第2話
料理とはなぜあんなに難しいものなのだろう。
前世のアタシの弟子リシャスは「料理は真心だ。心をこめて作れば必ず食べる人にとって美味しいものが出来上がる。」と言っていたが、心をこめて作っても砂糖と塩を間違えたり辛子を倍量入れてしまい食べると口から火を吹いたりややこしい。
そう言えば一度「真心をこめたら良いんだよな?」と自分の心を魔法で具現化してスープに入れたら、具現化したアタシの心玉がスープにぷかぷか沢山浮かびながら「美味いって言え。美味いって言え。」と一斉に喋り出して、弟子達に食べづらいと大不評であった。心外な。あれはわりと美味しかったのに。
ああ、前世の弟子達とは、アタシが今のエレメルに生まれ変わる前のアタシ、つまり『白魔法使いエレメナ』であったころにアタシに師事していた者達のことだ。
当時アタシには各国から白魔法の教えを請おうとやってきた弟子達がいた。
300年も前な話だけどね。
いや、300年も経ったんだからさ。もうちょっと調理器具が進化していてもいいんじゃない?絶対ふわふわなクリームができる泡立て器とか、混ぜるだけでクッキー生地が自動で焼きあがるヘラとかさ。
「うーん。どうせなら材料を置いただけでケーキになる調理台とかがあったら......。」
「エレメル、今日遅刻しただろ?」
キッチンからカフェスペースに向かいながらブツクサと歩いていると、いきなり鼻で笑ったような若い男の声が私に飛んできた。
誰かは見なくともわかるが一応振り返ると、キッチンに1番近い窓際の席に座り、開いた窓からそよぐ風に水色の髪を揺らして片肘をつきこちらをニヤニヤと笑いながら見ている顔がやたら整った男がいる。
そのニヤついた笑いでさえ、イケメンがやるとカッコよく見えるのか、窓の向こうにいるコイツの親衛隊の女性たちがきゃあきゃあと騒いでいた。「微笑んでる!」って騒いでるそこの子、違うぞ、コイツはただニヤついてるだけだぞ。見かけに騙されてはダメだぞ。
「やたら情報が速いわね。アレク。」
この男はアレクス。アタシの幼馴染だ。
どれくらい昔からの馴染みかと言うと、驚くことなかれ。なんとお互いの母親の産院が同じで、しかもアタシとアレクは同じ日同じ時刻に産まれてきたのである。そう、つまりアタシは今生では16歳なので、16年来の幼馴染だと言うことなのだ。腐れ縁だな。
このアレクス、サラサラな水色の髪に金と黒の神秘的なオッドアイで見かけはこの街でも屈指のイケメンである。さらに職業は将来有望な王国騎士団が運営する剣術学校に通う見習い剣士。一般人でありながら親衛隊まで結成されるほどの有望株だ。
この時点で推しに決めた読者のみんなには、非常に残念なお知らせがある。
天はこの神秘的イケメンに二物も三物も与えたようだが、追加でいらない物まで与えてしまっていた。
「あたりまえだ。俺はエレメルのことなら1から10まで知っている。ちなみにエレメルが今日着ている白いワンピースは今月に入って8回着用。エレメルは他に何着か持っている服もあるが、基本は白を基調とした服ばかりだ。ちなみに下着も白かというと.....」
「ちょっと待てえぇぇぇいっ!!なぜ人ん家のタンスの中身を知っている!?」
「愛の力だな!!
ちなみに今日も早朝から鍛練ついでに素振りをしながら、エレメルが来るのを店の前で待ってたからな。今日は2時間15分の遅刻だったな。はっはっは!!」
「いや、ソレただのストーカー行為だ。胸張って言うな。コラ。」
そうなのだ。
この男、残念なことに幼いころから一緒にいたアタシへの幼馴染愛が斜めの方向に育ってしまったのである。
つまり、天はイケメンに変態のオプションまで与えてしまっていたのだ!
「スト......!?何言ってるんだ?エレメル!これは愛の力だ!愛がエレメルの全てを知りたいと願った結果だ!決して俺の母さんの手料理をお裾分けにエレメルに届けた際に偶然開いていたタンスの中を目を皿にして見ていたとか、俺が毎日書いている『可愛いエレメルの観察日記』にその日の服装を詳細に記入しているゆえの知識であるとかそんなことは決してない!!」
「必死の言い訳がむしろ自白になってるぞ?。」
店のホットサンド用フライパンで張り倒しておこう。
うん、それが良い。