第三話 タイムリープ
「ハッ—――!」
目が覚めた。
目が—―—開いた?
「俺は? 死んだはずじゃ……」
パソコンが見える。
古いデスクトップパソコンだ。アナログテレビのような箱型のモニター……長机に何台も並べられている。
ここは、間内高校の情報室だ。
だけど、おかしい。
今はパソコンは全部ノートパソコンに切り替わっているはずだ。
確かに俺が学生時代の頃はこの古いタイプのパソコンだったが。
いや、そもそも―—―。
「何で情報室に―—――⁉」
見下ろす。
俺は—――制服を着ていた。
間内高校男子の制服を、俺は身に着けていた。
「何で、俺が制服を着ているんだ⁉ スーツはどこに行った」
「何を騒いでいるんだ?」
少し、ハスキーな女の声が響いた。
声の方へ顔を向ける。
眼鏡にウェーブのロングヘア―ト見せかけ、ただの手入れしていないボサボサの髪を晒している—――俺の幼馴染。
「舞……?」
「そう……だが? 何をそんなに呆けた顔をしている?」
間内高校女子の制服に身を包み、学生時代の容姿のまま―—―、
「お前———製薬会社に」
「製薬会社? 何の話だ?」
「薬を作っているって偽って、実は独断でウィルス作ってて、秘密裏にそれをばら撒いたり……」
「だ……から! 何の話だ! それよりも、ヒロインの声の収録はもう終わっているのか? 何度も何度も取り直しているようだが」
「収録? ゲーム?」
携帯のカレンダーを開く。
2013年11月11日。
ゲーム完成から、あの告白の日から、一ヶ月も前。
「時間が巻き戻っている—――」
「は?」
じゃあ、まだやり直せる。
何を言っているのかわからない。そう顔に書いてある舞の肩を掴む。
「な⁉ 春雄⁉ いきなりなんだ!」
「好きだ‼ 舞! 俺と付き合ってくれ!」
告白した。
今度こそ後悔しないように―—―俺から……、
「たっだいまぁ~~~~! また持ってきたよォ! 音声データ! 今度こそ合格だよね⁉ って……」
扉が勢いよく開き、晶が入ってきた。
俺と舞を見て目を丸くしている。
「な、なにやってるの⁉ 近くない?」
驚くのも当然、俺は彼女の肩を掴んで、キスができそうなほど顔を近づけている。
くそっ、タイミング悪い—――だが、舞は俺が好きなはず。これで世界は—――、
「離したまえ」
「よし、お前もオーケーだな⁉ これで明日から俺とお前は彼氏彼女で、世界は救われ……え?」
「何を血迷っているんだ⁉ 君はぁぁぁ!」
ドカッッッ!
「ゲフゥゥゥゥゥ‼‼」
思いっきり、腹を蹴られた。
足の裏でつくような蹴り—――ヤクザキックと言う奴だ。
「お、お前、照れ隠しでも暴力はいけない……今時どんな理由があろうと暴力ヒロインは……」
「何を言っている⁉ アニメの話か? 暴力ヒロインがどうした? 結構見るが?」
「そういえば今は2013年でした」
暴力系ヒロインが叩かれだしたころで、この頃はまだアニメやラノベに結構いた。
まぁ、今はそんなことはどうでもよく―——舞は心底見下すような目を俺に向けていた。
あれ―—―? 彼女も俺が好きなはずじゃ?
「今は色恋よりもゲームを作ることに専念する。そういったのは君のはずだ。それに、私は君とは子供のころからの付き合いだし、一緒にお風呂に入って性器も見せ合った仲だ」
「きゃっ」
「言い方……」
舞のあけすけな言い方に、晶が顔をポッと赤らめる。
「だから、君のことは弟しか見れない。男としては見れないんだ。悪いな」
「………………………は?」
舞は苛立たし気に頭を掻き、
「君も少し疲れているようだな。私も今日は気が乗らないので、帰るとするよ」
そう言い残し、ピシャッと情報室の扉を閉め、出て行ってしまった。
「あ~……私タイミング悪かった……かにゃぁ?」
すっごく。
気まずそうに尋ねてくる晶に全力で同意したかったが……それよりもそれよりも……!
「なぁにが弟しかみれないだぁぁぁ! こっちのセリフだボケぇぇぇぇ!」
怒りのあまり、思わず叫んでしまった。
「え……春雄から告白したんじゃないの? なのに妹としか見れないっておかしくない?」
「………………」
そっとしといてくれ。
もう、晶にそう言う気力もなかった。