第4話
「見つけた!」
ぶっ飛ばされて尚抱きつこうとしてくる変態幼馴染を変形したフライパンでぐいぐいと追いやっていると、後方から明るい声がしてカツカツ近寄ってくるブーツの音がした。
え?と振り向くと、紺色に星を散りばめたようなローブを纏った魔法使いが嬉しそうな顔でこちらに近寄って来ていた。
びくり、とアタシの体が強張った。
まさかアタシがこの世界を救った白魔法使いエレメナの生まれ変わりだと気づかれたんじゃ......。
いや、アタシの顔は前世とまったく違うし、今はなぜか魔力が全くない身だ。気づかれるはずがない。
もし、アタシがエレメナだった者とバレてしまったらこの平穏な毎日はきっと終わってしまうかもしれない。
魔力はなくともアタシは、かの“災厄”と直に戦った人物の生まれ変わりなのだから。
でも今の姿は、前世のように周りからチヤホヤされるような容姿ではないし、前世での銀に近いパールのように不思議に輝く白く長い髪もその同じ色彩に縁取られた金の瞳も、なぜか日焼けをしない陶磁器のような白い肌もない。今のアタシはどこにでもいるような平坦な顔に薄茶色の髪、そして金にはほど遠い茶色の瞳だ。まさか歴史に残るような人物の記憶があるとは思われないだろう。
大丈夫だと思いつつも強張る体をふわりと誰かが包む。ハッと顔をあげるとアレクスだった。
「何か用か?」
彼はアタシを魔法使いから隠すように抱きしめている。いつもの変態な抱擁ではなく、ピリリと空気が張り詰め、明らかにアレクスが近づいてくる相手に敵意を持っていることがわかる。
...そしてアタシを見せないようにしてくれている?
「君、王立学校に通うアレクス・ラシガーでしょ?」
ピクリと片眉を動かしたアレクスだが、相手の目的がアタシじゃなく自分だとわかって若干警戒を解いたのか、張り詰めていた空気が少しゆるんだように感じた。
「だったら何なんだ?」
応えるアレクスの声は冷たい。
いや、普段からアレクスは私以外の人への対応はこんなものかもしれない。アタシへの幼馴染愛に愛情を全振りしすぎた結果だと思うのだが、ほんとに周囲の人間には冷たい、というか無関心のように見える。
「え?あ、えーとさっ、実は......」
「フラッド。急に話しかけるから、おまえ警戒されてんじゃん。」
「デイダっ!」
たじろいでいた魔法使いの後ろからひょこっと背が高くガタイの良い戦士の男が顔出す。
デイダと呼ばれたその戦士は、フラッドという名の魔法使いの肩をぐいと引っ張り、「オレが話す。」と言ってフラッドを仲間のいる席に無理矢理座らせた。
そして、魔法使いが席に座ると満足そうな顔でこちらへと戻ってきた。
「はじめまして。オレはデイダ・キース。
アレクス・ラシガー殿、君に頼みがあるんだ。
オレたちとともに魔物退治の旅に出てくれないか?」
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