4話目・
◇◇◇
「おや、ライゼン君。ずいぶんクレアベール嬢と仲良くなったんだね」
夕方。
調査から帰ってきたハレルヤは、長テーブルの端と端に離れて座るライゼンとクレアベールを見て、楽しそうに言った。
「お前、どこに目を付けてんだ?」
「眉毛の下だけど?」
「ハレルヤ殿。今の貴方の発言には同意できない。ワタシはこの男とは欠片も仲良くなっていない」
「うんうん。仲良きことは善きことかな」
まったく話を聞いていないようなハレルヤに、クレアベールは口を閉じた。
何を言っても無駄だと思ったのだ。
「おかえりなさい。クジラさん、ハレルヤさん」
「エレクセリアさん、ただいま戻りました。これ、借りてた道具」
クジラは、肩に担いでいたツルハシや斧、シャベルなどを部屋の隅に立て掛けた。
「今日一日で色々分かったことがありました」
「ほんとうですか? お祖父様は、」
「あー、待ってください。そんなに慌てなくても、今日調べたことは、これに」
ハレルヤはそう言って、丸めた紙束を見せた。
内容は読めないが、どうやらこの紙に今日調べたことをまとめているらしい。
「少し早いですが夕食にしましょう。詳しいことは、食後にエレクセリア嬢のお部屋でお話しします。それまでは、はい、どうぞ」
ハレルヤは丸めた紙束を、クレアベールに手渡した。
「なぜワタシに?」
「クレアベール嬢が持っていてくれれば、例えば、誰かに奪われるということは起こり得ないでしょうから」
それはまるで、この紙束を誰かが奪いにくることを懸念しているかのような口振りだった。
自然とクレアベールの表情が厳しくなる。
「おい、クソアマに持たせとくぐらいなら俺が持っとくぞ。なんか心配だ」
「なんだと! これはワタシが任されたことだ、貴様なんぞに誰が渡すか!」
ライゼンの言葉に、クレアベールが言い返す。
ハレルヤがニッコリ笑って頷いた。
「ええ、ぜひクレアベール嬢にお願いします。ライゼン君も、それで良いよね?」
ハレルヤがあらためて言うと、ライゼンはつまらなそうにそっぽを向いた。
「さぁ、すみませんがエレクセリア嬢。夕食をごちそうになってもよろしいですか? もちろん、外で食べてこいと言うならその通りにしますが」
「いえ、ぜひご馳走させてください。皆様、食堂に行きましょう」
全員でぞろぞろと食堂に向かう。
その途中で、エレクセリアが呼び止められた。
「エレクセリア様、少々よろしいでしょうか」
「ピトレさん、どうされました?」
ピトレは、この家のハウスキーパーだ。
50歳代のふくよかな女性で、この家の大半の物事は彼女が差配している。
今日エレクセリアたちが着ている服も、彼女が用意したものだ。
「はい、少々気になる事がありまして。クレアベール様のお力をお借りしたいのですが、許可をいただけないでしょうか?」
「クレアベールを? なぜ?」
ピトレは申し訳なさそうにライゼンたちを見る。
あまり部外者には聞かれたく話なのだろうか。
「先に食堂に行っておきましょうか?」
ハレルヤが問うが、エレクセリアは首を振った。
「いえ、かまいません。ピトレさん、気になる事とは?」
「……実は、裏庭に見慣れない靴の跡がいくつか付いていまして」
「見慣れない靴跡、ですか?」
エレクセリアが眉をひそめた。
「はい、使用人のものとも、……そちらの皆様のものとも違うように思うのですが、確認をさせていただけないでしょうか?」
「皆様、よろしいですか?」
ライゼン、ハレルヤ、クジラの三人は、素直に靴の裏を見せる。
「やはりどれとも違います。もしかしたら、何者かが敷地内に立ち入っているのかもしれません」
「まぁ、そんな」
「敷地の内外を確認したいのですが、不審人物がいた場合に備えてクレアベール様にご同行を願いたいのです」
エレクセリアはクレアベールに視線を投げた。
「クレアベール。お願いできますか?」
「了解しました。ピトレ殿とともに確認してきます」
頷き、ピトレに着いていくクレアベール。
ふたりの後ろ姿を見送ったハレルヤが、
「不審者かぁ、怖いねぇ」
と呟いた。




