がるし、防御面でも相手は甲冑を被っているため、勝っている。ハンデのありすぎる勝負だ。




「ええ。たしかに平気ではないわね。少しも平気ではないわ。でもね、平気ではないけれど、貴方があることを見落としていることに気がつけて、良かったと思っているわ」


「どういうことだ?」


「それを教えてしまっては意味がないじゃない」




 本当に、それを教えてしまっては意味がない。




「ハッタリか。それとも、ただの強がりか」


「そう思うのなら、思ってくれたままで良いわ」




 博打ではあるのだが、ハッタリでも強がりでもなんでもないのだから。

 スレアならしてくれる。『あの行動』を。

 それを信じて、私はただ、私にできることをするのみ。

 失敗すれば、命はないかもしれない。

 でも、他に策を思いつかなかった。

 ならば、一パーセントでも可能性のある行動に賭けてみるべきだ。無策で相対するよりは、マシなはず。

 私は相手のある行動を待った。私が勝つには、その行動をしてきてくれることに祈るしかない。運ゲー。私の運が、良いことを願っている。

 緊張。震え。止まらない。しくってしまいそうだ。

 失敗したら、終わってしまう。そう考えると、余計に足が竦んでしまう。

 堪えろ。これは、自分の命が懸かっている。

『夢の中の世界の私』の命。そんな前提で考えているけれど、その前提が間違えていたら怖い。それに、本当に夢の中のお話であったとしても、自分の命が絶えてしまうことは、苦しいし、想像したくないはずだ。

 だから、堪えろ、私。失敗してしまうかもしれない、なんて考えは捨てるべきだ。成功することだけを考えよう。




「終わりにしてくれよう。我が手に、勝利を!」


「ッ!」




 私は咄嗟に低い姿勢で後ろに転がる。私の頭上を大剣が通り過ぎた。

 危ない。この一撃で、絶命していたかもしれない。

 私は、ヒヤヒヤとした気持ちになる。




「やはり、ハッタリだったようだな。これで仕留める!」




 こちら目掛けて突進をしてくる。岩がぶつかろうとも逆に岩をはね除けてしまうほどの、凄まじい突進を。


 私は、これを待っていた!


 チャンスが到来した私は、こちらまでスレアが近づくのをあえて待つ。

 まだ、だ。まだ、早い。もっと、だ。もっと近づいてくるまで待つ。

 そして、私は丁度良いと思ったタイミングで相手の突進攻撃を躱す。あとコンマ一秒避けるのが遅れていたら、攻撃が当たってしまっていた。それくらい、ギリギリのところで、私はその突進攻撃を避けていた。

 そして、私はすぐにスレアの背後を取り、全身を使って横からスレアにぶつかってみた。




「……なっ!?」




 スレアはバランスを崩し、転がる。

 転がった先は、一本道の横端。目と鼻の先には、崖が存在している。

 私は、そちらに押しやるように、再度全身を使ってスレアにぶつかってみた。

 驚くほど簡単にスレアは押されていき、そして、呆気なく崖から真っ逆さまになった状態で落ちていった。




「スレア。貴方が見落としていたこと。それは、ここの周囲が崖ばかりであること。貴方がそれを見落としているものだから、私はこの地形を利用させてもらったわ。皮肉なものよね。貴方はそのご自慢のパワーであのチンピラ女の取り巻きの一人を崖に突き落としていた。そんな貴方が丸腰でパワーのない私に、自身のパワーを利用されて崖に突き落とされてしまうなんてね」




 私は奇跡的に崖から落ちていなかった自分の剣を手に取って、それを鞘にしまった。

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