第5話
「断る。」
「へ?」
間髪入れずに断るアレクスに周囲の誰もが唖然とする。
「い、いや、ちょっと待て。とりあえず一度オレたちの話だけでも聞いてから返事をくれないか?これは王室からの要望でもあるんだ。」
さすが冒険者達のリーダーなのか、デイダという戦士だけはすぐに我に返って、アレクスに再度自分達と来ないかと持ちかけた。
「断る。」
しかし、アレクスは全く興味を持たずきっぱりと断った。
「え......っ!?いや、王室の要請だぞ?」
“王室”という言葉を出せば、アレクスも興味を示すだろうと思っていたらしいデイダは、一瞬言葉を失ったがすぐに気を取り直してさらに勧誘を続けた。こやつもめげないな。
さらに食いつくように後ろのテーブル席に座っていた魔法使いも立ち上がり、デイダの横に来て応戦する。
「君みたいな腕の立つ剣士に仲間になってもらえると助かるんだ。実は要請の内容っていうのが......」
「何度誘われても俺は行くつもりないよ。」
ぴしゃりと言ってのけたアレクスはなぜかアタシをぎゅっと抱きしめて、
「俺はエレメルがいない場所には存在しないって決めているんだ。だから他をあたってくれ。」
...って、おい!!
そんな言い方をしたら周りの人に誤解をうむだろうに!!
なんだか生暖かい視線を横から感じて振り向けば、先輩がニヤニヤと、そして店長は微笑ましい表情でこちらを見ていた。
違う!違います!コイツは幼馴染愛が暴走しているだけなんです!
必死に心の中と視線で訴えたが、先輩は親指を立ててグッドポーズだ。店長まで娘を嫁に出すように涙ぐんでウンウン頷くのはやめてくれい。
「そのチ......じゃない、その少女がこの街にいるからが断る理由なのか?」
オイ、いまチビと言いかけて言い直さなかった?
戦士や魔法使い達がびっくりしたような顔で瞬きをしながらアタシのほうを見た。
そりゃそうだ。アレクスのようなイケメンで将来有望な剣士がなんの取り柄もなさそうな平凡な幼馴染に固執しているなんて驚きだろう。
アレクにも可愛い彼女でもできたら、アタシへの執着もなくなるんだろうけど、こんなイケメンなのにアレクはいまだに浮いた話のひとつもないんだよなぁ。
「わかったらさっさとメシ食って消えろよ。ここはエレメルの神聖な職場なんだ。」
ふん、とでも表現できそうな不機嫌な顔つきでアタシを抱きしめたまま、シッシッと手のひらを動かした後、さらにむぎゅとアタシを抱きしめる腕に力を入れるアレクス。
「あー、学校行きたくない。鍛練休んじゃおうかなぁ。だいたい休日まで鍛練だけのために行かないといけないなんで面倒だし。すーはー。あー、いい匂い。」
いつもと違った事態にうっかり抱きしめられたまま大人しくしていたアタシはハッと我に返った。
くんかくんかと犬のようにアタシの匂いを嗅ぐイケメンな幼馴染を見上げる。
「ん?なに?エレメル。」
ハイ、とアタシに先輩がフライパンを渡す。
「爽やかにキモい行動すんなっつーのっ!!さっさと学校行けえぇーーい!!」
どっがあぁーん!
店長すみません。壁にあいた穴は次のボーナスで弁償させていただきます。
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