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終.夢オチが一番楽だし最高なんじゃね!?

 視界がぼやけている。視界の先は、白が広がっている。


 ここは……?


 少しずつ目が慣れてくる。

 そして、私はここが何処なのか理解する。

 見知った天井。見知った時計。見知ったベッド。スマホ。テレビ。パソコン。雑誌。

 すべて、私の知っているもの。すべて、現実。

 ここは――現実世界だ。私は今、現実世界にいる。

 私はベッドから起き上がり、眠い目を擦って、欠伸をする。その後、ぼうっとした目のまま、またベッドに倒れ込んだ。

 思考する。何回も思考する。私は何故、現実世界に帰ってくることができた。私とアルリアたちとの、あの出会いや危険な旅は、すべて幻だったのだろうか。と、何度も何度も思考する。結論は出ない。

 私は、気がついたらあの世界にいた。あの世界に存在していた。

 最後にぶっ倒れて意識がなくなるまでのことは全部覚えている。断片的ではなく、細かい部分まで正確に。

 あの痛みも、あの苦しみも、すべて覚えている。何もかも、全部、覚えている。

 あの世界はなんだったのか。ただの夢だと思いたくても、あれは夢ではなかったのだと思ってしまう自分がいる。この感覚は、不思議だ。

 私は、再び目を閉じて、確認してみる。あの世界が夢の中の世界だというのであれば、眠ることでまたあの世界に行けるのではないか、なんて安直に考えてしまって。

 だけれども、私の脳内で繰り広げられようとする夢の世界では、あんなにも自由自在にキャラクターたちが動き回ることはせず、もちろん、あの世界に行くこともできなかった。

 あの世界は、何? 幻?

 私はわからなくなってきてしまう。何もかもを。

 私は何故あの世界に舞い降りた? 私という存在は何? 私とは誰?

 私は私がわからなくなってしまう。

 だから、自分の存在を確認してみる。夢や幻に、惑わされないようにするために。

 私の名前。六鳳堂カナ。年齢、二十五歳。誕生日七月七日。特技、多すぎて数えられない。趣味、いろいろ。才能、多才で完璧。好きなもの。五歳のとき、祖母に買ってもらったハムスターのぬいぐるみ。目標。誰もが羨むほどの完璧で素敵でスーパー凄いビューティフルウーマンとなること。


 ……よし! すべて、思い出すことができた。私は、私という存在の記憶を取り返すことができた。

 今さらになって自己紹介かよ、ってツッコミが謎の誰かからされそうな気もするけれど、たまにはそういうものがあっても良いじゃない。たまにじゃなくても、そういうものがあっても良いじゃない。

 私は自分を肯定するようなことを思うと、再度、ガバリとベッドから起き上がった。

 夢じゃない。現だ。ここは、現だ。二段ジャンプもできないし、腰に提げていた剣もない。服に血が滲んでいたり、身体中がボロボロになっていたりもしない。突然、魔法で攻撃されたりもしないし、何処からか槍がすっ飛んできたりもしない。

 正常。ここは、正常な世界だ。これが、正常な世界なのよ。

 自分自身に、この世界が普通で、普通なことは悪くないものなのだと言い聞かせていく。

 まあ、悪くはない。私が今まで生まれ育ってきた世界がこの世界なわけで。

 だから、生きにくくて窮屈だと感じる場面が時折あったとしても、私の慣れ親しんだ世界がこの世界なのだから、悪いとは思ってはいない。

 でも、あの夢の中の世界だと思っていた世界から、いざ現実世界に戻ってきてしまうと、寂寥感というか、寂しい気持ちにはなってしまう。

 何故、このような気持ちになってしまうのか。何故、こんなにも心にぽっかりと穴が空いたような気持ちになってしまうのか。

 それは――愛着が湧いてきてしまったから? 私は、あの世界に愛着を抱いてしまった、というのか……? あんなにも、過酷だった世界に?

