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14/20

14.階段には気を付けよう

 衝突。私の身体はミスレイのど真ん中に命中した。

 しかし、ミスレイはよろけることもせず、平気な顔をしている。

 勝機が見えない。私はどのようにすればこの露出女を撃破することができる。

 私は苦悩した。苦悩するだけ苦悩して、結局、答えは見つからない。

 考えるな。今はここを突破しなければ。

 私は、私の眼前にいるミスレイに再度タックルを食らわせた。それでも、ミスレイはびくともしない。

 何が足りない。何がなければ、この露出女を倒すことができない。なんだ。何が、私には必要だと言うのだ。

 思考の無限ループ。思考することをやめようとしても、変わらず、また思考することを始めてしまう。考えている間は、そこに自分の脳の容量を割いてしまうので、隙ができる。

 だから、その隙を利用されてしまう。




「火の海に飛び込むか、我が輩に殺られるか、どちらか、選ぶと良い」




 ミスレイは槍を振り回して、その槍を私の身体にぶつける。私の身体は大きくぶっ飛び、火の海の方へ戻されてしまう。

 熱い。熱い。燃え死んでしまう。焼け焦げてしまう。

 私は、地獄のような光景を目の当たりにしながら、すぐに立ち上がり、何回でも突破するために、ミスレイに突進を仕掛けていこうとする。

 これで決めなければ、火の海に呑まれてしまって、炭と化してしまうだろう。絶対に、決めなければならない。

 私は覚悟を決める。ヤツを絶対に倒してみせるという覚悟と、死ぬ覚悟という、両立し得ない、二つの覚悟を、私は胸に抱く。

 剣に力を込めろ。全身に力を込めろ。私は、ここを突破しなければならないんだ。

 私は剣を前に出し、ミスレイの方へ思い切り突っ込み、剣で突き刺した。

 ダメだ。やはり、びくともしない。ここで、私は終わってしまうのか。




「ふん。最期の悪あがき、ご苦労なことだ。死の世界で静かにしているが良い。……ん?」




 ミスレイは、ここで漸く自身の最大の失敗に気がつく。

 それは――屋内を燃やしてしまったこと。それによって、私の衣服に火がついてしまっていた。その衣服で燃え上がる炎が、ミスレイの衣装にも移っていき、ミスレイにまで炎の熱さが伝わっていく。

 私は、その好機を逃さなかった。巻いていた木製のプロテクターを外し、それを炎の中に放り込む。炎はプロテクターに飛び移り、ぼうぼうと燃えてしまう。

 そのプロテクターが鉄製だったら無理があっただろう。しかし、このプロテクターは木製だ。よく燃え上がるだけでなく、鉄と比較すれば幾分か軽い。

 その性質を活かし、私は剣で木製のプロテクターを上手いこと掬い上げ、剣の上に乗せる。

 自分の衣服ではすぐに炭と化して消えてしまうだろうけれど、木であれば、すぐに焼け焦げてしまうことはない。

 従って、この燃えているプロテクターを上手いこと利用して、反撃することができるかもしれない。

 私は剣の上で燃えているプロテクターを慎重に運び、ミスレイの方に近寄った。




「貴君は、何をする気なのだ……?」


「まずは、貴方の奥に移動して、地形不利をどうにかしなければいけないわけなのよね」




 私はニヤリと笑い、剣の上に乗せていたプロテクターを剣の力と自分の腕の力を最大限に利用して、ミスレイの方に投げ捨てた。それを弾くために、一瞬の隙が生まれる。


 ……今だ!


 私は全速力で駆け抜けた。

 ミスレイはあの燃え上がっているプロテクターをどうにかして対処しなければならない。それを対処するための時間が、私の逃走時間となる。

 進め。前へ、前へ。

 私は足を止めずに、ミスレイの横を駆けていく。その時間僅か、三秒。ミスレイはその間にプロテクターを弾いて、私のことを捕らえようとしてきたが、僅かに届かない。

 私は、自分の背後が火の海という最悪の状況から抜け出すことができた。逃げ場が生まれたので、私の心の中にも、多少の余裕が生まれる。




「貴君はそれで勝ったつもりなのか」


「ええ。勝機が見えたわ。貴方が負ける姿も容易に想像ができる」


「ふむ。舐められたものだな。心までボロボロにへし折ってやらないと、どうやらわからないらしいな。我が輩と貴君の力量の差というやつが」




 まんまと私の挑発に引っ掛かってしまったミスレイが、私の方へ向かってくる。

 ふう。やれやれ。私と貴方の力量の差ってやつ。それを私が見せてあげましょうかね。

 私は深呼吸をすると、剣と近くにあった花瓶を床に放り投げる。二つはガシャンという音を立てて、床に転がり落ちた。

 その影響で私の前方は、とても足場が悪くなってしまう。

 だが、私には関係ない。むしろ、足場が悪くなってしまうことで、相手の意表を突くことができる。

 ミスレイはそんな足場の悪いところを愚かにも裸足のままで入ってきてしまう。その結果、動きが鈍り、私のところまですぐには辿り着くことができない。

 私は剣という武器を捨ててはいたが、剣での攻撃はミスレイには通用しないことを散々理解しているので、この作戦において、この行動はデメリットのある行動ではない。メリットしかない行動だ。




