2.ネーミングセンスってどうやったら身に付くの?
「どういうことか、説明してもらおうかしら」
本当にどういうことなのか説明してほしい。私を置いてきぼりにするのは、金輪際やめていただきたい。
「え、えっと、ですね……その……ワタシには友だちがいたのです。とても親しい、親友が……」
「ふむ。それで?」
「あるときですね、その子……ティアは連れ去られてしまったのです。『正義の教団』の、手によって……」
「正義の教団?」
なんだ、そのダサいネーミングセンスは。正義と書いてジャスティスとか、なんかもっと中二病的な名称にしているとかよりはまだマシか。
いやぁ、それにしてもきついが。
正義? 自分で『正義』とか付けてしまっているヤツの大半は信用ならんものだ。所謂、胡散臭い、ってやつ。それだ。
そもそも、正義なんてものは各々に存在していて、自分の正義で他人の正義をはかることなど、まったくおこがましいことだ。要は、団体名にそんなフレーズを入れているような輩であるのだから、その『正義の教団』とかいう輩は、なかなかおこがましくて自分勝手な連中であることにちがいない。名前を聞いただけでゲロと反吐が出そうな感じだ。なんだか、腸が煮えくり返ってくる。
「だから、お願いです。ワタシとともに……ティアを連れ戻しにいっていただけないでしょうか……」
「うん、オッケー」
「……ふぇ?」
「だから、オッケーだと言ったのよ」
「ま、まさか、無理なお願いをして、そ、それを引き受けていただけるなんて……! あ、ありがとうございます!」
「礼には及ばないわ。って、これを言うのも二度目よ」
夢の中の世界のことなのだから、べつに引き受けても引き受けなくても私にデメリットがあるわけではないし、なら、面白い方を選択するまでの話。今、丁度刺激的な展開が欲しかったところだ。だから、私はその刺激的な展開へ進めるように、動いてみる。
それが得策。得策であり、上策。
完璧だ。完璧で、且つ、有意義に物事を進めることができている。なんて、素晴らしく完璧な人間なのだ、私は。
恐ろしい。私が、完璧すぎて、恐ろしすぎる。
「それで、強くしてほしいってどういうこと?」
「ワタシは……友だちが連れ去られたというのに何もしてあげることができず、ただぼうっとそれを眺めることだけしかできないでいました。だ、だから、こんな弱いワタシでも強くなれるように、鍛えてほしいんです」
「ほう。私が、か? 何故、私?」
「カナは、さっきの子たちにも負けずに食らいついていきました。そ、それで、とても強い人なんだなぁ、と思って……それで……」
ふむふむ。整理をするとこういうことだろうか。
アルリアがいじめられていたところを私が颯爽と現れる。そして、チンピラ女たちをこの素敵な私が追い払ってあげ、アルリアは私の強さに惚れ込んで頼んできた。と、いったところだろうか。
なるほどね。この、アルリアという女の子、なかなか見る目があるじゃない。この、素敵なオーラを存分に纏ってしまっている私を、しっかりと評価することができているだなんて。アルリアには、才能が隠れているかもしれないわね。
私はとても冷静な面持ちでアルリアのことを分析し、アルリアの良さを探すことに成功していた。
ふっ。我ながら、私の凄さに驚いてしまうわ。ふふふ。ふふふふふふふ。
「それじゃあ、もう今すぐにでも助けに行こうか。早い方が良いし。道案内、お願いできる?」
「そ、それがですね、正義の教団の本部はそう簡単に行けるような場所になくて、そ、それに、何処に連れ去られたのかもわからないので……」
「なぁるほど。八方塞がりということね」
「ご、ごめんなさい……」
本部の場所はわかるけど、何処に連れ去られたかはわからない。それがわかっただけでも大きい気がする。
何故か、って? そりゃ、何処に連れ去られたかはわからなくても、連れ去った輩の名前と、連れ去った輩たちのアジトさえわかってしまえば、もうあとは簡単。本部ごとぶっ壊してしまえば良いだけのお話だ。そして、本部を壊滅させ、その輩たちを再起不能にさせた後に、ティアとかいう子を助ければ良いだけの話。
まあ、問題は、その敵のアジトをどのようにしてぶっ壊せば良いのか、という話ではあるのだが。
正面突破、はあり得ないか。私一人であるのならば、それもありだし、そもそもここは夢の中の出来事なのだから、私ツエー無双をするのがむしろマナーであるといえる。
だがしかし、今はアルリアがいる。夢の中の世界とは言えども、アルリアに危険がある行動を取るのは、なんか、こう、道徳的にというか倫理観的にというか、私の正義感的に許せない。許せなさすぎて、マジ無理。マジのマジで無理。
「参ったなぁ。何か良い方法はないものか」
思わず、独り言となって、私の考えていることがアウトプットされてしまう。
おっと、うっかり、独り言をしてしまった。普段からブツブツと呟いてしまうクセみたいなものはあるけれど、このクセは完璧でスーパー美しい私には似つかわしくない。べつに、意識してしないようにすることでもないのだけれど、見た目的に格好良くないように感じるから、できれば、独り言をしないようにしたい。ええ。何故なら、私は完璧超人なものですから。
「一先ずさ、歩かない?」
「へっ……?」
「じっとしていられない性格なんだよね。歩きながら考えていれば、何か良いアイディアが思いつきそうな気がする」
「それなら、ワ、ワタシの家にき、来ますか?」
「お邪魔します!」
私は元気良く返事をした。
もしかしたら、私のような人間のことを「厚かましい」と表現する人たちもいるかもしれないが、それは、すっとこどっこいの愚か者である。考えてみてほしい。私は完璧超人のスーパー美しくて、ハイパー可愛い、ウルトラ素敵な人間なのである。ということは、私が厚かましい存在であるということはあり得ないということだ。
それに、今は夢の中の世界。そのため、べつに、私の思う通りに動いたところで、悪くはないはずだ。だって、これは私の夢の中の出来事なのであるのだから。
たとえ、突飛な行動をしようが、すべて夢の中の出来事。責められることなど、ないはずだ。たぶん。
などと、いろいろなことを思いながら、私はアルリアの顔を凝視していた。
「え、えっと、どうか、されましたか……?」
「なんでもない」
なんでもなくはなかった。なんというか、私の心の中に靄のようなものがかかってきてしまっている。
この靄は、何? 何か、私はまだ知らないことがある?