 私の頭の中が疑問符だらけになってしまう。酷く、混乱しているようだ。

 頭が混乱したときは、気分転換に音楽を聴いたりお風呂に入ったりして頭の中をリフレッシュさせるのが良い。だから、音楽を聴こう。ついでに、お茶でも飲むか。

 私は冷蔵庫からお茶を取り出してそれをコップに注ぎ、ゆっくりと飲み干す。それから、スマホを操作して、イヤホンを耳に装着し、音楽を再生させる。

 洋楽でないとダメとか邦楽でないとダメとか、そういった好き嫌いはないけれど、今の気分的には環境音をセットすると心が落ち着く気がする。

 私は、曲再生アプリを閉じて、動画投稿サイトを開き、自然環境音を録音した動画を開く。

 私は大自然の音を、しばらく、その電子端末越しで堪能することにした。

 思い出す。思い出してしまう。この音を聴いていると、あの世界で目覚めたときのことを思い出してしまう。

 最初は草原や森が広がっているところにいた気がする。何故かは忘れてしまったけれど、私はムカムカとした気持ちになっていたはずだ。

 そんな気分の状態でまずリティナと遭遇する。危ないファッションセンスをしていたが、今は、あの危ないファッションセンスが恋しいような気もする。

 次に、アルリアと出会って、私は頼まれた。強くしてほしいと。友だちのティアを助けたいと。私はその頼みを引き受けた。

 そこから、一度、アルリアの家に寄った。作戦会議をしたが、結局、答えが見つからず、何も決まらないまま『正義の教団』とかいう意味不明な組織の本拠地に移動したのよね。

 で、そこにどうやって侵入していくかと考えていたら、甲冑女……スレアという門番に遭遇してしまい戦闘が始まってしまう。なんとか勝ったけれど、結構、危なかったわね。

 その後、目的が同じだったリティナたちと合流して塔の内部に攻め入っていくわけだけど、そこでローブ女……ニルアナと遭遇したのよね。私にとって、あのとき初めて魔法というものを自分の目で実際に見ることができた。ニルアナは相当残念なヤツで、終始驕り高ぶっていたけれど、ニルアナが慢心をせずに且つ魔法をきちんと扱えていたのなら、私はヤツに負けていたかもしれない。それくらいポテンシャルがあったヤツだわ。

 ニルアナを倒したあと、私たちはシャルロスターと一度目の遭遇をした。アイツはとても面倒くさいヤツだったわ。最後までね。面倒くさいヤツだったから割愛してしまおう。

 それで、シャルロスターを適当に受け流したあとに、露出女……ミスレイとの戦闘が始まったのよね。一歩間違えていたら、私はミスレイに負けていたかもしれないわね。だけど、ミスレイは塔の内部を燃やしてしまったことで、戦況がそこから著しく変わってしまった。私はよくアレを倒すことができたわね。

 その次に、私は森ガール女……ミルペラと遭遇した。このときはまだミルペラのことをただのあの組織の一員の一人としか思っていなかったけれど……まさか、ラスボスだったなんてね。一応、もしかしたら、なんてことは思っていたけれど。

 森ガール女のミルペラとも遭遇して、ついに最上階へ。と思って、敵の本拠地……塔の最上階に辿り着いたのに、最初は誰の気配もなかった。だけど、あとから桃髪ツノ女……ネビィが現れて、一瞬だけ私たちを力で圧倒した。愛くるしい見た目はしていたけれど、結局、ラスボスのミルペラにあっさりと消されて退場となってしまったから、印象が薄いわ。とても、とても。

 ネビィが退場すると、私たちと共に行動していたミルペラが実はラスボスだということが判明してしまい、クライマックス、ミルペラ戦がスタートするのよね。

 でも、現実世界に帰りたい意欲が溢れ出てきてしまった私は、怒りからか、謎の力に満ち溢れてきてしまって、ミルペラを瞬殺してしまったわけ。たまには、ラスボスを瞬殺してしまうストーリーがあっても良いと思うわ。私はその行動理念に従って瞬殺しようとしてみただけで、決して、私が怪力ゴリラだからとか私がムキムキマッチョマンだからとかが理由で瞬殺できてしまったわけではないわよ? 私は、か弱い乙女なのですもの。

 話を戻すけれども、ラスボスを瞬殺してしまって、本来の目的である『連れ去られたティアを奪い返す』という目的を達成するための情報を得られることができなくて、途方に暮れるところだったのだけれど、そこを偶然にも一人だけ生かしておいてあげていたシャルロスターが背後に現れて、情報を得ることができたのよね。

 途中でリティナがシャルロスターのことをぶん殴っていたようなシーンもあったけれど、なんやかんやあって、最後に、アルリアたちは無事、ティアと再会することができた。

 ああ、そうだ。あの世界での、私視点で見た大まかな流れはこれになるわね。

 私は、私が辿ってきた物事を振り返って、懐かしい気持ちになる。

 どうして、こんなに懐かしい気持ちになるのだろう。昔の出来事ではないはずなのに。

 私は虚ろな目で窓の外を見て、考え始めてしまう。

 あの世界って、いったい……アルリアたちって、いったい……何なのだろう?

