第3話
「おいおい、大丈夫か?これ。」
「大丈夫ですよ。幼馴染としての躾なんで。」
よくランチを食べにくる店隣のおじちゃんが、うわぁーって顔して、床に伸びているアレクスを覗き込んでいる。
火を通す寸前だったホットサンド用のフライパンだったんで熱くはなかったと思うが、四角い跡形がイケメンの顔にくっきりとついていた。
まぁ、自業自得だろと他の客の注文を聞いていると、
チリリリン♪
ドアベルの涼やかな鐘の音がなってドカドカと数名の客が店内に入ってきた。
「へぇ。珍しいな。」
入ってきた客達は、いかにも屈強そうな戦士達や上質なマントを見に纏った魔法使い達だった。
アタシが働いているこのカフェは、冒険者ギルドの近くにあるが、客層はどちらかというと、モーニングやランチ時間は冒険者を引退して悠々自適な暮らしをしだしたシニア世代、その時間をすぎると若い町娘がお茶やケーキを食べに来たりという感じで、現役の冒険者もちほら来ることは来るが団体でランチを食べにくることば珍しい。
彼らは料理のボリュームがあって酒も飲めるギルド近くにいくつかあるバルを利用する者が多いのだ。
たしかに小洒落たカフェメニューだけではクエスト途中でお腹が空いてしまいそうだ。
現に、彼らの本来の目的はカフェランチをとることではなさそうで、空いている席に着きながらも彼らはキョロキョロと誰かを探すような仕草をしている。
「注文とりに行ってくるわ。」
オーダー用紙を手に彼らの席に行こうとすると、ツンッとワンピースの袖をひっぱられた。
振り向くと、いつのまにか復活したアレクスが立ち上がり苦い顔で冒険者達を睨んでいる。
「俺が行く。」
「へ?なんで?」
「だって俺たちと同じ年頃だろ?あいつら。」
「はぁ?なんで同い年ぐらいだからって、私の代わりにアレクが行くのよ?」
「うっかり話して、エレメルに変な虫がついたらどうするんだ?」
一体何をまた血迷い出したのだ、この幼馴染はっ。
おまえ自身を棚に上げて、まともそうな冒険者たちを変な虫と言い切ったな。
それに注文とることは仕事であって、うっかりではないだろうに。
「アレクこれは仕事なのよ。アンタこそ、学校の休みの日とは言え剣術の練習とかあるんでしょ?ランチ食べたら行きなさいよ。ほら。じゃあね。」
アレクを席につかせて、彼の席から離れようとするとガタンとアレクスが慌てたように席を立った。
「え.....っ!?」
ぐいと腕を捕まえられ、振り返るとアタシを見つめる綺麗なオッドアイの瞳。
......?
振り返って目があった瞬間、その瞳の奥に焦りのような切なさのようなものが一瞬混じった気がしたのは気のせいだったのだろうか。
ばふんっとそのまま引っ張られてアレクスの胸の中に抱き込まれた。
その衝撃と同時に普段はギリギリのラインでシャツの襟元で隠れているアレクスのペンダントが顔を出す。
アタシの目の前に出てきたアレクスが小さな頃から大事にしているそのペンダントはトップに透き通った珍しい石がつけられていた。石がどう珍しいのかというと、中で白と水色の液体のようなものがぐるぐると動き回ってマーブル模様のようになっているのだ。
いつもは隠していて、幼馴染のアタシにでさえ、あまり見せてくれない石なので自分の今の状況を忘れてつい見入ってしまった。
すると、アレクスはすっとわたしの視界からその石を隠すように再び自分の服の中に入れてしまった。
「俺以外の男と話す仕事なんて......。ああ、どうしたらいいんだ!?いっそ、魔道具でエレメルを自宅に閉じ込めれたら.....っ!」
その言葉にハッと我にかえり気がつくと、アレクスはすりすりとアタシに顔をすり寄せ、さらにはぎゅうぎゅうと抱きしめてきていた。
「こ、この....!ヘンタイがあぁぁぁぁっ!ここは職場だあぁぁぁ!!いい加減幼馴染離れしろっつーの!!」
バッキーーーーン!
店長すみません。ホットサンド用フライパンが変形してきたので謹んで買い取らせていただきます...。
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