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18/20

18.残念ながらメルヘンランドは開園しません

 ええと、待て。まずは、状況を整理しよう。

 自分がボスだと名乗る少女、ネビィが現れて、ネビィに攻撃された。ここまでは、わかる。わかった。

 で、その自分がボスだと名乗るネビィが、黒焦げになってしまった。うん。これは、わからない。私には理解ができない。

 そして、そのネビィのことを、ミルペラ自身が「そのレベルでボスを名乗るなよ虫ケラが」的な言葉で罵倒し、「私自身が本物のボスだ」的な発言をしていたような気がする。

 なるほど。いや、なるほどしてないけど。なるほどってないけど、とりあえず、なるほどっておくか。

 よし。全然わからないわ。もう、これはアレね。つまり、アレってやつね。

 思考放棄。それを、私はしようと思う。

 まあ、皆まで言うな。思考放棄をすることは実に簡単で、実に身体に良い行動だ。複雑な物事を考えないようにするのだから、これを実生活で試してみると、ストレスなく過ごすことができる。謂わば、素晴らしい手段。素晴らしい行為なのだ。

 私はそんなことを思うと、早速、実行に移し始める。




「嗚呼、可哀想に。カナさん、アナタの脳みその容量的に、情報量が多すぎて、既にキャパオーバーとなってしまっているのですね」




 ミルペラが私を小馬鹿にするようにそう言う。

 ペッチーン。あっ、間違えた。カッチーン。さすがに、この銀河よりも広い心を持っている私ですら、今の発言にはカチンときてしまったわ。

 もしかして、ミルペラってクソサイコ煽り陰湿野郎(性別:女)なの? だとしたら、許さないんだけど。煽りも暴言も悪口も陰口も、私の嫌がることは一切受け付けないわ。

 だから、ギタギタにして貴方をギターの弦にして、ギターに貼りつけてやるわ。こんちくしょうが。

 ギターなぞ弾いたことが一回足りともないくせして、ミルペラをギターの弦に化けさせてやることに決めると、私は剣を自分の身体の正面に持ってきた。

 そこで、異変に気がつく。

 あれ……おかしいなぁ。刃こぼれしてしまっているのか、血と肉が剣に引っ付いていて、この剣はどう考えても斬り刻むことができるような見た目をしていない。

 砥石とか、替えの武器とか、何かないだろうか。この剣で斬ろうとしたところで、切れ味が劣悪な状態になっているために、皮膚をなんとか傷つける程度のダメージしか食らわすことができないだろう。

 ヤバい。何も考えていなかった。こんなときのために、アルリアの家で、何かあったとき用の武器でも探しておくべきだった。

 私は、仕方がなく剣を鞘にしまって、素手で戦うことに決める。その滑稽さを、ミルペラが嘲笑うような目で見ていた。




「ふふふ。無様、ですね」


「うるさいなぁ……」


「驚かれましたか? みなさん、まったく考えていなかったことでしょう。ええ、ええ。再度、自己紹介でも。わたくしの名前はミルペラ。この『正義の教団』のボスです」


「……いや、実はそんな気がしていたんだよなぁ」


「あっ。私も同じことを思っていたわ」




 私とリティナは、意気投合し、二人で同時に「うんうん」と頷く。

 これが所謂シンクロとかいうやつ。リティナとは反りが合わないと思っていたけれど、どうやら、気が合うところはあるらしい。実は私とリティナって相性が良いのかな。




「……思っていた反応とちがうようですが、まあ、良いです」


「いや、良いのかよ」


「というか、このクソダサネームの教団のボスがミルペラだというなら、つまり、ミルペラって、ネーミングセンスがダサいのかしら?」


「それは言ってやるな……」


「……本当に騒々しい人たちですね。騒がしい人たちには、少し、お仕置きが必要なようです」




 すると、ミルペラは他の者たちとは異なり、無詠唱で手から水を発生させ、それをビーム状に変形させてこちらに放ってくる。

 ニルアナとかいう魔法使いの女も無詠唱で魔法を唱えていたような気がするが、あの人はとても残念な人なので、あえて詠唱してしまっていたのだろう。そのように考えると、ニルアナはポテンシャル自体はなかなかあったのかもしれない。

 というか、私の頭の中で、詠唱するよりも、無詠唱で魔法を唱えられた方が序列的に上なのだと勝手に決めつけていたのだが、実際のところはどうなのだろう。詠唱するのは、なんかダサい感じがするし、共感性羞恥とかいうものを覚えてしまうので、できれば全員、無詠唱で魔法を放ってきてほしかった。

 私は悔しそうに思いながら、ひょいひょいとミルペラの手によって放たれた水のビームを躱していた。




「なかなか、やりますね。この場面で、ふざけているだけのことはありますよ」


「お褒めいただきまして、どうもありがとうございます。貴方、ネーミングセンスはまったくといって良いほどないけれど、なかなか良い属性のセンスをしているわね。だいたいラスボスといえば、魔王とかドラゴンとかでしょ。私の中の勝手なイメージだと、炎属性か闇属性が定番って感じがするもの。そこをあえて水属性で来るとは、たまげたものね」


「カナさん。アナタ、わたくしのことを馬鹿にしていますね?」


「だ、だって、その歳で『正義の教団』なんてクソダサい名前の教団をつくって、自分のことをボスだぞって威張っているものだから……あまりにもおかしくて、笑ってしまうわ。……しまった。本音が出てしまった。……今のはすべて忘れなさい」


