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5.ヒャッハー中二病サイコー

 結局、正面突破しか思いつかず、私たちはそのまま敵のアジトとやらへ向かうことにした。

 だが、さすがに無策で突っ込むというわけにはいかない。いかないので、事前にアルリアとは話し合いをしている。

 まず、アルリアには安全そうな場所にいてもらう。具体的には、近くに森があったら、茂みに隠れてもらう。

 そして、アルリアの安全を確保したら、次に、私が慎重に一本道を進んでいく。

 ここからが大事な話で、幾つかパターンがあり、状況において侵入の仕方を変える。

 一つ目に、私かアルリアのどちらかが敵にバレてしまった場合。この場合はアルリアと合流してすぐにその場を去る。このパターンは侵入失敗となるので、改めて侵入方法を考えなくてはならない。

 二つ目に、敵に見つからなかった場合。この場合は、事前に合図を決めておき、合図と同時にアルリアに急いでもらって合流する。その途中で敵に見つかってしまった場合、一つ目のパターンと同様な行動を取る。

 三つ目に、私たちの侵入がバレていたが敵に泳がされていた場合。このパターンは、そのときの状況によって判断する。

 と、このような感じで予め決めてはいたのだが、果たして、どうなることやら。

 私は視線の遠くに存在するあるものを見る。バベルの塔、的なものが存在を強く主張していた。

 あれが、敵のアジトか。見た目の圧が凄いけど、悪人たちの根城があそこまで堂々として目立つような場所で良いものなのだろうか。悪人側サイドの視点で考えたら、目立ちすぎて不便に感じてしまうと思うのだが、誰か建設の際に突っ込んであげられる人はいなかったものなのだろうか。

 などと、私は突っ込みを入れられなかったあの敵のアジトに対して、私が今できる最大限の突っ込みを入れてあげた。

 まあ、目立ちたがりやなのかもしれないし、他人が趣味で建てたものに突っ込みを入れてやるというのも野暮な話か。私は完璧で素敵な人間であるからね。他人の趣味を悪く言うことはしないと決めているのよ。つい、言ってしまうこともあるけれども。




「道案内、ありがとう。それでは、作戦通りにいくわね」


「は、はい……」




 音を立てないように茂みから抜き足差し足で出ていき、ゆっくりと一本道の方へ向かう。見たところ敵はいないようだが、罠が張られているかもしれないし、見えない四角に監視の者が潜んでいるかもしれない。だから、静かにそろりそろりと進んでいく。

 ふむ。とりあえず、最初の難関であるこの一本道は抜けられそうか。

 と、思っていた瞬間、私の後ろで人の声が聞こえた。




「斬られたいか」




 物騒なワードが私の耳に入ってきた。

「斬られたいか」と訊ねられて「斬られたいです」と答える人間は、よっぽどの者ではない限り、存在しない。

 これは、脅しか。

 見つかってしまった以上、このまま侵入していくわけには行かない。

 騒ぎになってしまうと、監視の目が強くなってしまうかもしれないので、侵入することがより難しくなってしまう。上手く切り抜けなければならない。

 その上、この場面を上手く対処しなければ、アルリアにも危険が及んでしまう。厄介なことになってしまった。




「き、き、斬られたくねぇよ! アホか!」


「!?」




 聞いたことのある声。しかも、この夢の中の世界で聞いたことのある声。

 声のする方を向くと、そこには、初めて私がこの世界で遭遇したキャラクターである、あのチンピラ女、それとその取り巻き何人かがいた。

 どうやら、バレたのは私ではなく、チンピラ女たちのようである。

 私がバレてないのは良いことだが、ここからアルリアに合図を送って合流するはずだったのに、あれらが邪魔をして、合流することができない。くっ。私の邪魔をしおって。許さん。

 私はチンピラ女への怒りを抱きつつ、私が取るべき行動を思考する。

 あそこがやり合っているから今のところバレてはいないわけだが、一旦、引き返してアルリアと合流したい。だが、引き返してしまうとバレてしまう恐れがあるし、あいつらに巻き込まれて余計に面倒くさいことになってしまう。

 詰みか。詰み、なのか。そもそも、何故、あのチンピラ女たちはここにいる。どのような了見で、ここに来たというのだ、あの女たちは。

 私はチンピラ女たちへの不満を思いながら、何故か、偶々近くに人間一人くらい隠れることができそうな岩があったので、私はその陰に隠れて奴らの動向をうかがうことにする。




「……なるほど。斬られたいようだな」


「こいつ、頭イカれているんじゃないのか……?」


「光よ――我が手に【力】を与えたまえ」




 西洋の甲冑的なものを被った女騎士的な茶髪の女が、何やら中二病染みたことを言い始める。

 私はその発言を受けて、共感性羞恥とかいうものを感じてしまう。

 え。ごめん。無理。いや、あれ、恥ずかしすぎでしょ。え。これ本当に夢の中なの。私、こんな恥ずかしい夢を見ているわけなの。何を考えてこんな夢を見ているの。

 私は、リアルの私の頭を疑った。




「えっと、その……なんだ? アンタ、そこを退いてくれねぇか? 遊んでいる暇はないんだが……」


「ああ。こちらも遊んでいる暇はないな。だから、貴様は土に還ると良かろう」


「言葉が通じてねぇ。おい、お前たち。こいつ、無視して行くぞ」




 あ、まずい。あいつら、こっちに来る。

 私が「うわ、こっち来んな」的なことを思っていた次の瞬間、チンピラ女の取り巻きの一人が崖の外まで吹き飛んでいった。

 えっ、何事!? えっ、何が起きた!?

