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6話目・


「それでは今回の、……そうですね、事故ではなく事件と呼びますが、リッチモンド氏をめぐる事件の経緯をあらためて確認していきます」


 言葉を失うエレクセリアに、ハレルヤは静かな口調で続ける。


「リッチモンド氏が亡くなられたのは今から2か月ほど前のこと。死因は溺死。ここ、ディグオンの町の自宅から王都まで、ひとりで馬車に乗って向かう最中に川に転落して溺れた、となっています」


 ハレルヤは、エレクセリアの手元の紙束に書いてあることを説明しているだけだが、エレクセリアの目は手元の紙束ではなくハレルヤの顔に向けられていた。


 自分で文章を読むよりも、目の前の青年に説明してもらうほうが頭に入ってくる、と思えたからだ。


「死因については溺死で間違いないでしょう。墓中のご遺体を確認(・・)しましたが、刃物傷などの目立った外傷はありませんでしたし、人間が窒息したとき特有の症状がいくつか見受けられました」


 もっとも、2か月前に亡くなって土葬された人間の遺体など見ても、普通は分かるはずもないことであるが。


 ハレルヤとクジラがお互いの力を合わせると、たとえ白骨化した遺体からでも、生前の様々な情報を読み取ることができる。


「目撃者はなし、とのことでしたが……、実は、あの現場の状況を見ているモノがいました」


「……! それは、どなたですか!」


「まぁ待ってください、順番にお話ししますから。今回の事件が発覚したのは、無関係の行商人が、川岸で横転した馬車と興奮した様子の馬を見つけたからでした」


 そのあたりの経緯は、エレクセリアも王都の警備隊に聞いたから知っている。


「行商人が気になって川岸に降りると、川の中ほどでうつぶせになって浮かんでいるリッチモンド氏を発見しました。その時点で、ディグオンの町よりも王都のほうが近かったので、そちらの警備隊に連絡したようです」


「その行商人の方が、実は何か見ていたというのですか?」


「いえいえ、この人は全く無関係でしょう。けど、現場には、馬車を引いていた()がいたわけですよ」


「え、それって……」


 ハレルヤは、この家の厩舎の方向を指し示した。


「事件当時リッチモンド氏が乗っていた馬車は、王都のゼニール商会が回収して処分しているようですが、馬については、2頭のうちの1頭はケガで処分されていて、もう1頭がここに帰ってきています」


「ハレルヤさん、貴方は……」


「まぁ、ざっくりお話しますと、僕は動物の記憶を読めますし、簡単な意思疏通もできます。そういう天恵(タレント)なり加護(ギフト)を持っているとだけ理解してください」


 実際はもっと色々なこともできるのだが、それはこの場で話すことではないので説明を省いた。


 それにハレルヤは、ライゼンやクジラに対しても、自分たちができる事をあまりエレクセリアたちに喋らないように言ってある。


 誰がどこで聞いているか、分からないからだ。


「馬は賢い動物です。2か月前のこととはいえ、きちんと覚えていました。馬車は襲撃されたのです。少なくとも5人以上の人間がリッチモンド氏を襲い、馬車を川岸に追い込んで横転させ、力ずくでリッチモンド氏の顔を川に沈めて━━、大丈夫ですか、エレクセリア嬢?」


 顔を青褪(あおざ)めさせるエレクセリア。

 祖父が殺されたと分かれば、やはり平静ではいられないようだ。


「……ふぅー。……大丈夫です、続けてください」


 エレクセリアは、深呼吸をひとつしてから、ハレルヤに続きを促した。


「馬は、襲撃者の顔や背格好までは覚えていませんでした。まぁ、馬からしたら人間の顔など見分けがつかないのでしょう。しかし、リッチモンド氏の馬車を襲ったときの様子は覚えていました」


 ハレルヤが、ちらりと部屋のドアを見た。


「走る馬車の横合いの茂みから現れて、何も言わずに襲ってきています。リッチモンド氏が馬車から出てきたときも、リッチモンド氏ともみ合いになっても、リッチモンド氏を殺害して立ち去るときも、誰も一言も発していないようです」


「それは、つまり……?」


「襲撃者は、誰何(すいか)することすらしませんでした。つまり、馬車に乗っていたのがリッチモンド氏だと、知っていた(・・・・・)わけです。さて、ここでエレクセリア嬢にお聞きしたいのですが」


 話を聞きながら、ライゼンはクレアベールを見ている。

 クレアベールは、表情を変えないままエレクセリアを見ていた。


「事件のあった道は、普段はリッチモンド氏が通らない道だとおっしゃっていましたよね?」


「はい」


「ディグオンから王都まではいくつくか街道がありますが、今回の道は最短距離を通るかわりに道幅が狭く険しい場所を通る道です。老人の1人乗り馬車なら、普通ならいくつかの町を経由して宿を取れる道を通るはずです」


 クジラは、難しい話はよく分からないので、分かったふうを装ってうんうん頷いている。


「それでもわざわざ野宿の可能性もある険しい道を通る理由は、なんだと思いますか?」


「……それは、よっぽど急いで王都に、」


「そうですね。ところで、ゼニール商会は国内有数の大商会だと認識していますが、商会の本店や支店には対話鏡はありますか?」


 対話鏡は、ダンジョン内でたまに見つかる遺物(アーティファクト)だ。二枚一対の鏡を通じて双方向に会話ができる。


「もっと言えば、王都のゼニール邸と繋がっている対話鏡が、この家にはありますか?」


「それは、……あります。お祖父様はすでに商会会長の座を父に譲りましたが、父もお祖父様に確認しなければならないことなどがあれば、対話鏡を使っていました」


「なるほど。そうなると、大抵のことは対話鏡を使えばやり取りができるわけです。それなのに、お祖父様がひとりで馬車に乗って、普段は通らない険しい道を通っていたとなれば、……それは、至急、直接王都に向かわねばならない何かがあったか、……何かがあった(・・・・・・)と言われた(・・・・・)か、でしょうね」


「っ……!」


 エレクセリアは、自分の心臓が痛いほど跳ねているのが分かった。

 ここまで言われて理解できないほど、エレクセリアもバカではない。


「……ハレルヤよ。つまり、どういうことなんだ?」


 クジラは理解できていないのでハレルヤに聞いた。

 というか一緒に調査をしたときにも説明を受けているが、全然理解していなかった。


「つまりだね、リッチモンド氏を襲撃した連中は、リッチモンド氏を至急王都に来てくれと呼び出せる人間に雇われていた可能性が高いってことだよ」


「んん? ……つまり?」


「普段からリッチモンド氏と対話鏡でやり取りをしていたのは、エレクセリア嬢の父親、ビリーオンズ・ゼニール氏だ」


 クジラが、さらに首を傾げた。


「それだと、エレクセリアさんのお父さんが、お祖父さんを殺したってことになるんじゃないのか?」


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