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3. 執着

 


 カナリア良いわねお前は自由。金の翼で飛び回る。その歌声で癒しておくれ。


 カナリア貴方は可哀想。その美しさ気高さが、人を惹き付け止まぬのだ。余りに美しき歌声故に。


 カナリア貴方に自由をあげる。もう二度と人目に触れぬよう、金の翼で逃げてしまえ。


 カナリア君は自由を忘れた。美味しい食事も綺麗なお水も、独りで用意は出来ない程に。


 カナリア私の鳥籠で、微睡みながら歌いなさい。二度と籠から出られぬ憐れな生き物。


 はっと息を吐き、ルナミナ━━━ カナリア姫は目覚めます。今のは夢?と。遠い昔の記憶に祖母が口ずさんだ歌が響きます。カナリアが上手く歌えなくて、むち打ちの刑にあう歌です。

 余りに酷い歌詞にルナミナは、絶句した覚えがあります。昔の日本の歌には動物虐待の歌があります。


「鳴かぬならコロしてしまえ、ホトトギス」


 ………… それは歌ではありませんが。ルナミナは天下を取るつもりは微塵もない、歌うまの女の子です。でも巫女と言う存在は少し不自由なもので、ルナミナは理不尽に感じます。


 それでも普通の貴族の娘よりはましかと思うのです。幼いうちに見ず知らずの婚約者を宛がわれ、嫁いで行くのが運命なのです。ルナミナは唯一無二の巫女で在るが故、結婚に関しては自由に自分の意思で選べるそうです。


 閉じこもって歌を歌うが、清廉潔白ではなくとも良いのです。巫女の中には結婚した人もいます。けれどそれも少数派です。なにせ巫女は引き込もって生活をします。お相手が見つかりにくいのです。相手も巫女に併せた生活になります。


「まあ結婚しなくっても良いわよね」


 前世残念女子でアニメ大好きのルナミナは、現実の恋愛なんて考えられませんでした。二次元のイケボにうっとりしていた、そんな女の子でした。今日も今日とて五日ぶりの腹筋に勤しみます。勇者になれば、悪役令嬢にはならないものね。

 因みに魔王はいません。ルナミナは何と戦うつもりなのでしょう。しかもたまに腹筋をしても、筋肉がつく筈もありません。歌のレッスンで腹筋は鍛えられてはいますが。


 ある日ルナミナの元に一通の招待状が届きます。王家の紋章の封冠がされた招待状です。丁寧な文字でこう書かれていました。


 親愛なるルナミナ・ローザ・ミシュルド様。今度開催されるささやかなお茶会で、是非ともに貴方の天上の歌声をお聞かせ願えないでしょうか。強制ではありません。ただ貴方の作曲した美しいメロディが忘れられないのです。その歌声を再びこの身に受けられるならば、至上の喜びでしょう。良いお返事を期待しております。


 グルセルナ王国第二王子

 レオナルド・クリスタル・タイラーシェンド


 王子様直々のお誘いにルナミナは頭を抱えます。巫女であるルナミナは王命にだって、従う事はしなくとも良いのですが、だからといって逆らうのは、やっぱり不味いのです。

 ルナミナは巫女である前に貴族の娘ですから。これが婚約の約束とかならば断固お断りです。しかしお茶会のお誘いを、わざわざ断るのは難しいでしょう。


 渋々引き受ける事になりました。失礼の無いように家庭教師に代筆してもらい、(ルナミナは字が汚いから)お返事を書きました。


 王子の聞きたい歌はクマリンのテーマ。このアニメはわりと問題作で、子供に見せたくないアニメに選ばれた作品です。可愛いキャラが殺伐とした争いを繰り広げる、情操教育に宜しくないアニメでした。

 そんなアニメをこっそり見ていた事を思いだし、羞恥心にかられるのです。クマリンの替え歌を作るのも憚られます。悩んでいるうちに、お茶会の当日になりました。


「可愛いわルナミナ。流石私の娘ね」


「お姉さま…… うらやましい」


「ルナミナ、くれぐれも失礼の無いように」


 お母様、妹、お兄様が各々私に声をかけます。今日は朝から屋敷の方でおめかしをされました。馬車に乗ってお城までお出かけです。お城に着くとメイドの一人に抱き抱えられてしまいました。


「お茶会の席は王城の奥にございます。ルナミナのおみ足ではお時間がかかりますので」


 まだ六歳で体力もないルナミナは大人しく従う事にしました。精神的には大人なルナミナは少し気恥ずかしいです。兵士の一杯いる奥の扉をくぐり、更に奥の上の方の階に庭園がありました。


(空中庭園だわ)


 吹き抜けの天井はドーム型の硝子が填まっていて、美しい花が咲き乱れています。まるで夢のような光景です。その奥にテーブルが用意された空間があります。件の王子様がお出迎えをしてくれます。