 驚いた私は、吹き飛んでいった方向を三度見くらいして、自分の目を手でぐしぐしと擦る。それをしたところで、何も変わりはしないけれど。

 えっと。意味がわからないけれど、一先ず、状況を整理して、私の目の前で何が起こったのかを明らかにしていこう。

 吹き飛んでいった人間。これから考えられることは、あの者は、何かしらの衝撃が加えられたことによって、吹き飛んでいってしまったということ。

 では、その衝撃の正体とは。謎とは。それはおそらく、あの甲冑女が何かした故に、生じてしまったものなのではないか、と考えられる。

 ここは夢の中の世界。という前提で考えている私だが、本当にその前提で合っているのだとしたら、あの甲冑女が常識外れなアクションを起こせたとしても何ら不思議ではない。

 さっきの中二病的な発言。あれが、原因か……? あれによって、不思議な現象が私の目の前で起こってしまったのだろうか。

 ふむ。この世界はあれか。あれなのか。現実世界のスケールで考えることは一度捨て置いた方が良い世界なのだろうか。

 ついに、魔法だとか超能力だとか、そういった類のものまで出てきてしまった。これは、現実世界ではあり得ない。

 やはり、ここは夢の中の世界である、という仮定は正しかったのかもしれない。




「テ、テメェ! よくもウチの仲間を……!」




 チンピラ女が、今にも甲冑女のことを殴りに行こうと言わんばかりにワナワナと震えている。

 待て、やめなさい、チンピラ女。貴方、それは、フラグというものよ。屈服フラグとかいうやつだわ。命が惜しければ、下手に手を出すのはやめることね。あの甲冑女に手を出すということは、得体の知れない物体に触れてみるということと同じよ。

 と、思ったところで、口には出していないからそれが伝わるわけもなく、チンピラ女は案の定ズカズカと甲冑女の方まで近づいていってしまった。

 さて、どうするべきか。

 無視する、という手段で良いように思えたのだが、あの甲冑女が何をしてくるのかわからない。周囲一帯がデンジャラスゾーンになってしまう攻撃を繰り出してくるかもしれないし、そうなってしまったらアルリアが危ない。当然、私も危ない。

 プラス、私とアルリアは今、困っている。この敵の本部にどのようにして侵入すれば良いのか、と。

 あの甲冑女はおそらく監視役だ。見張りが強化されてしまうと困る。となると、あの甲冑女の口をどうにかして塞ぐ必要はある。

 ならば、チンピラ女たちに助け船を出してやって、共闘してあの甲冑女の口を塞いでしまえば良いのではないか。

 と、いった案を考えたのだが、この案には不完全な部分がある。

 チンピラ女たちと共闘するということ。それはつまり、あのチンピラ女たちを一時的に味方につけるということになる。

 アルリアは、あのチンピラ女に絡まれていた。アルリア的にも気分は良くないだろうし、チンピラ女たちの視点からも考えると、共闘してくれるようには思えないだろう。

 おまけに、私とチンピラ女も初対面時に対立し合ってしまっている。

 以上のことから、あのチンピラ女たちと共闘することは厳しい、と考えるのが妥当か。

 参ったわね。あのチンピラ女の扱い、とても面倒だわ。面倒というか、お邪魔者というか、凄くややこしいことになってしまったわ。

 はぁ。頭が痛い。これ以上、場を荒らさないでいただきたいわね。超絶素敵で美人な私のプランが台無しになってしまうわ。




「こ、こ、このぉ!」


「貴様の連れ一人で見逃してやろうとしたのに、なんて滑稽な奴だ」




 甲冑女は溜め息を吐いて、殴りかかろうとしていたチンピラ女に向かって柔道の大外刈のようなものを食らわせた後に地面に這いつくばらせ、そいつは足でチンピラ女の頭を思い切り踏んだ。

 容赦がない。一歩間違えれば、私があのような姿になっていたのかもしれないと考えると、恐ろしい。恐ろしくて、思わず、身体がぶるってしまっている。




「く、く、くそぉぉぉ!」


「鳴くな、貴様に鳴くことを許可した覚えはない」




 甲冑女は大剣を取り出して、その大剣をブンブンと振り回し、チンピラ女の目と鼻の先の地面にそれを突き刺した。

 圧倒的な力。こんな怪物を、私の力でどうにかすることなんてできたのだろうか。否、どうにかできたはずがない。

 甲冑女の力は理解した。

 冷静に考えた結果、この甲冑女に立ち向かっていくことは無理だ。

 そのように判断した私は、あの甲冑女にバレないように何とかして背後に回り、アルリアと合流して一度退いてしまおうと考えている。所謂、一時撤退とかいうやつ。それだ。

 今は、侵入する頃合いではなかった。その結果、このように複雑なことになってしまった。

 だから、退こう。時が来るまで、待とう。

 諦めムードになっていた私なのだが、そんな私の目に驚きの光景が飛び込んできてしまう。




「……や、やめてください!」




 チンピラ女と甲冑女の近くまで駆け寄って、アルリアが大きな声でそう叫んでいた。

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