4.作戦会議ってそもそも何!?
作戦会議とは言っても、その作戦会議をするためには、まず情報がないといけない。情報が一つもない状態で作戦会議をすることなど、不可能であるのだから。
「アルリア。いくつか訊ねたいことがあるのだけど。良いかしら?」
「は、はい……?」
「『正義の教団』について、もう少し詳しく教えてもらうことはできるかしら? 知らないなら知らないで良いのだけれど」
知らなくても構わない。が、知っているのであれば、その情報を私も共有していた方が、何かあったときに役に立つかもしれないし、言わないメリットがあまり浮かばない。
「え、えっとですね……『正義の教団』はここ最近になって勢力を伸ばしてきた、おかしな団体なんです」
力をつけてきたのは最近、か。
どうやら、昔から、そのクサダサネーミングセンス集団に民衆が悩まされてきたわけではないらしい。夢の中の世界に、今も昔も未来もあるのか知らないけれども。
へえ。これは少し、きな臭い香りがしてきたような気がするわね。
勢力を伸ばす。ということは、その集団の思想に肯定する存在が増えてきていると捉えて良いだろう。
少なくともアルリアは友だちを拐われて苦しんでいるというのに、そんな頭のおかしな集団の勢力が増強している、人々からの支持を少しずつ獲得し始めている。それって、アルリア目線から見てみれば、怪しいにおいがプンプンとしているのではないのだろうか。
疑問点はいくつか。
何故、悪いことをしている集団の勢力が拡大しているのか。拡大することができているのか。
何故、そのような人攫いの集団が成立してしまったのか。
それを知るには、実際にこの目で確認してみる必要があるし、幹部クラスの輩や親玉に直接問う必要があるだろう。
しかし、訊ねたところで話が通じるかどうか怪しいところであるし、悪どい集団であるわけなのだから、素直に教えてくれるはずもないだろう。
ただ、これはあくまで現実的に考えたら、というだけのお話。私の今いるこの世界は夢の中の世界なのである。
つまり、私やアルリアのような、『正義の教団』というものに対して反抗心や嫌悪感を持っている人間であったとしても、簡単にペラペラと話してくれてしまう可能性は充分あるということだ。
ここがリアルワールドであれば、余計なことを話すメリットがないし、よっぽどの輩でなければ訊ねてみたところで返答してくれないだろうし、訊ねている隙に攻撃を仕掛けてくるだろう。
対して、夢の中の世界であれば、その世界の主人公は姿かたちはちがえどもいつだって自分であるのだから、夢の中の自分、の都合の良いように話は進んでいくはず。だから、ペラペラと話してくれなければ展開上困ってしまうので、おそらく、簡単にペラペラと話してしまうのだろう。と、私は考えている。
だが、気になるのはこの論には『だろう』が多用されてしまっていること。それに加えて、この論はこの世界が『夢の中の世界』であることを前提条件としてしまっていること。
私はこの世界のことをつい先程までは夢の中の世界であると決めつけていたのだが、そうだと仮定して今までのことを考えていくと、違和感のある部分というものが出来上がってしまう。
どうして、この世界は私にとって都合の悪い出来事も起こってしまっているのか。
率直なことを言おう。この世界は、私にとっての理想の世界とは程遠い存在である世界だ。
争い事はあまり好みではないのに、争い事に発展しそうな展開の進み方。それを助長するかのように私の腰辺りに存在していた剣。いきなり野原に一人ぽつんと放り出されて、最初に出会った人物が私の苦手なタイプであるチンピラ系の女。
これをリアルの私が理想の世界として認識していたとは考え難い。
まあ、たしかに『悪夢』だなんて言葉もあるくらいには、人間は思った通りの夢を見ることができていないのかもしれない。
だが、基本的に人間は意識がある状態中では、『お姫様になる夢』を見ようと思えば自分自身がお姫様になっている夢を容易に見ることができるし、『パイロットになる夢』を見ようと思えば自分自身がパイロットになっている夢を容易に見ることができる。
さらに言ってしまえば、私は、マイナスな夢をあえて進んで想像してみようなんて加虐的思考を持った人間なわけでもない。
と、考えると、一応この世界は夢の中の世界であることを完全には否定されていないのだが、眠りの浅い状態に見る夢であることは否定されたと言えよう。
また、前に述べたことではあるが、この世界が深い眠りに落ちたときに見る夢の中であるというのであれば、リアルの私は目覚めた後、この世界で起こった出来事は覚えていないことになるはずだ。けれど、出来事を記憶しようとする『夢の中の私』が存在する、今この状況には、不思議な感じを覚えてしまうのである。
強調すると、完全に否定されたわけではないが、この論を肯定したとき、幾らかの疑問点や不可思議な点が浮かび上がってしまうので、この論自体が間違っているのではないか、なんて思ってしまっている私もいる。
一旦、話を戻すが、さて、私はこのままこの世界が夢の中の世界であることを前提として話を進めてしまって良いものなのだろうか。
「あのさ。その集団の根城って、どのような感じの場所?」
