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7話目・


 クジラがはっきりと口に出すと、エレクセリアはビクリと体を震わせた。


「……そうだね。まだ確定ではないけれど、可能性は高いと思う」


「断定しない理由はなんだ?」


 ライゼンが問う。

 ハレルヤは、ちらりと部屋のドアを見た。


「まだ動機が分かってないから。……と、いうところまでを紙束には(・・・・)書いておいた(・・・・・・)


「……それは、どういう」


 エレクセリアが問おうとしたところで、コンコン、と部屋のドアがノックされた。


 用があって呼ぶまで他の者は部屋に近寄らないように言い含めてあるのに、だ。


「クレアベール嬢。エレクセリア嬢は少々心を乱しておられます。応対していただけますか?」


「……分かった」


 クレアベールがドアに近付き、ドアノブに手を掛け━━、


「下がれクソアマ!」

「っ!?」


 ライゼンがクレアベールの襟を掴んで後ろに引くのと、ドアを突き破って何本もの剣が刺し込まれたのは同時だった。


 一拍遅れてドアとは反対側にある部屋の窓が全て割れて、黒い何かが飛び込んでくる。


「クジラ君!」

「おう!」


 クジラは、目の前のテーブルの天板部分を掴むと片手で(・・・)振り上げて、窓から入ってきた黒い何か━━襲撃者のひとりに向かって投げ付けた。


「ぐおっ!?」


 重量50キログラム以上の木の塊がほぼ水平に飛んでくるのだ。

 直撃した男はくぐもった声を出して倒れたきり動かなくなった。


 直後、ドアが押し破られてさらに男たちが乱入してくる。


 ライゼンは仔猫のようにクレアベールの襟を掴んだまま大きく下がり、クジラは手元のイスを投げて窓から入ってきた男たちを威嚇する。


「なるほどなるほど」


 ハレルヤはエレクセリアの傍でぐるりと室内を見渡し、襲撃者たちを順番に見た。


「なんだ貴様らはっ!!」


 クレアベールが怒気をにじませて吼えた。


 襲撃者たちは皆黒い覆面を着けて黒い服装をしている。

 男だということは体格で分かるが、それだけだ。


 そして男たちはクレアベールの言葉に答えず、各々剣やナイフなどの武器を構えてじりじりとエレクセリアたちを包囲する。


 その数20人ほどか。

 自然と、へたり込んだエレクセリアを他の4人が囲んで守る形となった。


「クソアマ、テメェやっぱり見逃してただろ」


「馬鹿を言うな! これほどの人数、気付かないわけないだろう!?」


「そうだよライゼン君。この人たちは、呼ばれて(・・・・)ついさっき来た人たちだよ」


 ハレルヤがそう言うと、ライゼンはつまらなそうに「ふーん」と言った。


「で? どうするんだ?」


「うん。見たいものは見たし、もういい(・・・・)かな」


 ハレルヤの言葉に、ライゼンは両手を握り締めた。

 ギチギチと堅いもの同士が擦れ合う音が、ライゼンの両手から鳴った。


「けど、殺さないでね」


 その瞬間、ライゼンの姿が消え、部屋中を縦横無尽に黒い線が走った。


 床も壁も天井も関係なく踏み付け(・・・・)られて激しい遠雷のような足音(・・)が鳴り、部屋全体が軋み、揺れて、震えた。


「うぐっ!」

「ぎえっ、」

「がっ!?」


 取り囲んでいる襲撃者たちが、次々と武器を取り落としてその場にうずくまっていく。


 皆、両手首を腫らして白目をむき、口から泡を吹いたり胃液を漏らしたりする者もいた。


 糸の切れた人形のように男たちがバタバタ倒れていくが、エレクセリアには何が起きているのか全く分からなかった。


 ただ、部屋全体を揺さぶる音と振動に、耳をふさいで目を見開いていることしかできなかった。


「何だ、これは……」


 呆然とクレアベールが呟く。

 彼女の目には、黒い線のようになっているライゼンの動きがかろうじて見えていた。


 すれ違い様に襲撃者の両手首を砕き、(のど)水月(みぞおち)股間(きんてき)に一発ずつぶち込む。


 あまりに速く、鋭く、そして正確な連撃。

 単なる暴力とは一線を画する、練り上げられた武の形だった。


 この高みに至れた武人が、はたして今まで何人いたことだろうか。


「おげぇっ」


 最後のひとりが白目をむいて倒れる。


 瞬きひとつの間に3人。

 20人全員を5秒足らずで無力化してみせた。


 圧倒的だった。

 クレアベールが、自分の強さへの自信を失いかけるほどに。


 これほどの高みに届くことなど、ワタシには、生涯━━、


「見たかクソザコ女」


 ライゼンが、最後に倒れた男の頭を蹴りながら言う。


これぐらい(・・・・・)のことが出来ないから、お前はザコだっつってんだよ」


「なっ……!」


「悔しかったら、これぐらい出来るようになれよ」


 その言葉に、クレアベールは数瞬前までの自分を殴り飛ばしたくなった。


 目の前のムカつく男が届いた高みに、自分がたどり着けない?


 それはすなわち、これから先の生涯、死ぬまでこの男への敗北感を抱いて生き続けるということだ。


「その言葉……!」


 そんなこと、許せるはずがなかった。


「あ? なんだよ?」


 ライゼンの言葉が、クレアベールの心に火を点けた。

 ライゼンの顔を真っ直ぐ睨み付けて言葉を絞り出す。


「いつか、必ず後悔させてやるからな……!」


 いずれ必ず、必ずこの男をこの手で打ちのめしてやると。

 クレアベールは、そう心に決めた。


「……ははっ、そうかい」


 ライゼンは、少しだけ楽しそうにクレアベールを見返していた。


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