「くっ、こしゃくな真似をしやがって」


「とても、イライラした気持ちになるでしょう? それで良い。貴方は完全に私の策略に嵌まってしまったのだから」


「貴君の汚い策にこの我が輩が嵌まってしまった、だと? フッ。戯れ言を抜かしやがって。貴君に勝ち目などない。無駄な足掻きだ」


「それはどうかしら?」




 私はミスレイの背後を指差してやった。その指の方向には、炎がある。炎はもう、私たちのすぐそばまでやってきてしまっていた。




「炎か。それがどうした? こんなもの、どうとでもなる。それに、貴君はこのままずっと我が輩に時間を掛けてしまって良いのか。あれを見ろ。貴君の仲間たちは我が輩の部下たちが既に捕らえている。さあ、いい加減、大人しく投降したまえ」


「それは、無理なお願いね。生憎、私って諦めが悪い人間なのよ。それに、貴方の部下なんてそれこそどうとでもなるし、あんなもの、私の手にかかれば、すぐに解放してあげることが可能よ」




 私は落ち着きを完全に取り戻し、拳を前に突き出す。こちらへ来たら、この拳で抵抗するぞ、と相手に思わせるように。

 思わせるように――そう、これは思わせるだけ。要は、これはブラフで、私はべつに、自分の拳でミスレイと戦おうだなんて、一ピコメートル足りとも思っていない。

 では、私のメインの攻撃手段は何か。そのヒントは、既に私がばらまいている。

 ミスレイの背後に存在する、炎。剣。燃えたプロテクター。近くにあった花瓶。

 さて、私がどれを使ってどのようにこのミスレイを倒すのか。その答え合わせといこうではないか。

 私は笑みを溢し、ゆっくりと先ほど剣を投げた地点の近くまで寄った。

 そして、ミスレイがこちらに到達するのを待つ。

 その時間、僅か、二秒だった。ミスレイは槍を構えて、それで私を捉えた。

 さあ。ここからは、少し運ゲーが入る。私は今から、ミスレイの槍攻撃を避けなければならない。どうにか回避することができれば、あとはきっと上手く行くはずだ。

 私はミスレイの動きを見る。左から振り下ろそうとしている。ならば、この攻撃を大きく右に避ければ良い。

 私はミスレイの槍攻撃を綺麗に躱し、ミスレイの方を見た。

 ミスレイが突っ込んでいってしまった先は――。




「……む? まさか、これは――」




 階段。それが待ち受けていた。足場が悪いため、飛ぶことで影響を受けないようにしていたミスレイなのだが、その行動自体も、ある意味失敗だった。勢いをつけてしまったことにより、物凄いパワーとスピードで下へ転がり落ちていってしまう。

 本来の目的はそこに転がっている剣に躓かせて、階段から転げ落ちてもらう作戦だった。多少、私の考えていた計画とはちがったものになってしまったが、上手くいったのだから、問題はない。

 私は安堵の息を吐き、未だに止まらずに顔面や身体を床に叩きつけながら落ちていってしまっているミスレイの様子を少しだけ見た後、私は振り返って、皆のいる方へ駆け寄った。




「全員、無事!?」




 私は皆の様子を確認する。

 幸いにも、謎の床が動くギミックのおかげで全員が散り散りとなっていたため、炎はまだ皆のところにまで移ってきてはいない。

 おまけに、ミスレイの部下たちも、危害を加える様子は見せてきていない。ただ皆を捕らえているだけだ。

 私は走って移動し、床に落としたままの剣を拾い上げてから、もう一度皆の方に戻る。

 武器になりそうなものはやはりこれしかなかった。だから、これで皆を解放してあげるしかない。

 私はすぐさま握った剣でミスレイの部下たちを攻撃し、皆を解放していく。

 一人、二人。三人、四人。五人、六人。あとはリティナのみ。間に合うだろうか。

 炎が伝わるのは、意外にも早い。この塔は、外壁はレンガ造りであるために燃えることはないのだが、屋内には羊毛や毛皮、木といった材質が所狭しと存在するので、燃え移りやすくなってしまっている。

 だから、炎で取り囲まれてしまうのも、時間の問題だ。




「リティナ。手を伸ばして!」


「お、おう!」




 私はリティナのことを捕らえていた敵をすぐに剣で斬って足で蹴飛ばし、リティナの方に手を伸ばす。

 一人、二人、三人、四人、五人、六人、七人。これで、全員か。

 私は全員無事に助けることができたのを確認し、そこから、逃げ道を探し始める。

 塔内に燃え広がってしまった場合、上に逃げてしまったら逃げ道がない。ここはやむを得ないが、引き下がり、入口まで戻るべきだろうか。

 即座の判断で、私たちはすぐに階段を使い、下のフロアへ、下のフロアへ、と下がっていく。

 炎との鬼ごっこ。ただし、これは鬼ごっことは言っても、捕まれば命がない、最悪で最低の鬼ごっこだ。捕まらなくても、煙を吸って、一酸化炭素中毒になって死んでしまう可能性もある、大変に危険なもの。私たちは、それを強制的にやらされてしまっている。




「……おや? 何故、中がこんなに燃えているのでしょう?」




 階段を下りていると、謎の茶髪の森ガールみたいな女とすれ違い、森ガール女はぽわぽわとした口調でそんなことを呟いていた。




「危ないので、すぐに消火してしまいましょう。はぁぁぁ!」




 森ガール女は炎がやってきている方向に手を突き出して、何故か、気合いを入れ始めている。

 そして次の瞬間――森ガール女の手から大量の水が発射されて、その水が炎にぶつかっていく。

 森ガール女はそのまま階段を駆け上がっていき、十分後、見事、この塔内の炎をすべてかき消すことに成功していた。

 私たちはそれを間近で見て、思わず、森ガール女に拍手をしてしまうのだった。

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