「えっと、ですね……周囲が崖になっていて、一本だけその建物に続く道があって、とても標高の高いところなんです」
「なるほど」
他人の言語をイメージ化するのはあまり得意ではないのだけれど、話しぶり的に、とても侵入が容易ではなさそうな場所にあることはわかる。
ヒソヒソと隠れ潜んで侵入する作戦はありなのではないかと考えていたのだが、敵のアジトに侵入するためにはその一本道を通るか崖を登っていくか空から降っていくかの三択しか存在しないのだから、簡単に侵入することはできなさそうだ。
夢の中の世界である、という前提として進めていくのであれば、私に何か超人的な力が宿っていて、崖を超人的な力で乗り越えたり、超人的な力で空を飛んだりして侵入することができると考えたのだが、現実的に考えるのであればその二つの選択肢も遠い遠い彼方へと消えてしまわれる。
要は、監視の力が強い敵のアジトの前にある一本道を、なんとかしてバレずに侵入していく。これから、私たちが行動していくためのメインプランはこうなる。
ふむ。危険度が高そうだわ。侵入するためには、何かしら工夫する必要がありそうね。
「侵入するための手段を考えているのだけれど、正直、さっぱり。正面突破しか思いつかない。だけど、正面突破だとかなり危険よね。本来の目的を忘れていたけれど、べつに私たちは敵の根城に乗り込んで、それをぶっ潰すことではないのよね。貴方のお友だちを取り戻すこと。それが私たちの目的。貴方のお友だちであるティアの所在がわからないから敵の根城に乗り込む、ってだけの話で、敵の根城にはいないかもしれないし、他の場所にティアはいるのかもしれない」
「と、しますと……」
「闇雲に動き回って、ティアが敵の根城におらず、もっと助けやすい場所に連れ去られていることに賭ける、という手段もあるにはあるけれど……」
決して、これはあり得ない話だ。
「でも、そ、それって……」
「ええ。言いたいことはわかるわ。ティアという人物を拐ってしまうほどティアという人物に価値があった。だから、連れ去られてしまったと考えることができる。そんな価値のあるティアという人物をノコノコと助けに来やすい場所に置いておくのかという話。それは、あり得ない話よね」
結局、敵のアジトに乗り込んで情報を得る他は方法がないようなものである。
やはり、その一本道を通ることは避けられないか。
一本道にここまで時間を要してしまっているが、問題はその一本道だけではない。
アジトの中にも危険はたくさん潜んでいるはずだ。
危険、危険、危険。危険だらけ。一筋縄では行かなそうだ。
危険しか存在しないように感じる場所。果たして、私はそこをどのように攻略するのか。どのような手を取るのか。
ここが夢の中の世界であるのであれば、既にヒントを与えてくれていても良いはず。
が、悲しいことに私の頭からは何の閃きも起こっていない。とても悲しいことに、ゲームの世界みたいに、私の動き方の指南書のようなものがあったり、この世界の攻略サイトが存在していたりすることも、ない。完全に、ない。
だから、どうにかして、攻略チャートを私の頭の中に顕現させなければ。
「侵入する方法。何か思いついたら、ドシドシバンバン言ってちょうだい」
「う、うーん……と、特に思いつかない、です……」
「まあ、そうよね。簡単に思いついていたら、今にでも連れ戻しに行っていたでしょう」
「そ、そうですね……」
ダメだ。思いつかない。侵入する方法が。
もう思いつかないのであれば、危険を省みずに、特攻してしまうか? リアルの私よりも、何故か、この世界の私にはゴリラ的……超人的な力が宿っているように感じるし、私一人なら立ち向かっていけそうな気がする。
が、しかし、私一人でそこに侵入するわけではない。アルリアと共になってそこに侵入するのだ。私には超人的な力が宿っている可能性があるが、アルリアにはそんなふざけた力が宿っているように感じられない。
アルリアに何か危険があったら私が守ることになるのは当然のことだが、果たして、私はアルリアのことを守ることができるのだろうか。などと考えたら、正面突破は下策であり、やってしまってはいけないことであるように思う。
仮にここが本当に夢の中の世界だったとしても、私のことを持ち上げてくれるような良いキャラクターが、夢の中の私の目の前で死なれてしまっては、寝覚めが悪いことだろう。そのために、正面突破を実行する考えは捨て置くべきなのだ。
が、それを捨て置いてしまうと、他にアイディアもないので、アイディアが舞い降りてくるまで待つことになってしまう。そこまで時間を掛けるのであれば、もう助けに行くべきなのだ。
あと一歩早ければ助かっていたのに。何処かで、聞いたことのあるような言葉。
一歩早ければ助かっていた命もある。そのような考えを持つのであれば、私たちはここでモタモタしている暇はない。
……やむを得ない、か。
正面突破をすることにしよう。
ただし、侵入するための工夫はする。でなければ、危険度が高すぎて、私たちが無事に生還してティアを助け出している未来が見えないからだ。
よし。やろう。やり遂げよう、この難問を。
私は決意し、自分の拳をぎゅっと強く握り締めていた。