第一話 僕たちの青春
2013年————1月12日。
間内高校・情報室。
『祝ゲーム部制作・「負けヒロインが最後に勝つまで」完売記念!』
横断幕が部屋の前に貼られ、モールで飾りつけされている。
中は祭りの後。
食べ散らかしたお菓子が散らばり、情報室らしくパソコンが並んでいるが、キーボードに食べかすが飛び散っている。
「後で掃除しなきゃな」
俺は苦笑しながら机を撫でる。
「皆、騒ぎすぎさ」
この部屋にいるのは———二人。
俺と———彼女。
「舞は、いつもどおりだな」
眼鏡でボサボサ髪の間内高校3年生———神代舞だ。
ゲーム部部長。「負けヒロインが最後に勝つまで」のメインプログラマーでメインシナリオライター。
窓際に座ってつまらなそうに外を眺めている。
「いちいちこんなバカ騒ぎをしなきゃいけない理由が分からん」
「そう言うなって」
「君はずいぶん騒いでいたな。春雄」
「そりゃそうだろ。完売だぜ完売。同人即売会で。今の時代、企業がひしめき合っているのに。学生のみでよくやったよ!」
「そうだな……なぁ、春雄。次は君がシナリオをやらないか?」
「え?」
「本当は世界を救うファンタジーがやりたいんだろ? このゲーム部だって、君がゲームを作りたいから作った部活じゃないか。だけど、身に着けている技術が私の方が優れていたから、私に部長の座を譲り、君は副部長の座に収まり、総合プロディーサーとなった。
だけど、次は本当にやりたいことをやらないか?」
「……あ、馬鹿言うなよ。俺たち来年卒業なんだぜ?」
冗談だ。彼女なりの冗談だ。俺は反笑いになりながら、
「それに———無理だよ。お前が中心になったから面白いゲームが作れた。俺が作っても……」
「大丈夫だ。私が支えてやる。私がずっと支えてやるから」
「え?」
「ゲーム部じゃない。会社を作ろう。私たちで」
「え?」
「ねぇ、私たち付き合わないか?」
「…………え?」
ああ、冗談か。
彼女の視線は窓の外に向けられたままだ。
「久しぶりだな……お前が冗談を言って、人をからかうなんて」
「……………」
沈黙がふたりを包む―—―。
「ごめん…………!」
俺は、それだけを言った。
舞は無言だった。
「やっほ~~~~~~! お二人さ~~~~ん! 買い出しから戻って来たよぉ~~~~~!」
バンッと部屋の扉が開き、両手にビニールを持った女性徒が入ってくる。
金髪の明るい女の子。今回のゲームで声優を担当してくれた―—―新藤晶だ。
「おっや~~~~? お二人喧嘩してた? だめだよぉ~~~~! どうして幼馴染なのに二人はいっつも喧嘩するかなぁ⁉
ほらぁ! 舞ちゃんもいつも仏頂面していないで!」
「ほがほが……」
晶が舞の口に指を突っ込み口角を無理やり上げさせる。
無理やり笑顔にさせられるが、舞は特に抵抗しない。
「ハハ……」
乾いた笑いが漏れる。
やっぱり、冗談だったんだ。
舞が俺のことを好き何て―—―あるわけがないからな。
その後、他の部員たちが部屋に入って来て、宴が再開した。
楽しかった―—―その日は。
だけど、俺は、この時のことを一生後悔し続けた。
十年後————上代舞は世界を滅ぼした。