モヤモヤ感が私の心に纏わりついてしまい、私はその靄の正体を確かめるために、考え始めてしまう。
私は何故、モヤモヤとした。私は、何か知らなければならないようなことがあるような気がする。
それは何だ。私は何を知らなければならない。
私は心の中で自問自答を繰り返す。繰り返して、繰り返して、結局、答えが見つからないので、私はすぐに諦めることにした。考えてもわからないことは、考えたところで意味がない。ふと思い出す瞬間、ふと私の頭の中に答えが降りてくる瞬間、それが来るまで待つことにした方がよっぽど時間の使い方が有意義なものになる。
そのように考えた私は、顔を勢い良くブンブンと振って、頭の中に存在していたたくさんの雑念を頭の中から追い出した。
「よし、行こうか!」
「は、はい……?」
アルリアは不思議そうな顔をしている。
何を不思議そうな顔をしているのかね。まるで、変なことをしているな、というような視線で見ているけれど、まさか、本当にそうは思っていないでしょうね。
ふん。何とでも思うが良い。私の心は宇宙のように広くて無限な可能性を秘めているのだ。だから、本当にそのように思っていたとしても、許してさしあげましょう。ええ。
私のこのような行動を見て、「ポンコツ残念美人」と呼ぶ者もいたが、どう考えてもこの私が「ポンコツ」であるはずがない。だからね、私は私のことをポンコツだとか豚骨だとかそんな風に呼んできた不届き者を思わず(脳内で)ビンタしてやったこともあったのよ。ええ、私は誰もが予期せぬことをやってのけるスーパープリティービューティーウーマンであるの。
よって、私がポンコツであるわけがない。終わり。ハッ。
「そういえば、一つ良いかしら?」
「はい、なんでしょう?」
「私、この世界のこと、よく知らないのよね。この世界って、どんな設定なの?」
「……えっ?」
私がアルリアに訊ねると、アルリアは困惑した顔で私のことを見ていた。
うん? あれ? こういうのって、だいたいエヌピーシーとかいうのが情報を提供してくれるようなものだと思っていたけれど……ああ、そうか。「この世界ってどういう世界なの?」って訊ねて「この世界はチョメチョメな世界です」と返答してくれるキャラクターがいたとしたら、それはそれで不自然か。たとえ、夢の中だったとしても。
そこは、少しリアルに寄り添っているというわけね、この世界は。
私は納得をし、この世界のことを知るには、他人から情報をもらって知るのではなく、まずは自分の目と耳、全身でこの世界がどのような世界であるのかを感じてみようと思った。
「なんでもないわ。今言ったことは完璧に忘れてちょうだい?」
「は、はいっ……!」
凄く、従順。とても、素直。アルリアの印象は、と聞かれると、その表現が適切なのかもしれない。
子分ができたような気分。嗚呼、私はこれからアルリアの親分的な存在になるというのだから、私は誤った行動を取らないようにしなければならない。
それは、親分としての責務。
子分は親分の言うことを素直に従い、それを実行してしまう。つまり、親分が間違った行動を取ってしまえば、子分もそれを真似て同じく間違った行動を取ってしまうということ。
私がしっかりしなくては。
……っていうか、親分とか子分とかって言い方、しっくりこないというか、格好悪いというか。どうも、歯に食べ物でも挟まったときみたいな感じで、気になってしまう。
何か、良い言い方はないだろうか。
うーん、ボスと手下、は片方が浮いているような感じがするし、親玉と下っ端、もピンと来ない。
待て待て、私。上下関係に囚われるのは良くない。対等な関係。私とアルリア。ただ、そんな関係で、良いじゃない。わざわざ、親分と子分みたいな上と下をはっきりさせたところで、だから何って話だし。
「あ、あのぅ……カ、カナ」
「ん? 何?」
「そ、そろそろ、行きませんか?」
「あら、ごめんなさいね」
自分の思考に集中しすぎていて、私はただその場でウロウロしているばかりであった。
あら、いけない。何をやっているのだろうか、私は。行こう行こうとあれほど自分で言っていたというのに。
よし、行こう。アルリアの家に。
私とアルリアは、テクテクと歩いて、アルリアの家がある街の方を目指した。