「ようこそおいでくださいました。カナリア姫。私の招待を快くお引き受け下さり、光栄に存じます」


 流石王子様。胸に手を当て優雅に挨拶をします。ルナミナも教師が繰り返し教えた、今日の為の挨拶をします。


「いいえ、此方こそこのようなお席にお招き下さり、光栄に存じます。まだまだ未熟者の巫女ではございますが、王家の方々の為に精一杯務めさせて頂きます」


「さあさあ姫、堅苦しい挨拶はここまでで、本日のお茶会のメンバーを紹介します」


 席には姉妹と思われる女の子が二人いました。


「はっ、初めましてルナミナ様。私レオの従姉妹のクレスティア・レーマ・ゲルシェイドですわ。此方は妹のマリエル。八歳と五歳よ」


「マリエルです。よろしく姫さま」


 どうやら王子はルナミナに気を使って、年の近い子供を用意したようです。ルナミナは子供が苦手です。妹は別ですが正直戸惑っています。しかし最初は不安だったものの、侯爵家のご令嬢らしく良い子達でした。


「まあ、それではルナミナ様は一人で塔に住んでらっしゃるの?寂しくありませんか」


「一人といっても昼間は教師が来ますし、メイドもいますもの」


「マリエルはそんなのムリー。泣いちゃうもん」


 三人のやり取りを王子は微笑んで見ています。そんな王子にルナミナは良い印象を持ちません。張り付いた作り笑い。精神が大人なルナミナは、何となく察してしまうのです。


「さてカナリア姫。そろそろ歌声をお聞かせ願えますか?彼方に席を設けてあります」


 いつの間にか楽団が控えていました。ルナミナの為のお立ち台も設置されています。少し緊張します。ルナミナの好きな曲をどうぞと言われ、先ずは歌いなれた祈りの歌です。


 殆ど教師と一対一で歌う歌ですが、今日は様々な楽器がルナミナに響きます。ルナミナもその楽器の一部になった気がして、嬉しくなりました。一曲目が終わると姉妹が立ち上がって拍手をします。


「凄いわ!本当に小鳥みたいに綺麗な声」


「姫、すごい」


 顔を赤くしてべた褒めの姉妹に、ルナミナも気分が良くなります。続けて神に捧げる楽曲を二曲歌ったところで。


「カナリア姫。この間寺院で歌った曲をお願い出来ますか?」


 王子からのリクエストです。アカペラで歌い出すと、楽団がついてきました。


「素晴らしい。では、あの曲もお聞かせ願えますか」


 とうとうこの時がやって来てしまいました。他の曲だけで済ませたかったのですが。意を決して歌い始めました。日本語のメロディです。~ラララ~。初めて聞く日本語に姉妹はポカーンとしています。アップテンポの曲自体も珍しいものです。


 勢いで歌いきると、王子は拍手をしています。


「素晴らしいです姫。ところでその不思議な言語は何処の言葉でしょうか」


 一番聞かれたくない質問でした。


「えっとぉ~、かっ、神様が?違う世界の歌を、教えてくれたのかしら?」


 前世の記憶は神様のいたずらかも、と思えばあながち嘘ではありません。


「神様ですか、興味深いですね。どんな意味があるのでしょう」


「えっと、弱きを助け、強きを挫く、勧善懲悪です」


「姫は難しい事を知っていらっしゃるのですね」


 タイトルのクマリンの事を聞かれ、初めは渋っていたルナミナも、気付けば熱心にストーリーを語っていました。


「でね、グリズリ軍団っていう悪いクマに正義の味方のクマリンが立ち向かうのよ。マシンガン片手にね」


「マシンガン?」


「連射式の銃よ。銃って言うのは鉄の玉を一杯詰めて、弓矢みたく飛び出すの」


「それは痛そうですね。とっても興味深い」


 王子との会話に姉妹はついていけません。ルナミナの言っている事が理解出来ないのでした。ルナミナが帰った後に王子は側近であるジェラルドに、話をします。


「みたかいジェラルド。あれはとても不思議な姫だよ。とても子供っぽいのに、彼女の話には一貫性がある。単なる創作とは思えない」


「左様ですな。どんなお伽噺ともまるで違う。あれは本当に神の世界のお話かも知れませんぞ」


「こんなに興味を持った人間は初めてだよ。もっと側に置いて話をしたい」


「ではいい方法がございます。婚約者にするのですよ」


「ジェラルド、相手はカナリア姫だぞ。生きた国宝だ」


「だからでこそです。無理強いは出来ませんが、早いうちに王子のお気に入りである、と周囲に知らしめれば良いのです」


「なるほど。逃げ道を塞ぎ、囲ってしまえばいいのか」


「あれに目を付ける輩は大勢いるでしょう。早めに手を打つべきです」


「あれが側に居れば、当分は退屈しないな」


 なんと言う事でしょう。ルナミナは王子の退屈凌ぎとして、目をつけられてしまいました。ルナミナはこのフラグを回避出来るのでしょうか。




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