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8. 歌姫

 


 時折地上に現れるカナリア姫。神に歌を捧げ人々に幸福をもたらす存在。何故なのかは分かりません。けれどもルナミナは一生懸命歌います。


 これまでも幾度となく歌って来ましたが、その夜初めて神様の夢を見ました。


「やあやあルナミナ。何時も綺麗な歌声ありがとう。僕、神様だよ」


「神様?神様は少年なんですか。でもちょっと光が強くてお顔が見えません」


「僕には決まった姿が無いからね。見る人によって大人だったり、子供だったりするのさ」


 そう応えると次第に少年の姿が浮かび上がりました。ルナミナと同じくらいの年頃の少年。金髪碧眼の絵にかいたような少年です。


「神様は何で私に歌って欲しいのかしら。歌なんて何処でも聴けるのに」


「ルナミナは別の世界から来た魂だろう。僕はその世界の歌が聞きたいのさ」


 なんと神様は神に捧げる歌ではなく、ルナミナのいた世界の歌が聞きたいようです。


「じゃあなんで私は神に捧げる歌を歌うのかしら」


「それは…… 人間が考えた決まりごとだよ。最初はそうじゃなかったんだ」


 ルナミナのように時折別の世界と、魂を入れ替えてやって来る者がいるそうです。そういう人達は新しい考え方とかをもたらしてくれるのだとか。


「私はなんにも特技がないわ」


「平気だよ。時々見させて貰っているけど、君は楽しいよ。王子様にプロポーズされるなんて、最高じゃないか」


「だけど婚約破棄で国外追放だわ」


「そんなことにはならないよ。僕が保証する」


「本当に?神様の言うとおり」


「僕のお気に入りだからね。これからも僕を楽しませておくれ」


 その後もルナミナは神様と色んなお話をしました。神様はとっても気さくな人だったのね、とルナミナ。カナリア姫の称号は神様の特典みたいなものだとか。

 特別な存在になることで、ルナミナが幸せに暮らせる手助けをしているのだと。


 翌朝目覚めたルナミナは思います。あれはただの夢だったのかと。やっぱり婚約破棄が気になるルナミナです。


 その肝心の婚約者であるレオナルド王子は最近忙しいみたいです。ルナミナを迎えるにあたり、下準備に追われているのだとか。


(私は歌意外取り柄の無い女の子なのに)


 前世では平凡だったとぼんやりと思います。そして今世でもルナミナは人よりも可愛いとは思いません。普通の少女でそこそこ可愛い程度だと考えます。


 物語のヒロインみたく可愛ければ、王子様とも釣り合うのでしょう。そう言えばルナミナの好きな、声優アイドルのみゅうみゅうちゃんの、演じているヒロインもそうでした。


 平凡な女の子が魔法で可愛いアイドルになる。でも主人公は平凡な自分とアイドルの自分のギャップに悩みます。普段は好きな男の子に振り向いてもらえないのに、男の子はアイドルの自分に夢中なのです。


 王子様なんて自分には釣り合わないのに。歌が上手いだけで王子様と婚約する自分。きっと本当のルナミナを知れば、王子様は私に飽きてしまうのだわ。ルナミナは漠然とそう考えていました。



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ジェラルド、私はどうしたらいい。ルナミナはあまり私に関心が無いように思う」


 王子様は悩んでいました。普通と言う言葉が一つも当てはまらないルナミナに、心が折れそうです。


「誠意を示し続ければ、カナリア姫もきっと振り向いてくれます。根気よく攻めるのです」


 長年レオナルドのお世話をしてきたジェラルドは、こんな弱気な王子を初めて見ました。冷徹で合理主義の王子も人の子だったと、感心しています。


 自分よりも知識の劣る教師に蔑む言葉を浴びせ、誰にも負けない不屈の精神を持った氷の王子。それがうんと年下の、ジェラルドから見ればかなりおかしな女の子に、レオナルドが心を傾けているのです。


 ジェラルドからすれば、金も権力も、容姿さえ整ったレオナルドは、お相手は選びたい放題なのです。どんな美女でも大概は落とせるでしょう。なのにレオナルドが選んだのはカナリア姫。この世で最もままならないお相手なのです。


 かなり無理矢理強引に婚約に持っていきましたが、カナリア姫が本気で嫌がれば、彼女が口癖みたく言う婚約破棄も、現実味を帯びてしまいます。


 合理的が大好きな王子が、小まめに手紙を書き、プレゼントを送って口説いているのです。


「私は恋愛にかまける連中を馬鹿にしていた。たかが女一人に腐心するなど。だが、相手が人間である以上、その心の奥まではいじれない。これが恋愛なのだな」


 カナリア姫はかなり特殊なので、複雑な気分を抱えるのですが、王子の人間らしい成長を嬉しく思うのです。


「彼女が早く大人になってくれれば良いのに」


 カナリア姫が大人になるまでの婚約期間を煩わしく思うレオナルドなのです。


 一方のルナミナは今日も歌っていました。ルナミナの歌を聴ける日は、寺院には大勢の人が集まります。寄付金も増えて寺院にはとても感謝されました。


(でも神様は日本の歌が聞きたいのよね)


 真面目に祈りの歌を歌います。歌は生き物みたいで上手く歌えると、ルナミナ自身も気分が良いのです。それに大勢が聞いています。ルナミナの歌を聞いて感謝の言葉を貰えるのは、何よりの幸せを感じます。


 そしてたまたまそんなルナミナを見かけた人物がいました。


「綺麗な歌声だな。あれは━━━━ 」


「あれはカナリア姫にございます。この世の宝で、現在はこの国の第二王子、レオナルド・クリスタル・タイラーシェンド殿下の婚約者でもあります」


「婚約者!」


 予想外の台詞に彼は驚きました。何故ならば彼はレオナルドの同級生で、同じ学園に通っていました。レオナルドの冷徹さは、学園でも有名でした。


 カナリア姫は国王でさえも、命令のできない存在だと聞いています。それが婚約者とは。両者の合意がなければあり得ないでしょう。


 しかし歌声はとても綺麗ですが、婚約者に選ばれるほどの美少女ではないと思います。俄然興味が湧きました。


「面白い、是非とも彼女と親しくなってみたいな」


「は、しかし彼女はレオナルド殿下の婚約者です。余計なちょっかいは避けた方が宜しいのでは」


「僕が会ってみたいだけだよ。カナリア姫は誰のものでも無いだろう」


 成績優秀、何をやらせてもそつなくこなす。けれども女性に優しい言葉の一つも掛けない冷血王子。そんな評判の彼が選んだのが、ちんちくりんな小娘とは。


 合理主義の彼が意味もなく選んだとは思えません。カナリア姫に直接会えば、その秘密が分かるかも。彼、隣国の王子であるミハエル・ブリジットはにやり、とほくそ笑みました。





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