 現実ではないことはわかる。夢ではないことも自覚している。

 現実でもなくて、夢でもないもの。それっていったい……?

 ハテナ。ハテナ。ハテナだらけ。

 夢なのか、現なのか。幻なのか、本物なのか。裏なのか、表なのか。

 どの表現もしっくり来ない。どちらでもない、があり得ない択で、どちらでもない、が存在し得るような問いを出されてしまったような気分。

 結局、音楽を聴いたところで、頭の中はリフレッシュされることなく、疑問は疑問のまま終わり、あの世界が何なのか、という答えはやはり出ずに終わってしまう。


 ……考えるのはやめよう。考える次元の話ではなかったのかもしれない。


 私はスパッと考えることをやめようとした。

 けれど、また、考えてしまう。どうしても、頭の中に浮かんでしまう。あの世界のことが。アルリアたちのことが。頭の中から離れようとしてくれない。

 私はブンブンと頭を振る。

 でも、消し飛ばしたい記憶ではない。複雑だから、一度置いておきたいだけなのだ。

 しかし、複雑だから一度置いておく、というわけにはいかず。記憶は、この小さい頭の中の空間を何度も駆け巡り、私にあの世界のことを意識させようとしてくる。




「これは、なかなかハードな現象に遭遇してしまったようね……」




 私はボソリとそんな独り言を呟きつつ、いつものように準備をして、会社に行くことにした。


〈了〉

 あらすじ


 幻の世界に舞い降りた主人公がその場のノリととんでもパワーで悪の組織を薙ぎ倒していく、はちゃめちゃバトルファンタジー。


 あるとき、二十五歳という良い歳をして自身のことを『完璧で素敵で優しくて美人でプリティでスーパー凄いウーマン』と自称している残念なお姉さん、六鳳堂カナ(むつほうどうかな)は、何故か、自身の知らない世界で目を覚ますことになってしまう。

 ムカムカとした気持ちになってしまったカナは、これまた何故か自身の腰に提げられている剣を見て、この世界を破壊し尽くす案を浮かべるのだが、なんとか実行寸前で思いとどまることに成功する。

 そんなカナの前に危ないファッションセンスをしたヤンキー口調の女、リティナとその取り巻きたちが現れる。リティナはカナに文句を言うのだが、カナの危ない発言を聞いて、話にならないと判断し、何処かに行ってしまった。

 その様子を見ていた少女、アルリアがカナの前に現れ、カナにお願いをする。「ワタシを強くしてください」と。

 事情を飲み込めないカナは、どういうことなのかと、アルリアに訊ねる。

 訊ねられて、『正義の教団』という組織があること、その組織にティアという友だちを連れ去られてしまったことをアルリアは話す。

 その話を聞いて自称『完璧』であるカナは、自分が完璧であることを噛み締めるために、ティアを連れ戻すことに決めるのだった。

 目的を決めたカナは、いざ出発と急ぐのだが、アルリア曰く、ティアが何処に連れ去られてしまったのかは知らないらしい。

 何処へ行ったら良いのかわからなくなってしまったカナは、一度アルリアのお家で作戦会議をし、確実に情報があると踏んで、敵の本拠地に乗り込むことに決める。

 敵の本拠地に辿り着いたカナたちは侵入しようとし始めるのだが、本拠地に乗り込むまでの道は一本しかなく、まわりは崖となっているので、とても入りにくい地形をしていることに気がつく。

 一先ず、先にカナが一本道を渡って安全を確かめようとするのだが、何者かがカナの近くに現れて、侵入していることに気がつかれてしまう。

 バレた、と思ったカナがチラリと背後を見ると、そこには、リティナとその取り巻きたちがいた。リティナたちは『正義の教団』の門番、スレアにボコボコにされ、取り巻きの一人を崖から突き落とされてしまう。