「隙はいくらでもありました。ああ、とても後悔しています。あのとき、アナタを殺していれば良かった」




 ミルペラは殺気を帯びた目で、私のことを睨みつける。おお、怖い、怖い。




「おい、ちょっと待てよ、お前。何も知らないとか抜かしてやがったけど、実は全部知っていやがったんだな!? 何処へやった!? ティアを……妹を、何処へやった!?」


「さぁ……? 何処でしょうね?」


「あのときも、お前は、ずっと惚けていやがったんだな!?」




 リティナが激昂して、ミルペラの方に迫っていく。

 あっ、待て待て、おいおい。それは、危ない行動というやつなのだよ。そのまま進んでしまったら死亡フラグが発生してしまうかもしれないよ。

 軽く思ってはみたが、リティナは結構危ない状況に立たされていることには間違いないので、私はずんずんと進んで、今にもミルペラを殴りかからんとしているリティナのことを止めてあげる。

 ふっ。私に感謝しなさいよ。危うく、貴方は死ぬところだったのよ。

 いや、それはわからないけれど。

 兎に角、私がリティナを止めたことでリティナは無事でいられたのよ。存分に私のことを崇めなさい。

 私は一発ドヤ顔を入れてから、この森ガール女ことミルペラをどのような挽き肉にしてあげたら良いものかと考える。

 挽き肉……挽き肉……うーん、想像しただけで、グロい。やめよう。

 私は考えることをすぐにやめていた。




「おい、放せ、アホ」


「うーん……挽き肉はちょっとグロいなぁ……」


「放せって言っているんだよ、アホ!」


「まあまあ、落ち着け落ち着け。怒りたい気持ちはわかるけど、そのまま突っ込んでいっても、敵う相手ではなさそうよ。こういうときはね、頭を使うものなの」


「お前の、その、どうしようもない頭でか……?」


「あん? 何か言ったかしら? 私が機転を利かせたことによって、なんとかここまで辿り着くことができているのよ。本来なら、貴方は私のことを尊敬するべきだわ」




 失礼なことを言ってくるリティナに、私はいろいろと言ってやった。

 もう、すべてわかったわ。すべて、わかってしまった。

 ここは夢の中の世界ではない。

 攻撃を食らうと普通に痛いし、理不尽なことはたくさん起きるし、私は慈善で誰だか知らないティアって子のことを助けようとしているというのに崇めてくれる者なんてアルリアくらいなものだし。

 なんて、不愉快な世界なのだろう。夢がこんな不愉快なものであって良いわけがない。

 ということは、ここは夢の中の世界ではあり得ない。

 以上のことから導き出された結論。

 この世界は、所謂、異世界とかいうやつなのだろう。

 漸く理解した。ここは、異世界なのかもしれない。だから、こんな不思議な現象ばかり起こるし、理不尽なこともたくさんやってきているのだ。

 ああ、わかった、わかった。となると、私はこの世界で死んだら、ゲームオーバーというわけだ。デスエンド。知らない世界で死んで、土と化すのかもしれない。


 ……えっ? 何それ。今すぐ帰りたいんだけど。ベッドの上でゴロゴロして過ごしていたいんだけど。えっ、こんな過酷な世界にいたくない。とっとと、私の元いた世界に帰してちょうだい。お願い。


 なんて、祈りはするけれど、現実世界に戻れることなんてなく。


 仕方がないので、さっさとミルペラを倒してしまおう。




「おんどりゃあぁ、こんにゃろうがあぁ! て、てめぇ……ただじゃおかねーぞ、この頭に森生やしてメルヘンランド開園してやがるクソビチ女がぁ! さっさと現実世界に帰しやがれこなくそが!」


「えっ、ちょっ、カナさん、アナタ何をしようとして――」




 現実世界に帰りたい欲がありすぎてしまって気がついていなかったのだが、ミルペラが驚いた表情で見ていたのでそちらの方を見てみると、何故か壁が吹き飛んでしまっていて、それだけでなく天井も吹き飛んでいて、屋内にいたはずなのに、屋外にいるみたいな景色が広がってしまっている。

 なんだこれ。……まあ、どうでも良いか。とりあえず、もうさ、このボス、倒しちゃうよ。

 私は剣を抜いて、全身に力を込めて、ハンマー投げや円盤投げなどの要領でミルペラの方に思い切り投げ飛ばした。

 剣はどんどんと勢いを増してぶっ飛んでいく。

 ぶおん、ぶおおおん、ぶおおおおおおおおおおん、と馬力の良いエンジンを積んでいるかの如く、剣が凄い音を立てながら、ミルペラに迫った。




「ちょっ、ちょっと待ってください、ちょっ――」




 ミルペラは一度躱すものの、何故か、剣がホーミングをし、そして――ミルペラの身体の中心に、ぐさり、と突き刺さって、ミルペラごと吹き飛んでいってしまった。

 こういうやけくそなときの方が、案外、人生って上手くいくものなのかもしれない。




「よし。一件落着!」


「じゃねぇよ! 親玉を消し飛ばしてどうすんだよ! これじゃ、ティアの居場所がわからなくなったじゃねぇか!」




 すっきり爽快、って気分だったのに、リティナに怒られてしまう。

 えぇ……じゃあ、どうしたら良かったんだよ。まったく、注文が多い人だな、リティナは。

 と、私はぶうぶうと不服そうに思っていたとき、私たちの後ろから誰かがやってきた。




「やぁ、ご機嫌みたいだね」


「あ、貴方は――!?」




 ……誰だ?

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