 それを目撃してしまったカナは、見つかったのが自身でなくリティナたちであったのにもかかわらず、自分から姿を現して、スレアの方に近づいていく。

 スレアは甲冑で身体を覆っているため、カナの持っていた剣で突き刺してもびくともしなかったのだが、カナはここが崖ばかりの地形であることを思い出す。カナは迫ってくるスレアを横からタックルすることで崖に突き落とし、見事、門番のスレアを撃退することに成功した。

 門番を倒したことで道が開き、カナたちは前に進む。

 その道中で、リティナから話を聞き、ティアがリティナの妹であることを知る。

 リティナたちが『正義の教団』の本拠地にいた理由はティアを助けるためなのだと知ったカナは、共闘する話を持ちかける。リティナはこの話に応じ、全員で敵の本拠地を上っていくことに決めた。

 階段を上っていると、ローブに身を纏った魔法使いの幹部、ニルアナと遭遇する。

 最初はニルアナに圧倒されてしまうカナたちなのだが、ニルアナが残念な行動しかして来ないことに気がついたカナはこの戦いに勝機を見出だしていく。カナの剣攻撃がじわじわと効いてしまい、ニルアナは瀕死となるが、ニルアナもカナに氷を突き刺して道連れを狙う。

 しかし、カナはアルリアのお家で作戦会議をしたときに木製のプロテクターを装備していたために、致命傷にならずに済み、ニルアナは残念な最期を迎えてしまった。

 ニルアナを対処したカナたちは、次にキザな女、シャルロスターに遭遇する。カナはシャルロスターの話し方・仕草、何もかもを鬱陶しく感じてしまい、シャルロスターを強引に退けるのだった。

 シャルロスターを相手にした後、カナたちは、次に、槍を構えた露出の多い女、ミスレイと遭遇する。

 ミスレイの前では為す術もなく、一方的にボコボコにされてしまい、その上、ミスレイの手によって周囲を火の海に変えられてしまう。カナは絶対絶命のピンチを迎えてしまうのだが、最後まで諦めなかったカナは、剣をあえて投げ捨て、足元を悪くすることで、ミスレイを階段の方へ誘導し、ミスレイの突進を利用して、階段から転がり落とすことに成功するのだった。

 強敵、ミスレイは撃破後も厄介で、内部を燃やされてしまった影響で上層へ進めず、カナたちは退がることを余儀なくされる。そんなカナたちは、自身の水能力で火を消していく森ガールのような見た目をした女、ミルペラと遭遇する。

 ミルペラのおかげで上層へ進めるようになったカナたちは、ミルペラと共に、ついに最上層へ足を踏み入れた。

 カナたちを待ち構えていたのは、桃髪でツノを生やした少女、ネビィだ。カナたちはネビィのことを『正義の教団』のボスだと思い、ネビィも自身がボスであると認める発言をし、カナたちとネビィとの戦闘が始まっていく。

 しかし、突如として、ボスであるように振る舞っていたネビィが瞬殺されてしまう。

 その光景を見て、ミルペラはほくそ笑み、カナたちに、自身が本物の『正義の教団』のボスであることを明かす。

 ラスボス、ミルペラ戦が始まるのだが、現実世界に帰りたい欲で限界になってしまったカナは、どういうわけか、あり得ないレベルのパワーを手にしてしまい、ミルペラのことを瞬殺してしまう。

 だが、本来の目的はラスボスを倒すことではなく、『ティアの居場所を突き止めて連れ戻す』ことが目的だったために、情報を持っていそうなミルペラを殺してしまったことは悪手だったのだと気がつくカナたち。

 そんなカナたちの前に、唯一、撃破せずに生かしていたシャルロスターが現れる。カナたちはシャルロスターに情報を吐かせ、ついにティアの居場所を掴むことに成功した。

 シャルロスターに導かれ、テレポート石によって空間移動をすると、そこは視界一面のお花畑が広がっている。そのお花畑からティアが姿を現し、アルリアとリティナの二人は無事にティアと再会することができた。

 めでたし、めでたし。

 そう思っていたカナに突如として激痛が襲い掛かる。カナは地面に倒れてしまい、そして、絶命してしまった。

 絶命してしまったはずのカナは、再び意識を取り戻し、目を覚ます。

 すると、カナはそこが現実世界であることに気がついた。

 あの世界はなんだったのだろうか。

 不思議に思いつつも、カナはいつものように会社へ向かうのだった。

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